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きづいたら
「意識」*奏斗
しおりを挟む家に入ってからは、四ノ宮に言われるまま分業。
オレはまずカレーを火にかけて温めて、その横で四ノ宮が玉ねぎを炒めてバターライスを作ってた。そのまま耐熱皿に入れてカレーをかける。真ん中に穴を開けて生卵を落として周りにチーズで、準備オッケイ。
「オーブンで焼いてる間にシャワー浴びちゃお」
「あ、うん。そだね」
四ノ宮の言葉に頷くと、四ノ宮がオレをじっと見てることに気づく。
「何?」
「一緒に浴びる?」
「……浴びない」
何言ってんだもう。
……確かに、何回かは浴びてるから、何ともいえない気分にはなるけど。
「いいじゃん、その方が早い? じゃん」
笑いながらそんな風に言う四ノ宮に、苦笑い。
「自分で言ってても疑問形じゃんか。一人で入った方が断然早い。自分ちで入ってきて」
その背を押しながら、リビングから廊下へ。
「んー、分かったよ。浴びてくるから」
「から?」
振り返ってくる四ノ宮を「何?」と見上げた瞬間。
唇が触れてきた。咄嗟に引いた後頭部に触れた手に、ぐい、と引き寄せられて、いきなり深く重なる。
「ん……っ」
舌が絡む。
逃げられないようにしてる手は強いけど。キスの仕方は、優しくて。なんか、そのまま、受けてしまう。
「……ふ……っ」
ぎゅ、と目を閉じる。……突き飛ばすとか。しようと思えば出来る筈なのに。四ノ宮にそうできたこと、無い気がする。なんでなんだろう、これ。合宿で先輩にキスされた時はすぐ、離れたのにな……。
「……奏斗?」
四ノ宮はゆっくりとキスを離してオレを呼ぶ。閉じていた目をオレが開けて、視線が絡むと、ふと優しく笑って、それからまた、ちゅ、と唇に触れた。
「……これで我慢する」
にっと楽しそうに笑って、オレの頬をすり、と撫でながら言った。
「……っ」
何か言ってやりたいけど、何だか何も出てこない。
困る位、自然にキスする四ノ宮をどうしたらいいのか分からなくて。
それを普通に、受けてる自分も、よく分からない。
「じゃあまた。十五分位で来るから」
「うん……」
頷いて見送り、鍵をかけた。
は、と息をつきながら中に戻って、シャワーを浴びる。
キス。
四ノ宮が、オレにするのは、「好き」だから?
……普通は、好きでも、そう簡単にキスなんかしないけど。
なんかオレ達のここまでの関係がおかしすぎて、普通が当てはまらない。
オレも今更拒むのかと。……なんかそれって、言われたばかりの「好き」をものすごく意識してるみたいで。
なんか、それもどうなの、と自分で思ってしまう。
……意識。
…………しまくってるの、自分でも分かってるけど。
恋なんかもうしないって決めて、一人で生きるために色んなことしてきたつもりだった。
でも、椿先生やリクさんに言われたことで思うところ、たくさんあった。
オレは、男同士だからって、そこに重点をおきすぎちゃってたけど……和希とのことも、結局はオレを好きな気持ちが、そこまでじゃなかったってことな気がしてきた。
オレと居たい気持ちが、ゲイは嫌だって思う気持ちに負けただけで。理由はなんにしろ、そんなのただ、そこまで好きだと思わせられなかったオレの、ただの失恋だったのかも。
気づいたら恋してる。
……というには、なんか、四ノ宮との始まりから今までが、ほんと特殊すぎて。
うーん……。
そういう色々もあるから、四ノ宮も、答えはすぐはいらないとか言ってるんだと思うけど。
きづいたら、か……。
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