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きづいたら
「だだっこ」*奏斗
しおりを挟む◇ ◇ ◇ ◇
「奏斗!」
駅から少し離れて、マンションに向かう通りで待ってると、四ノ宮が駆け寄ってきた。
「走んなくっていいのに」
「授業終わるの遅かったし。待たせてごめんね」
「連絡くれたからもうそれ分かってるしさ。それ位待ってるってば」
「そうなんだけど」
「あと、奏斗って遠くから」
「分かった、呼ばないから」
ごめん、と、苦笑いの四ノ宮。
来た早々なんか文句みたいになっちゃったけど。
……なんだかさ。
尻尾振ってくるみたいな。やめてほしいんだよね。なんか。……可愛く見えるから。
はー、とため息をついてしまうと。
「そんな怒んないでよ。行こ?」
笑顔の四ノ宮がオレを見ながらそう言うので、別に怒ってないけど、と言いながら隣で歩き始める。
「あ、そーだ。一応、四ノ宮に言っとくね。あのさ」
「ん?」
「オレ、今週末位から、あんまり家にいないから」
「え?」
「家に居ても、友達が来てると思う」
「は? 何で?」
なんだか明らかに、面白く無さそうな感じが、寄った眉に現れている……。
「去年からやってたんだけど、テストとかレポートとか。一人でやってもつまんないし皆でやろうよって言ってて。あとノートとかたりないやつとかも協力しながら」
「そうなんだ……」
多分何かしら文句を言おうと思っていたらしい四ノ宮は、その話の内容を聞いたら、あんまり言えなくなったらしく、んー、と唸りながら頷いている。
「夜は?」
「泊りっこしてた」
「はー? いいじゃん日帰りで」
「遅くまでやってるから面倒じゃんてことで……別に帰る理由ないじゃん」
四ノ宮も、それはそうかと思うのか、それ以上は言ってこない。
「――――……んー……」
「……何考えてんの?」
しばらく黙ってる四ノ宮を見上げて聞くと、んー、と唸った後で、オレを見つめてくる。
「それ、一日おきとか、出来ないの」
「……」
「だってテスト週間みたいなの、土日挟んだら十日位あるしさぁ。長すぎ」
「……わかんない。皆で決めるし」
こんな顔してそんな事言うとは思わなかった。だだっこみたい。いつもはなんかむしろ大人っぽい顔、してんのに。
「毎日ずっと一緒な方がおかしいじゃん……」
困って、一応正論かなと思うことを言ってみると。
「別におかしくないじゃん。オレが、奏斗と居たいから居てもらってるんだし。理由はあるでしょ」
「――――……」
なんだそれもう。
……好きとか、言ってからは、なんかもう、本当に思うこと全部そのまま伝えてきてるような気がする。
答えるのに困ること、しばしば。
「とりあえず、まだ詳しいこと、決まってないから。また決めようっていってるとこ」
マンションについて、エントランスを通りながら、四ノ宮を見上げて、首を傾げてしまう。
「ていうか、四ノ宮は、そういうことしないの?」
「……そんなのするつもりなかったけど」
「まあ。皆がしてる訳じゃないけどさ。なんか楽しかったから、ってのもある。テスト勉強とか一人でしててもつまんないし」
「奏斗が楽しいのはいいけどさ」
「――――……」
「オレがすげーつまんない」
……だだっこか……。
多分おそらく、多くの人が、大人っぽいイケメンだと評する顔なのに、と思いながら。
エレベーターのボタンを押してから、振り返ってくる、だだっこの視線がなんか痛い。
「まーいいや。その話はあとで」
……後で何の話を四ノ宮とするんだろうと、謎に思いながら。
「先食べよ。お腹すいたし。もうこのまま奏斗んち行って良い?」
「あ、うん。ごはん、昨日の残りご飯で良い?」
「あっためて焼くし、いいよ」
「うん」
四ノ宮の部屋の前を素通りして、オレの家の鍵を開けた。
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