上 下
438 / 551
きづいたら

「ちっちゃい版」*奏斗

しおりを挟む


 潤くんが、くりくりの瞳で見上げてくる。

「ユキくん、疲れちゃった?」
「ううん、ごめんね。いっぱい話しかけられてびっくりしてるとこ」
「ユキくん、かわいいからだねー」
「可愛い?」

 ぷ、と笑いながら、可愛いのは潤くんだよ~と撫でると、「カッコいいがいい」と、口を尖らす。
 オレには可愛いって言うのに? と笑ってしまいながら。

「潤くん、食べてて良いよ。あと少し食べ物と飲み物も持ってくるね?」
「うん」
「すぐ戻るから座っててね?」
「待ってるー」

 潤くんを席につかせてオレが料理を適当に選んでいると、隣に立った女の子が、きゃ、と小さく声を上げた。
 え、と思って目をやると、並んでいた飲み物をこぼしてしまったみたいだった。

「大丈夫ですか?」
 テーブルの端にあったペーパーナフキンを女の子に差し出すとともに、少し離れた所にいた給仕の人を呼んで、その旨を伝えると速やかに拭いて片付けてくれた。
 ドレスについた飲み物を拭き終えて、女の子が顔を上げる。

「びっくりした。ありがとうございました」

 オレを見て、ちょっと焦った顔で、にっこり笑う。
 めちゃくちゃ可愛い子だなーと思いながら、いいえ、と答える。

 女の子に興味なくても、ちょっと見てしまうくらい、可愛い。

「ドレスが引っかかっちゃって焦りました」
「ドレスは大丈夫そうですか?」
「はい。色のついてる飲み物じゃなくて良かったです」

 ふふ、と笑って、それからふとオレを見て、にっこり。

「大翔さんのお友達ですよね? スーツ、すごくお似合いですね」
「あまり着慣れてないのですけど」
「そんなこと無いですよ、このブランド、本当に素敵ですし。似合ってらっしゃって素敵です」

 嫌味なく、心底褒めてるといった感じの笑顔。
 ほんとに可愛い子だなぁ、と思いながら、ありがとう、と笑んだ時。

まい? どうかしたのか?」

 そんな風に言いながら現れた男の人を、「あ、お父さん」と言って、彼女が笑顔で見上げた。

「うん、飲み物、ドレスでひっかけちゃって……助けて頂いたの」
「そうなんだね。それはありがとう」

 微笑みながらお礼を言われて、オレも笑顔で、いいえと返した。すごく品の良い感じのお父さん。「紳士」って言葉って、こういう人のためにあるのかなーなんて咄嗟に思う。ああ、四ノ宮のお父さんに雰囲気が似てるかも。落ち着いてて、とても優しい感じ。と思った時、その人の向こうに、おーい、とばかりに手を振ってる潤くんが目に入った。笑顔で手を振り返すと、二人はオレの視線の先を追って、ふ、と笑んだ。

「大翔くんのお姉さんの子だね。あのスーツ可愛いね」
「うん。すごく可愛い」

 二人がクスクス笑う。
 あ、色々四ノ宮家と知り合いなんだな。ちょくちょくパーティーに出てるって言ってたし会う人たちなら、当たり前か。

「待ってるので、行きますね」
「あ、はい。ありがとうございました」

 ニッコリ笑顔がまた可愛らしい感じ。オレも笑い返して、その子のお父さんにも軽く一礼して、その場を離れた。潤くんのもとに戻って、テーブルにジュースと食べ物の皿を置いた。

「お待たせ、ごめんね」
「ううん」

 可愛い笑顔で、首を振る。

「誰とお話してたの?」
「飲み物をこぼしちゃった人が居て、その人とお話してた。ごめんね、待たせちゃって」
「ううん」

 ぷるぷる首を振って、潤くんは微笑む。
 潤くんの隣に座って、一緒に食べながら、パーティーに目を向ける。

 うーん。ほんと、別世界だなぁとまた改めて思う。
 楽しい気もするけど、いつもの日常とは、全然違うから、不思議な感じ。

「潤くんて、こういうパーティーよく出るの?」
「うん。でも、おるすばんもするよー」
「そうなんだ」
「今日はユキくんいて、楽しい」
「潤くんが居てオレも楽しい」

 ああ、可愛いなあ。
 潤くんて、四ノ宮のちっちゃい版みたいに見えて余計に可愛い気がする。四ノ宮がそんなには見せない素直全開の笑顔が、たまんなく可愛い。
 よしよし、と撫でると、潤くんも、うふふ、と微笑む。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...