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きづいたら

「本気なら」*奏斗

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 四ノ宮のお父さんが静かに、ふ、と微笑んで、「そうそう、雪谷くん」と改めてオレの名前を呼んだ。不思議に思いながらも、はい、と返事をする。

「こないだのたこ焼きの時に言ってた話なんだけど。大翔を気に入ってる友人の娘に、さっき会わせてみたんだよ。……そしたら大翔、何て言ったと思う?」
「――――」

 さっきから気にしていたことだったけれど、それをオレにわざわざ聞く意味の方が、気になる。なんだか少し緊張して、見つめ返すと。
 
「すごく好きな人がいるから、ってはっきり断られた」

 四ノ宮のお父さんはクスッと笑って、「あれはもう、諦めてもらうしかないなって、友人とも話したよ」と言う。
 何となく複雑な気持ちで聞いていると、四ノ宮のお父さんが、オレをじっと見つめた。

「大翔のその気持ちが本気なら、認めようかなと思ってるよ。……もし、相手の子も、本気ならね」

 その視線と言い方。――少し困って、四ノ宮のお父さんを見つめ返すと。

「あなた、そんなの、当たり前じゃない」

 隣でクスクス笑う四ノ宮のお母さん。
 そうだな、当たり前なことを言ったね。と四ノ宮のお父さんも笑っている。

 四ノ宮のお母さんは多分何も知らなくて一般論を言っていて、お父さんは、オレと四ノ宮のことを、何かしら分かって言ってる。そんな気がした。

 四ノ宮、何か、言ったのかな。それとも、鋭いだけ、かな。
 オレが何て答えようかと、四ノ宮のお父さんを見つめ返すと。

「まあ大翔は、今は片思いだって言っていたから、きっと今、アプローチ中なんだろうとは思うけど」
「――――」
「でもその内、二人が本気だっていうなら、またこの話をすることもありそうかなと思っててね。――――いつか、の話だけど」

 穏やかに笑う四ノ宮のお父さん。
 はっきり分かってるにしても、分かってないにしても、どちらにしても考え方が柔軟で、素敵な人なんだろうなと思いながらも……何て返したらいいか分からない。
 でも何か言わないとと、口を開きかけた時。四ノ宮が戻ってきて、言った。

「奏斗、デザートもあるし、あっちで一緒に食べよ? 色々あって運んでくるの大変」
 そんな風に言いながら、四ノ宮が、戻ってきた。

「食べてきて。おいしいデザートを葛城が揃えてるから」

 四ノ宮のお父さんがにっこり笑ってそう言うのと、四ノ宮がオレの腕を引いて、「行こ」と言うのが同時だった。四ノ宮のお父さんと目を合わせると、頷いて微笑まれる。

 四ノ宮が来なかったらオレ、何て言おうとしてたんだろ。
 ――――でも、多分今、オレが答えられることは何もない、のだと思う。小さくお辞儀をして、オレを引っ張る四ノ宮に視線を移した。

「引っ張んなくても行くって」
「ん。潤がめっちゃおいしいから、奏斗と食べたいってさ」
「あ、潤くんが」

 歩き出しながら、ふ、と微笑んでしまう。
 会うの二回目、しかも短い時間なのに、めちゃくちゃ懐いてくれるの、ほんと可愛い。

「奏斗、潤にめちゃくちゃ優しい顔するよね」
「え。……だって、可愛いじゃん」
「オレにしてくれてもいいんだけど、その顔」
「え……ちょっとていうか、絶対無理かも」
「何で」
「え、だって、潤くん、小さくて可愛いし」
「オレもかわい……くはないかもだけど」

 ぬぬ、とちょっと悔しそうに言いなおしてる四ノ宮に、ぷ、と笑いが漏れてしまう。

「……さっきまでの四ノ宮と、違うね」
「ん?」
「さっきまでは、ちょっと知らない奴、みたいだった」
「そっち、取り繕ってる顔だから。今が素だよ」
「取り繕ってるって感じには見えなかったよ。……すごいなーと思った」

 そう言うと、四ノ宮は少し黙って、それから、ふ、と嬉しそうに笑った。

「奏斗と並べたのが、オレは一番嬉しかったけどね」

 そんなことを平気で言って、オレの言葉を奪いながら、違う部屋のドアを開けて、どうぞ、とオレを通した。






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