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未来
「ただいま」*奏斗
しおりを挟む月を見上げながら、久しぶりに歩くわが家への道。
感傷的になってるのかも。
少し足を速めて歩いた。家に辿り着いて、インターホンを鳴らすと、その瞬間に玄関が開いた。驚いてると、母さんが出てきた。
「お帰りなさい」
笑顔で迎えられて、ただいまと言いかけて、不意に涙ぐんでしまった。
――やば。泣いてる場合じゃないのに。
「おかえり、カナ」
真斗が出てきて、「何泣いてんの」とクスクス笑いながら、背中を押してくる。「泣いてないし」と言うと、苦笑される。
ぐし、と涙を拭いてから、オレは家に入った。父さんはリビングのテーブルに座っていた。ちょうど夕飯が終わったところ、みたい。
テーブルに、父さんと、その向かいにオレ。母さんと真斗は、少しだけ離れたキッチンのカウンターのところに立った。
「久しぶりだな……」
「……うん。元気? 父さん」
「ああ」
父さんは、オレを見て、頷く。
「父さん、オレね、中学位から恋愛対象が男だって、気付いたんだ。……あの時は別れたばっかりで……説明も全然できなかったけど……」
「――――」
少し下を見ていたオレは、父さんを、見つめ直した。
「ちゃんと人を好きになって、一緒に居たい人と……しっかり、生きてくつもりだから」
「――――」
「頑張って生きるつもり。……父さんには、理解してもらえないかもしれないけど……」
オレの言葉を黙って聞いていた父さんは、少しして、分かった、と言った。
……分かった?? つい、首を傾げる。少し離れてに立ってた、母さんと真斗も、顔を見合わせてるのが分かる。
少しの沈黙の後。
父さんは、オレを見つめた。
「まだ、完全に理解ができたとは言えないが――――お前がちゃんと生きてくのを、見守ろうとは、思う」
「父さん……?」
「……子育ては、母さんに任せっぱなしだったが……一応、親だからな」
父さんのセリフに、オレが反応するより早く、母さんが、ふ、と笑った。
「一応って、何ですか」
母さんが少し不満げな表情で言う。でもちょっと、嬉しそう。……というか、泣いてる、かも。
「夏休みなんだろ。泊っていけばいい」
「え……いいの?」
父さんの言葉に、思わず聞き返してしまったら。
「奏斗の家だろ」
と、ぶっきらぼうな言い方で、答えが返ってきた。
「――親父、見損なってたけど、見直したかも」
真斗が失礼なのかなんなのか分からないことを言った後、はは、と笑って、オレの腕を掴んだ。
「カナ、オレの部屋で寝よ」
「え」
「布団、出そ」
引っ張られるまま、階段を上りながら振り返った最後で、父さんが少し笑った顔が見えた。
隣に、母さん。
……あ、なんとなく。オレと真斗、ここに居ない方がいいのか、と思って、真斗の後をついて二階の真斗の部屋に入った。
「離婚まで出した母さんの勝ちって、感じ。――――親父も、一応、家族大事には思ってるってことが分かって、良かったよな」
「一応って……」
「自分でも一応って言ってたし」
「確かに言ってたけど」
二人で苦笑い。
「多分まだちゃんと理解はできてねーんだろうけど。頭かたそーだし。でも、頑なだったのを歩み寄ったのは確かだと思う」
「……うん」
「一年半もかかってるけど」
「……ん。だね」
またまた苦笑いで顔を見合わせる。
「とにかくさ」
「ん?」
「おかえり、カナ」
「……ただいま、真斗」
二人で顔を見合わせてクスクス笑ってしまう。
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