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きづいたら
「思わぬところに」*奏斗
しおりを挟むもう次の授業は始まってる時間。帰る人は帰ってるし。ということで、人はすごくまばらな時間。
今帰るとすごく早く家に着いちゃうな。どっか買い物とか、寄ろうかな。そういえば、最近、服とか全然見に行ってなかったし、なんて考えながら歩いていたら、前方のベンチに人影。
女の子が一人、スマホを持って、ぼー、としている。
って、あれは。
「……笠井?」
「あ。先輩」
オレに気づくと顔をちゃんとあげて、ぱっと座りなおした。止まらざるを得ない感じ。
「合宿お疲れさま」
「あ、はい。お疲れ様でした」
ふふ、と微笑む。――――可愛い子だよな。笠井。
「こんなとこでどうしたの?」
「先輩はどうしたんですか?」
「オレは休講になったから、もう帰ろうと思ってて」
「私は……ちょっとさぼり、です。少しきまずくて」
苦笑いの笠井。
「そうなんだ」
どうかしたのかなと思った瞬間、あ、昨日のことかと思い出した。
「先輩、急いでますか?」
「え。いや。急いでは、ないよ」
……急いでるって言えばよかったかなと、正直少し思ってしまった。四ノ宮の話になったらちょっと、どうしていいかわからないのだけれど、でも咄嗟に断れる雰囲気ではなかった。
オレは、促されて、笠井の隣に座った。
「……昨日、大翔くんの車にのせてもらったじゃないですか、私」
「うん」
「……あ、先輩、先生とお話できました?」
「あ、うん。出来たよ、ありがと」
相談するって言ってたから聞いてくれたんだなと思うと、ほんといい子だなと思ったりする。
「……それで、車に乗せてもらって……あの、私、実はなんですけど……」
「ん?」
「実は……大翔くんのことが、好きなんです」
「――――……」
えっと。なんて言ったらいいんだろう。
「……知ってました?」
「あー……うん、ごめん、知ってた。……ていうか、皆知ってるんじゃないかなと……」
ちょっと遠慮しながら言うと。
「……それ、翠先輩にも言われました。やっぱりそうなんですね」
笠井も困ったように苦笑しながら、ため息をついた。
「ダメなんですよね、隠せなくて。……好きだと、近くに居たくて」
「……それは、分かるよ。皆そうじゃない?」
「でもバレバレなのはちょっと……」
笠井はそう言って、少し俯いた。
「ちょっと話してもいいですか?」
「うん。いいよ」
もうそう言うしか、ない。用事があるとか言うタイミングは確実に逸してる。
「……最初は私、大翔くんのこと、そんな好きじゃなかったんです。ゼミまで一緒になっちゃって、うーん、ちょっと苦手だなーって」
「そうなんだね」
「はい。王子様とか言われてて、そんな人ほんとに居るの? とか思ったりして。なんでもできたり、イケメンすぎちゃうのも、苦手で。すごく優しいけど……言い方は悪いけど、外面が好いだけかなーとか……」
あ、なんかすごく分かる……。同じ感じかも。
笠井の苦笑をみつめながら、小さく頷いて見せた。
「苦手だなと思ってたんですけど、学校に行く途中で大翔くんにばったり会っちゃったことがあって……。挨拶はして並んで歩いてたんですけど、少し気まずくて……学校について、掲示板のところで別れようとしたら、絆創膏持ってる? て言われて」
「絆創膏?」
「靴擦れしちゃってて、学校までの坂を登ってる間に、なんか痛いなーとは思ってたんですけど」
「……ああ。四ノ宮、気付いたの?」
「気付いてくれたみたいで、ちょっと待ってな、って言われて。掲示板のベンチで座ってたら、隣の棟の医務室から絆創膏貰ってきてくれて。……貼ってくれたんですよね……」
……しそう。そういうこと、普通に。
「ありがと、って言ってたら、友達が近づいてきて、何してんのって聞かれて――――……そしたら大翔くん、「別に」って言ったんです。そういうことしてくれたの、話すわけでもなくて。……言う人、多いじゃないですか、絆創膏はってあげたとこ、とか。優しいって思われたくて」
なんとなく、声は出さず、頷くと。
「大翔くん、結局言わなくて。良いかっこしたいわけじゃないんだなーと思ったら……見せかけで優しいんじゃなくて、ほんとに優しいんだなーって思って」
「――――……ん」
「なんか私、その時、すっごく、好きって思っちゃって」
「そうなんだね……」
「そんなことで、って思いますか?」
「……思わないよ。人を好きになるきっかけって些細なことだよね」
「そうなんですよ~!……そう、それで、大翔くんと話すようになったら、あの人、本当に優しくて。日々好きになってく感じで……」
そこまで言った笠井は、急に黙って少し唇を噛んだ。
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