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未来
「再会」*奏斗
しおりを挟む少しして、椿先生の居る方の席がわっと沸いた。何気なくそちらを見たら、四ノ宮が、見えた、ような。
「え」
……幻覚かと思った。あまりに顔が見たいから、見えたのかと。数秒見つめて、本物だと認識した時。
「四ノ宮、家族と海外だったんじゃないの?」
オレのしたかった質問を、先輩が言ってくれた。すると、四ノ宮は、ふ、と苦笑しながら。
「これに出たいから先に帰ってきちゃいました」
なんて、冗談めかして答えてる。
「えーマジで? このために帰ってきたの?」
「そんなにここが好きなの?」
皆がめちゃくちゃ盛り上がったまま、四ノ宮を座らせて、まあ飲め飲め、と笑う。
「オレ、まだ飲めませんって」
「いっぱいぐらいいーじゃん」
盛り上がりかけた周囲を、椿先生が「だめですよ」と、笑顔で制した。
「じゃあ飲み物、頼みな?」
「食べ物も好きなの頼んでいいぞー」
先輩達が楽しそうに言うのに、四ノ宮は、笑って答えてる。
――――少しの間だけ見ていたけれど、四ノ宮は、こっちは見なかった。
多分、今までなら、絶対目があったと思うけど……でも、これも、どうしようもないことなんだと思う。
「四ノ宮、帰って来たんだね。なんかすごい盛り上がってるなー」
小太郎がクスクス笑って、言ってくる。
「そうだね」
頷いて、小太郎側に視線を向けて、四ノ宮が視界に入らないようにした。
――――四ノ宮を見た瞬間、泣くかと思った、オレ。
あの日別れて、それから、一度も会わなくて。
ずっと。……あれでよかったと思ってて。色んな友達と、楽しいことだけしていたし。
和希や父さんともちゃんと話せて、今まで困っていたことがなくなって――――すごく、楽しく、過ごしていた、はずなのに。
四ノ宮の顔を見た瞬間。
胸の奥がぎゅ、と痛くて。
ああ、オレ、四ノ宮にすごく会いたかったんだって。
思ってしまった。
目が合わなくて、寂しいなんて、思う権利がないのは分かってるのに。
切なくて、息がうまく、出来ない気がする。
「これ、おみやげです。むこうでおいしかったチョコレート。回してください」
そんな声がして、おお~と騒ぐ先輩たち。まもなく、チョコの箱が回ってきた。
「ユキ、チョコだってさ。おいしそうだよ」
「あ、うん」
「ほれ取って」
「うん」
綺麗に包装されたチョコをひとつ取ると、小太郎がそれを隣の人たちに回していく。
「わざわざおみやげとか買ってくんの、四ノ宮らしいよな。ほんといい子だねぇ……」
ちょっとふざけた言い方で言って、クスクス笑う小太郎に、ん、と微笑んで見せる。
四ノ宮がいい奴で、誰より優しいのは――――多分オレが、一番、知ってる。
……知ってるけど。
「――――」
でも。四ノ宮のことが好きなのを思い知ったからって、今の状況の何かを変えたい訳じゃない。
こんなに好きだったのは予想外だったけど。結論は変わらない。
四ノ宮の未来に、オレは居ない方がいい。
そう思うのは、変わらない。なのに。
なんでこんなに、苦しいんだろ。
もう会わなくなって、結構経つのに。……どうしてこんなに。
……でもダメだ。
ここで体調悪いとか、元気ないとか、見せられない。
四ノ宮が来てしまったからには、もう、オレは超元気に、明るく笑顔でいないと。
四ノ宮のこと気にしてるそぶりなんて見せちゃだめだ。
一緒に帰る訳にはいかないから……四ノ宮が帰るなら二次会に出るし、四ノ宮が二次会行くなら、オレは帰ろ。
よし。とにかく、ここはあと二時間くらいかな。がんばろ。考えるのは、一人になってからにしなきゃ。
「――――」
景気づけに、目の前にあったドリンクを手に取って、ぐい、と飲み干した。
しばらく小太郎や周りの人達と、普段より元気な位で話してると、不意に小太郎に「あれ? ユキ、顔赤くない?」と聞かれた。
「ん?」
……そういえば、さっきからちょっと顔が熱いような? あれ、オレ、熱出てる?
熱出たなら、帰れるかな。四ノ宮のこと関係ないもんね、熱なら。
そんなことを考えていたら、向いに座っていた先輩が「ん?」と言いながら、オレとグラスを見比べ始めた。
「なん、ですか??」
「え、ユキ、もしかして、ここにあったオレのモスコ、飲んだ?」
「ジンジャーエールは飲みましたけど?」
「ジンジャーエールはこっちだろ。オレのは、酒……嘘だろ?」
……ジンジャーエールの酒って……前にもそれ、飲んだような。
そんなことを思いながら、ふらと揺れた時。後ろ、誰かに頭がぶつかってしまった感覚。
「あ、ごめ……」
謝りながら、ぶつかった人を振り返ったら。そこに立っていたのは四ノ宮で。オレの頭がぶつかったのは、四ノ宮の脚、だった。心臓が、飛び跳ねるみたいにどきっとした。
「信じらんない。またその酒ですか……」
四ノ宮の呆れた声がして。オレを見下ろす、呆れた表情。
隣でクスクス笑ってる小太郎に、視線で助けを求めてしまう。……それは全然小太郎には伝わらないけど。
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