上 下
435 / 553
きづいたら

「再認識」*奏斗

しおりを挟む
「脱いだものはこちらに入れてくださいね」

 カーテンで仕切られたところで、葛城さんがカゴを渡してくれた。
 服を脱いで軽く畳んでカゴに入れて、着慣れないなりに、なるべく手早く着替えて、靴下と靴も履いた。ネクタイとジャケットを残して、ベストまで着終えたところで鏡を見る。

 すごく着心地がよくて、驚く。サイズを測ってもらって作ってもらうってこんな感じなのか、と感心していると、隣で四ノ宮がカーテンを開けた音がしたので、オレも仕切りを開けて中から出た。

「――――」

 隣で着替えていた四ノ宮はもうネクタイまで締めていて、もうほぼ完成してる。
 うわ。……似合う。
 これは文句なしで、カッコいい。最近なぜか可愛く見えてた、その雰囲気は全然ない。
 皆の前で着せたいと、四ノ宮のお父さんも思うよな、なんて思ってしまった。何も言葉が出ず、ぼーと見てしまうと、オレを見つめていた四ノ宮が。

「奏斗、すごくイイ。似合う」

 ふ、と笑むいつもと同じはずの笑顔まで、なんだか、違うように見える。
 ……ほんと。カッコイイ奴だってのを再認識。

「奏斗、めちゃくちゃ似合ってるよ」
 まっすぐ見つめられて、ありがと、と頷く。

「奏斗、ネクタイは締めれる?」
「ん、多分?」
 そう答えると、ふっと笑う四ノ宮。

「多分って。あんまりやったことない?」
「うん、何回か、かな。ネクタイ、縁なかったから」
「やってあげるから貸して」

 逆らうことなく四ノ宮の手にネクタイを委ねると、するりと首にネクタイが掛かる。
 すごく近くで、四ノ宮が、なんだかとっても嬉しそうに続ける。

「奏斗にネクタイ締めてあげるとか、すげー嬉しいかも」

 クスクス笑う四ノ宮に、葛城さんが「大翔さん、時間がないですよ」と苦笑い。

「いいじゃん、ちょっとくらい遅刻したって」
「ダメですよ」

 苦笑交じりの即答に、四ノ宮も、はいはい、と言いながら、きゅ、と最後、ネクタイを締めてくれた。

「ん、出来た」
「ありがと」

 言って見上げると、すごく嬉しそうな、キラキラした視線。
 四ノ宮にこんな瞳で見られる日が来るとか、ほんと、最初は思わなかったな。最初の頃はむしろ、眉顰められて見られていたような気がするし。

 そんなことを思いながら、ジャケットに袖を通す四ノ宮を見て、オレも同じくジャケットを着た。

 ほんと、オーダースーツってこんな感じなんだ。体にぴったりしてるのに、ジャケットを着ても窮屈な感じは全然なくてすごく動きやすい。入学式とかで着たスーツとは全然違う。

「どう? 着た感じ」
「ん、着心地、すごくいい……びっくりした」

 そう言うと、四ノ宮と葛城さんが微笑む。「でしょ」と嬉しそうに笑う四ノ宮に、うん、と頷く。
 四ノ宮、パーティーとかは嫌がってるように見えたけど、スーツの仕上がりとかそういうところはちゃんと認めてて、お父さんの会社も好きなんだろうなぁと、その笑顔を見てそう思った。

「ほんと、似合う。全然、七五三じゃないよ」
 笑いながらの四ノ宮の言葉に、葛城さんがオレを見て微笑した。

「そんなことを思われてたんですか?」
「着慣れないですし、七五三でも笑うなよって言ってて」

 オレがそう言うと、葛城さんはクスクス笑って、首を振った。

「とてもお似合いですよ。社長が、大翔さんと雪谷さんで広告を作ろうとか言いだしそうですね」
「言いそう……あ、それは受けなくていいからね、奏斗」
「ないでしょ」

 笑いながら言うと、「ありそうだから嫌だ」と四ノ宮。

「とにかく行こっか」
「ん」

 着替えた部屋を出ると、待っていてくれた瑠美さんと潤くんがオレ達を見て、わぁ、と微笑む。

「大翔は見慣れてるけど……ユキくん、本当に素敵ね」
「ユキくんーすごいー」

 きゃー、と抱きついてこようとした潤くんを、またも四ノ宮が苦笑しながら止めた。



しおりを挟む
感想 327

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...