【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

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未来

「大きな月」*奏斗

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 部活の集まりの帰り。
 改札のところで、皆と別れて、真斗に電話をかけた。

 皆と楽しく話しながら、ふと気付いた。
 オレが、もう一つ。自分でどうにかしなきゃいけないことがあるってことに。
 高二のあの時から、完全に止まってしまった、家族の時間。

「あ、真斗? ……今、父さん、居る?」
『うん、居るよ。……どうしたの?』
「悪いんだけど。父さんに話があるって、言ってみて。聞いてくれる気があるか」
『どんな話?』
「オレのこと。……今までと。これからのこと」
『ん、分かった。少し待ってて。掛けなおすから』
「あ。喧嘩、しないでね。話す気がないなら、また日を改めるだけだから。時間がかかるのは、もう分かってるから」
「分かってるって。待ってて」

 苦笑いの真斗との電話が切れる。

 和希と話せた勢いで、話してしまいたかったけど。
 父さんは無理、かな。
 理解が追い付かないんだろうな……そういう人が居るのも、仕方ないとは思うから。
 気長に、いくしかないよね……。
 
 少しして真斗からの、着信。

「もしもし、真斗。ごめんね、怒られなかった?」
『平気。親父、聞くって』
「え?」
『ん?』
「……真斗、何か言ったの? 怒ったとか、すごい文句言ったとか……??」
『なんだよそれ。してないよ』

 真斗がクスクス笑う。

『ていうか、オレじゃなくて、母さんが、したみたい』
「え?」
『ずっと言ってたみたい。奏斗と話してって。こないだのおみやげ、カナ、駅まで届けに来たのに家に来なかったでしょ。それを聞いて、母さん、離婚も考えてるって親父に言ったらしいよ』
「え゛??」

『息子を分かろうともしてくれない人とは居られないとか、言ったらしい。今、親父が言ってた』
「――――母さんが……そうなんだ……」

 ……あの母さんが、離婚、とか。
 そんな話をしてくれるくらい、オレのこと、気にしてくれてたんだ……そっか。

 ……何だか、気を抜いたら、涙がでそう。

『だから、おいでよ。今、どこなの?』
「二十分くらいでつく」
『じゃあ待ってる』
「でも……実際話したらまた修羅場になるかも……迷惑かけたら、ごめんね」

 つい、先に謝ってしまうと、真斗は苦笑を含んだ声で言った。

『そういうのは迷惑とかじゃないし。てか、母さんが味方で今回本気っぽいから、親父もすこしは聞くと思う」

『……真斗、オレね」
『ん』
「今日、和希と二人で会ったんだ。その後、部活の集まりもいった」
『――そうなの?』
「うん。……心配、掛けてごめんな。オレ、もう、平気そう」
『良かったね』
「うん。父さんとも、ちゃんと話せたらいいけど……」

 そう言いながら、改札を通って、ホームに向かって歩いていると、真斗が電話越しに笑った。

『やっぱりカナ、好きな人居るだろ』
「……何で?」
『失恋は、恋すると和らぐしさ。あと、好きな人居ると、強くなるよね』
「……何それ。経験あるの?」
『あるよ。それなりに。好きな子が、先輩と付き合ったりさ。まあ、オレも色々あるよ』
「え、そうなの? 全然聞いたことないじゃん」

 真斗はバスケ一筋なのかと思ってた。って、そうか。それなりに、ちゃんと恋とかしてたんだ。
 と、なんだか弟の成長に、感動していると。

『……なんとなくカナに、恋の話とかはすんのタブーだと思ってた』

 苦笑いの真斗に、オレも、かなり困り笑い。
 ……ていうか、そうだった。真斗の方がよっぽど大人だったっけ。

「ごめんね、気、使わせて」
『いいよ。これからはするかも。……とりあえず、待ってる』
「うん」

 真斗との電話を切って、実家に向かう電車に乗り込む。

 ――――父さんと話す。それどころか、実家に帰るのも、一人暮らしを始めて以来。
 正直、すごく緊張するけど。

 ……オレのせいで離婚とかは、困るけど。……それ位の気持ちで、母さんが父さんに言ってくれてたんだと思うと、じわ、と熱くなる。

 ああ、これも、四ノ宮に、話したいな。

 ……言えなくしたのは、自分だってことも、分かってる、のに。

 何か嬉しかったりすると、四ノ宮に話したいなって、思っちゃうのは。
 ……どうしようもないみたいで。

 電車を降りて、歩き出すと、目の前に見える月が、とても大きく見える。


「――――」


 四ノ宮と、こんな感じのでっかい月、見ながら歩いたこと、あったなぁ。

 でっかいねってオレが騒いでたら、錯覚ですよ、とか言われたっけ。まだ敬語で、話してた頃だ。
 錯覚じゃつまんないって、オレが文句言ってたら。四ノ宮、何て言ったんだっけ……。

 ……あ、思い出した。

 月が昨日食べ過ぎたんじゃないですか? とか……。
 絵本にでも出てきそうなこと、言ってくれたんだっけ。

 懐かしいな。
 ……あのままの関係で。楽しく居られたら。……今も話せてたかなあ。

 まあ、大体にして。醜態さらしまくった、オレが全部いけない気がするから無理だろうけど。

 ……何で四ノ宮には、最初っから全部、晒しちゃったんだか。
 泣いたり怒ったり。……襲われそうになったりして、あんな迷惑ばっかりかけたのに。

 なんで、今浮かぶのは、四ノ宮の笑顔ばっかりなんだろ。
 ……いっつも、オレに、笑顔、向けてくれてたってこと、だよな。


「……でっか、月」


 月を見上げていたら、思わず漏れた声は。
 ……なんだか少し、震えた。




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