422 / 557
きづいたら
「素って」*奏斗
しおりを挟む鍋の中を見ると、とってもいい感じ。
火を止めて、カレー粉を中に入れる。溶けるのを何となく待ってから、いい匂いだなあ、と、ゆっくりと混ぜ始めた時。
インターホンが鳴った。下のエントランスじゃなくて、ドアのところなので、そのまま玄関に向かった。
鍵を開けると、案の定、四ノ宮で、中に入ってくる。
「今ちゃんと確かめてから開けた?」
「え。あ、四ノ宮だと思ったから」
「ダメだよ、変な奴かもしれないじゃん。気を付けて」
お母さんか。そう思いながら、まだカレーできてないよ? と言うと。
中に入ってきた四ノ宮に急に引っ張られて、ぎゅう、と抱き締められた。
「……っ」
「ごめんね。なんか嬉しくて。こっち来ちゃった」
「……カレー、好き?」
「カレーは好きだけど。……分かんないかなあ」
抱き締められてる四ノ宮が、なんか熱い。
「走んなくてイイって言ったじゃん」
「そんなに走ってはないよ。超早歩き?」
「なんだよそれ……」
少し離させて、顔を見つめて笑ってしまうと。
不意に四ノ宮の顔が近くなって、唇が重なってくる。
「……っ」
とっさに離れようとするけれど、離れられない。
少しの間、キスされて。ゆっくり離れる。
「――――奏斗、好き」
オレは玄関の一段高いところに居るので、下から見つめられる。途端に男っぽく変わった気がする。見つめられてそんな風に言われて――――ドキ、と胸が震える。
「つか……もう、なに、してンの」
内心焦って、四ノ宮を離すと。
「あ、そうだ。これ、しまっといて」
「……?」
「アイスいっぱい買ってきた。好きなのあとで食べよ」
手渡された袋を覗き込むと、なんかアイスがたくさんで、笑ってしまう。
「何でこんなに?」
「なんか嬉しくて、ぽいぽい買ってきちゃったんだよね。明日からも食べれるし。入れといて」
また嬉しそうに笑う。
嬉しくて、とかほんとに……。
苦笑してしまいながら、頷いた。
「……ありがと。オレもシャワー浴びるから、ごはん、十九時くらいでいい?」
「ん、分かった。じゃね」
言いながらドアのところで振り返る。
「すぐ鍵かけてね。あと、ちゃんと誰か確かめてから開けてよ」
「はいはい」
頷くと、じゃあね、と笑って、四ノ宮が出ていく。
ほんとにお母さんみたいだな、と思いながら、言われた通り鍵をかけると、隣に入ってく音が聞こえる。
「――――……」
アイスを冷凍庫にしまいながら、なんだかなぁ、と息をつく。
……好き、とか、嬉しい、とか。あの笑顔も。
何なのかなあ、ほんと。
弟みたいに可愛いなと思ってしまってたら。
……キスしてくるし。あんな風に見つめられるし。
もうなんか、ついていけない……。
四ノ宮って、なんか。
……最初の頃と、印象、全然違うなあ
もちろん、最初の王子スマイルの頃とは全然違うのは当たり前なんだけど、色々話して協定を結んだ後の四ノ宮とも。何か、今全然違う。
そういえば最初の頃。
良い人の期間が長くて自分でもどこまでが素か良く分かんないから、裏全開で行ったらどうするか、みたいなこと、聞かれたよな。オレは、イイよそれでも、て言った気がする。うさんくさいより全然いいと思ったから。
でも……今が、素なのかな。
なんか、思ってたのと、違う。
あいつもきっと自分で分かってないんだろうなぁ。
むしろ、素の方が、いい奴だったりするのでは。
笠井とかも、そんな感じで見てたような気がする……。
ていうか、オレに対しての四ノ宮は、ただのいい奴ってよりは、よく分かんなすぎるとこ、たくさんありすぎるけど。
さっきキスされたとこ。
……なんか。触れた感覚が、消えない。
思わず、ごし、と唇をぬぐう。
ほんと、もう。何なんだ。もう。
(2023/9/24)
107
お気に入りに追加
1,686
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる