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きづいたら

「スーツって」*奏斗

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 なんとなくそこで会話が切れると、四ノ宮のお父さんに言われたことも浮かぶ。なんだか疲れた気がして、窓の外を見たまま、少し黙っていると。

「疲れた?」
 四ノ宮が聞いてくる。

「ん。慣れないから。……でも楽しかったよ。色々美味しかったし」
「ああ。葛城が選んでるしね」
「お口にあってよかったです」

 葛城さんの言葉に、はい、と笑って、また少し黙ると、四ノ宮は「着くまで休んでていいよ」と言って、オレの肩をぽんぽんと叩く。その言葉に甘えることにして背もたれに寄りかかったまま、流れていく外の景色を見つめる。

 マンションの駐車場で降ろしてもらって、葛城さんにお礼を言って別れた。車が見えなくなるのを見送って、二人きりになると、なんとなく、四ノ宮を見上げた。

「スーツって、違う人みたいに見えるね」
「奏斗もだよ」
「四ノ宮は堂々としてるから……社会人って言われても、ああそう、て思うかも」
「老けて見える? オレまだ十八だけど?」
「んー、大人っぽい、かな?」
 エントランスに向かって歩き出しながら、笑いながら話す。

「親父も母さんも、奏斗のこと褒めてたよ。本当に似合うって。また別のも着てみてほしいって」
「似合うっていうのは、嬉しいけど」
「色んな人に話しかけられて褒められてたでしょ、奏斗」
「うーん……なんとなくオレを通して、お前と仲良くしたかったんじゃないのかなって思ったけど」
「それだけじゃないと思う」
「そうかなぁ……」

 エレベーターを降りて、荷物の中から鍵を探しながら部屋に向かう。

「家でこれ脱ぐけど……ほんとにもらっちゃっていいのかな?」
「だって奏斗に合わせて作ったんだし」
「そっか。ん。ありがと――――じゃ、ね?」

 四ノ宮の部屋を通りすぎて、自分の部屋に戻ろうとしたのだけれど、待って、と腕を掴まれた。
 そのまま、鍵を開けた四ノ宮の家に連れこまれる。

「えと……何?」
「オレ、親父に会わされた子、断ったからね。急に会わされて驚いたけど」
「――――あぁ。うん。聞いた」

 そう言うと、四ノ宮は、ん? と不思議そう。

「四ノ宮のお父さんに、聞いた。好きな人が居るって、言われたって言ってた」
「あ、そうなの? 他何か言ってた?」
「んー……あの子には、諦めてもらおうって話してたって」
「そんなの話してたんだ。……うん。そうなったから」
「ん。分かった」

 本当は、オレにそれを言わなきゃいけないってこともないんだけど。
 ……でも、二人になったらすぐ言ってくれるんだな、とも思っていると。

 腕を軽く掴まれて引き寄せられて、四ノ宮を下から見上げた。

「何……?」
「オレ、スーツ着てる奏斗に、触りたくて」
「――――っ何言ってンの?」
「ずっと、キスしたくてさ」
「……だから着替えないで帰るって言ったの?」
「つか、スーツ姿、すげーそそるんだもん」

 腰に腕を回されて、きゅ、と抱き寄せられる。
 そんな言い方が恥ずかしくて、顔が熱くなるけれど。

「……あの、さ、四ノ宮」
「ん?」

「……オレ達、さ」
「うん」

 さっき車の中からずっと、考えていたことを言葉にしてみた。

「――――友達、じゃダメ?」
「……ん?」

 四ノ宮は、首を傾げて、オレを見下ろす。

「だから、こういうこと無し、で友達――――」

 まだ話し途中の唇に、四ノ宮の唇が重なってきた。

「……っ……」

 舌がすぐに入ってきて、中で動く。「ん」と声が漏れると、四ノ宮の舌が上顎の裏を、なぞる。

「んンっ……ぅ……ふ……」

 体がかぁっと熱くなって、頭に血が上って、すぐに息があがる。
 四ノ宮の本気のキスは、いつも、こんなで、こうなると、もう無理。

「……ふ、ぁ……っ」

 顎を押さえていた手が外れて、する、とシャツの上から胸を撫でる。先端を掠めるたびに、ぞく、として、涙が滲む。


「友達は無理……オレ、奏斗が好きだから」

 耳元で囁かれると、びく、と体が震える。ぎゅ、と目を閉じるけれど、耳の中に舌が入ってきて、あ、と体に力が入る。
 体の熱が、どんどんあがっていく。




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