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きづいたら
「受け入れるって」*奏斗
しおりを挟む食事の準備を終えて、向かい合って座ると、最近いつもしているように「いただきます」と手を合わせてから食べ始める。でも今日の四ノ宮は食べ始めずに、オレの食べるのをとっても楽しそうに待っている。
「……どう?」
「ん。すっごくおいしい」
「そっか。良かった」
四ノ宮が嬉しそうに笑って、自分も食べ始めた。
「カレーの残りって、パンとかうどんで食べてたけど、今度からこれも作る」
「気に入ってくれてよかった」
四ノ宮は、ほんとに嬉しそう。
だってこれ、ほんとに美味しいもんね。皆、気に入るよ。絶対。
「オレが作ったものを食べて、奏斗が笑ってくれるのが、嬉しい」
口に入っていたのを飲み込んでから、オレは四ノ宮を見つめた。
「オレ、思うんだけどね」
「ん?」
「四ノ宮のごはんは美味しいから、誰でも笑顔になると思うよ」
「オレは奏斗が笑ってくれるのが嬉しいんだけど」
「でも、誰でも笑顔にさせられると思うよ」
「そういうことじゃないんだけどね」
四ノ宮は、まあいっか、と言いながらも苦笑い。
誰でも、なんて言い方をしたけど。オレだって、四ノ宮が言ってることは、分かってる。四ノ宮が今、オレを好きって言ってくれてるのは、そうなのかなとは思うし。
ただ、オレはそれを喜んで受け入れていいのかっていうのが、ずっと頭にあるから、まっすぐに受け取れない。
考えなくていいなんて言われたって、考えちゃうわけで。誰でも笑顔になれるなんて、話をはぐらかしてしまってごめんね、と思う。
「これ、ほんとに美味しいよ」
せめて美味しいくらいはちゃんと言おうと、もう一度言ったら、「良かった」と嬉しそうに笑う四ノ宮。
胸がどきっとするのは多分、可愛いって思ってしまうから、かな。
でも普通に見ると、四ノ宮って、可愛いってよりカッコいいだろうし。オレ、目がおかしくなってるかも。
大体にして、こんなに好意を寄せられてそんな無下に出来る訳がないし。って、これは誰だってそうだと思うんだよね。
意味が分からなくたって、たとえ何でだろうって思ってたって、こんな風に、日々好き好き言われてるのは、まずい……。
しかも、オレの外見だけ見て、カッコいいとか可愛いとか軽く言ってる訳じゃなくて、あんなに色々さらした上で言ってくれるの、嬉しい気がしてしまう。
四ノ宮はノンケだし、今はちょっとその気になっちゃってるだけなんだろうなあと分かってはいるのに、今まっすぐに向けられる気持ちは、どうしても嬉しいのかも。
……でも、それを受け入れるのって、結構厳しい。
ちゃんと知り合ってからは、まだ数週間。その間、一緒に居すぎた。色んなことありすぎて、抱かせたりしてしまって、ほんとあれは大失態。マンションの部屋が隣だったっていうのも、かなり特異な条件だったと思う。
こんな、特殊な中で始まって、好きって言われて、それを信じて恋なんてできるだろうか。……オレが、女の子なら、ただただ「好き」を信じて、出来たかもしれないけど。
四ノ宮は今じゃなくていい、待つからって言ってくれるけど。
待たせるのも、違う気がする。
待たせたら、信じて受け入れられる? そもそも、四ノ宮って、こんな年から見合いとか言われてる家のお坊ちゃんだし。
本気で付き合うなんて、無理な気しか、しない。
美味しいね、と言いながら、なんとなく頭の中は、そんな思考を繰り返してる。目の前に嬉しそうに笑ってる四ノ宮が居るから、余計に色々考えてしまう。
そんなに嬉しそうにされても、なんだか少し困る。
「あ、そうだ。明日なんだけど、スーツとかいろいろ必要なものは全部、葛城が用意してくれてるからね」
「ん、分かった」
「下着だけ履いてけばオッケイ」
「極端……」
ふ、と笑ってしまいながら、「でも、了解」と返す。
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