459 / 557
未来
「大きな月」*奏斗
しおりを挟む部活の集まりの帰り。
改札のところで、皆と別れて、真斗に電話をかけた。
皆と楽しく話しながら、ふと気付いた。
オレが、もう一つ。自分でどうにかしなきゃいけないことがあるってことに。
高二のあの時から、完全に止まってしまった、家族の時間。
「あ、真斗? ……今、父さん、居る?」
『うん、居るよ。……どうしたの?』
「悪いんだけど。父さんに話があるって、言ってみて。聞いてくれる気があるか」
『どんな話?』
「オレのこと。……今までと。これからのこと」
『ん、分かった。少し待ってて。掛けなおすから』
「あ。喧嘩、しないでね。話す気がないなら、また日を改めるだけだから。時間がかかるのは、もう分かってるから」
「分かってるって。待ってて」
苦笑いの真斗との電話が切れる。
和希と話せた勢いで、話してしまいたかったけど。
父さんは無理、かな。
理解が追い付かないんだろうな……そういう人が居るのも、仕方ないとは思うから。
気長に、いくしかないよね……。
少しして真斗からの、着信。
「もしもし、真斗。ごめんね、怒られなかった?」
『平気。親父、聞くって』
「え?」
『ん?』
「……真斗、何か言ったの? 怒ったとか、すごい文句言ったとか……??」
『なんだよそれ。してないよ』
真斗がクスクス笑う。
『ていうか、オレじゃなくて、母さんが、したみたい』
「え?」
『ずっと言ってたみたい。奏斗と話してって。こないだのおみやげ、カナ、駅まで届けに来たのに家に来なかったでしょ。それを聞いて、母さん、離婚も考えてるって親父に言ったらしいよ』
「え゛??」
『息子を分かろうともしてくれない人とは居られないとか、言ったらしい。今、親父が言ってた』
「――――母さんが……そうなんだ……」
……あの母さんが、離婚、とか。
そんな話をしてくれるくらい、オレのこと、気にしてくれてたんだ……そっか。
……何だか、気を抜いたら、涙がでそう。
『だから、おいでよ。今、どこなの?』
「二十分くらいでつく」
『じゃあ待ってる』
「でも……実際話したらまた修羅場になるかも……迷惑かけたら、ごめんね」
つい、先に謝ってしまうと、真斗は苦笑を含んだ声で言った。
『そういうのは迷惑とかじゃないし。てか、母さんが味方で今回本気っぽいから、親父もすこしは聞くと思う」
『……真斗、オレね」
『ん』
「今日、和希と二人で会ったんだ。その後、部活の集まりもいった」
『――そうなの?』
「うん。……心配、掛けてごめんな。オレ、もう、平気そう」
『良かったね』
「うん。父さんとも、ちゃんと話せたらいいけど……」
そう言いながら、改札を通って、ホームに向かって歩いていると、真斗が電話越しに笑った。
『やっぱりカナ、好きな人居るだろ』
「……何で?」
『失恋は、恋すると和らぐしさ。あと、好きな人居ると、強くなるよね』
「……何それ。経験あるの?」
『あるよ。それなりに。好きな子が、先輩と付き合ったりさ。まあ、オレも色々あるよ』
「え、そうなの? 全然聞いたことないじゃん」
真斗はバスケ一筋なのかと思ってた。って、そうか。それなりに、ちゃんと恋とかしてたんだ。
と、なんだか弟の成長に、感動していると。
『……なんとなくカナに、恋の話とかはすんのタブーだと思ってた』
苦笑いの真斗に、オレも、かなり困り笑い。
……ていうか、そうだった。真斗の方がよっぽど大人だったっけ。
「ごめんね、気、使わせて」
『いいよ。これからはするかも。……とりあえず、待ってる』
「うん」
真斗との電話を切って、実家に向かう電車に乗り込む。
――――父さんと話す。それどころか、実家に帰るのも、一人暮らしを始めて以来。
正直、すごく緊張するけど。
……オレのせいで離婚とかは、困るけど。……それ位の気持ちで、母さんが父さんに言ってくれてたんだと思うと、じわ、と熱くなる。
ああ、これも、四ノ宮に、話したいな。
……言えなくしたのは、自分だってことも、分かってる、のに。
何か嬉しかったりすると、四ノ宮に話したいなって、思っちゃうのは。
……どうしようもないみたいで。
電車を降りて、歩き出すと、目の前に見える月が、とても大きく見える。
「――――」
四ノ宮と、こんな感じのでっかい月、見ながら歩いたこと、あったなぁ。
でっかいねってオレが騒いでたら、錯覚ですよ、とか言われたっけ。まだ敬語で、話してた頃だ。
錯覚じゃつまんないって、オレが文句言ってたら。四ノ宮、何て言ったんだっけ……。
……あ、思い出した。
月が昨日食べ過ぎたんじゃないですか? とか……。
絵本にでも出てきそうなこと、言ってくれたんだっけ。
懐かしいな。
……あのままの関係で。楽しく居られたら。……今も話せてたかなあ。
まあ、大体にして。醜態さらしまくった、オレが全部いけない気がするから無理だろうけど。
……何で四ノ宮には、最初っから全部、晒しちゃったんだか。
泣いたり怒ったり。……襲われそうになったりして、あんな迷惑ばっかりかけたのに。
なんで、今浮かぶのは、四ノ宮の笑顔ばっかりなんだろ。
……いっつも、オレに、笑顔、向けてくれてたってこと、だよな。
「……でっか、月」
月を見上げていたら、思わず漏れた声は。
……なんだか少し、震えた。
91
お気に入りに追加
1,686
あなたにおすすめの小説
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる