【初恋よりも甘い恋なんて】本編完結・番外編中💖

悠里

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きづいたら

「なんでか」*奏斗

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 木曜と金曜は、四ノ宮と一緒に夕飯を食べたけど、抱かれるのは回避した。そういうこと無しで、たまにご飯を食べる関係じゃダメなのかなと思ってしまうのは、オレが四ノ宮と居るのが楽しいからだってことは分かってる。
 断って、離れたくないんだと思う。

 でも、好きだと言ってくれてる四ノ宮にそれを求めるのは絶対違う気がして、ならやっぱり、受け入れるか断るか、それしかないんだけど。

 どっちがいいかはもう、分かってて。それなのになかなか、四ノ宮に伝えられない。もう、ほんとなんだかなあ、オレ……なんて思いながら、オレは駅の時計を見上げた。

 今日は土曜日。朝、四ノ宮とご飯を食べてから、実家の駅に来た。真斗の部活が午前中だけあるってことだったので、十二時半に駅で待ち合わせて、おみやげを渡す約束をしていた。四ノ宮はついてくるって言ってたけど、そのまま友達の家に行く予定だからと断って別れてきた。なんかブーブー言ってたなと、苦笑いが浮かびそうになる。

 十二時半が近づいた時、真斗からのメッセージが届いた。

『ごめん、電車乗り遅れちゃって、少し遅れる』
「大丈夫。待ってる」と返した時、四ノ宮からもメッセージが届いた。

 『奏斗、今日泊まらないで帰ってきてもいいからね』なんて一言と、グーサインが届いてる。泊るって言ってるのに、なんかずっとおなじこと言ってるし。なんて返そうかなと、苦笑してしまいそうになったその時。

「……カナ?」

 この声と、呼び方。――瞬間的に、強張った。
 恐る恐る、スマホから顔を上げると、案の定そこに居たのは。

「かずき……」

 ……ああ、なんで、会っちゃうんだろ。
 油断してた。ほんの少しだけだし、会わないだろうって。

「カナ」

 和希が、オレの方に一歩進んだ時、オレは咄嗟に一歩、下がってしまった。
 すると、和希は進むのを止めた。
-
「――――カナ」

 もう一度呼ばれて。どく、と心臓が震える。次に何を言われるのか、怖くて。手が、冷たい。血が通ってないみたい。……もう、逃げてしまおうかと思いながら、スマホを握り締めた瞬間。
 ――――何でなのか、ふっと四ノ宮の姿が浮かんだ。

 ふわ、と包まれるみたいに。
 大丈夫だよ、と言ってくれてる四ノ宮の声が聞こえたような気がした。

 和希と会って、ドクドク動いてた心臓が急に、ゆっくりになった気がして。体に入ってた力が、ふ、と抜けた。
 そのおかげで、何とか視線を上げられて、目の前の和希の顔を見ることができた。

 こんな顔、してたんだっけ。してた、かな。
 ……でも別れた時より、大人っぽくなった気がする。二年経つし。高校生でもないし、当たり前、か。

「げんき……?」

 不思議と普通な感じで、その言葉がオレの口から洩れた。和希は、驚いた顔をしてから、少し唇を噛んで、ゆっくり頷いた。「カナは?」と躊躇いがちに聞かれて、ん、と小さく頷いた。
 その時。走ってくる足音がして、「カナ」と呼ばれた。焦った顔で現れた真斗が、オレを背中に隠すみたいに、和希とオレの間に立つ。

「カズくん」
 少し責めるような口調で言った真斗。オレはその腕を、引いた。

「真斗、大丈夫、だよ」
「カナ……でも」
「大丈夫だから」

 それでもまだ退かない真斗の隣に、オレは一歩進んで並んだ。
 視線を和希と合わせると、和希は、ゆっくり口を開いた。

「カナ、もし……オレと話す気があったら」
「……ん」
「電話してほしい」

 少し前だったら。話すことなんてないって、言ったかもしれない。……それどころか、顔も見られずに、さっきの時点で逃げたかもしれない。
 でも、なんだかオレは、大丈夫で。――――和希を、見つめ返すことが、できた。

「ん……分かった」

 小さく頷くと。和希は少しだけ笑って見せてから、真斗に向けて、ごめんと言って、背を向けた。
 和希の姿が見えなくなってから、真斗は心配そうにオレを振り返った。

「大丈夫? カナ、ごめん、オレが遅れたせいで……ていうか、別の駅で待ち合わせればよかった」
「あ、うん……。それが、なんでか……結構平気で。オレもびっくりしてるんだけど」

 そういえばさっき出会った直後、かなりやばくなりそうだった時。
 四ノ宮が、浮かんだら、楽になったっけ……。







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