上 下
419 / 551
きづいたら

「思わぬところに」*奏斗

しおりを挟む

 もう次の授業は始まってる時間。帰る人は帰ってるし。ということで、人はすごくまばらな時間。
 今帰るとすごく早く家に着いちゃうな。どっか買い物とか、寄ろうかな。そういえば、最近、服とか全然見に行ってなかったし、なんて考えながら歩いていたら、前方のベンチに人影。
 女の子が一人、スマホを持って、ぼー、としている。
 って、あれは。

「……笠井?」
「あ。先輩」

 オレに気づくと顔をちゃんとあげて、ぱっと座りなおした。止まらざるを得ない感じ。

「合宿お疲れさま」
「あ、はい。お疲れ様でした」

 ふふ、と微笑む。――――可愛い子だよな。笠井。

「こんなとこでどうしたの?」
「先輩はどうしたんですか?」
「オレは休講になったから、もう帰ろうと思ってて」
「私は……ちょっとさぼり、です。少しきまずくて」

 苦笑いの笠井。

「そうなんだ」
 どうかしたのかなと思った瞬間、あ、昨日のことかと思い出した。

「先輩、急いでますか?」
「え。いや。急いでは、ないよ」

 ……急いでるって言えばよかったかなと、正直少し思ってしまった。四ノ宮の話になったらちょっと、どうしていいかわからないのだけれど、でも咄嗟に断れる雰囲気ではなかった。
 オレは、促されて、笠井の隣に座った。

「……昨日、大翔くんの車にのせてもらったじゃないですか、私」
「うん」
「……あ、先輩、先生とお話できました?」
「あ、うん。出来たよ、ありがと」

 相談するって言ってたから聞いてくれたんだなと思うと、ほんといい子だなと思ったりする。

「……それで、車に乗せてもらって……あの、私、実はなんですけど……」
「ん?」
「実は……大翔くんのことが、好きなんです」
「――――……」

 えっと。なんて言ったらいいんだろう。

「……知ってました?」
「あー……うん、ごめん、知ってた。……ていうか、皆知ってるんじゃないかなと……」

 ちょっと遠慮しながら言うと。

「……それ、翠先輩にも言われました。やっぱりそうなんですね」
 笠井も困ったように苦笑しながら、ため息をついた。

「ダメなんですよね、隠せなくて。……好きだと、近くに居たくて」
「……それは、分かるよ。皆そうじゃない?」
「でもバレバレなのはちょっと……」

 笠井はそう言って、少し俯いた。

「ちょっと話してもいいですか?」
「うん。いいよ」
 もうそう言うしか、ない。用事があるとか言うタイミングは確実に逸してる。

「……最初は私、大翔くんのこと、そんな好きじゃなかったんです。ゼミまで一緒になっちゃって、うーん、ちょっと苦手だなーって」
「そうなんだね」
「はい。王子様とか言われてて、そんな人ほんとに居るの? とか思ったりして。なんでもできたり、イケメンすぎちゃうのも、苦手で。すごく優しいけど……言い方は悪いけど、外面が好いだけかなーとか……」

 あ、なんかすごく分かる……。同じ感じかも。
 笠井の苦笑をみつめながら、小さく頷いて見せた。

「苦手だなと思ってたんですけど、学校に行く途中で大翔くんにばったり会っちゃったことがあって……。挨拶はして並んで歩いてたんですけど、少し気まずくて……学校について、掲示板のところで別れようとしたら、絆創膏持ってる? て言われて」
「絆創膏?」
「靴擦れしちゃってて、学校までの坂を登ってる間に、なんか痛いなーとは思ってたんですけど」
「……ああ。四ノ宮、気付いたの?」
「気付いてくれたみたいで、ちょっと待ってな、って言われて。掲示板のベンチで座ってたら、隣の棟の医務室から絆創膏貰ってきてくれて。……貼ってくれたんですよね……」

 ……しそう。そういうこと、普通に。

「ありがと、って言ってたら、友達が近づいてきて、何してんのって聞かれて――――……そしたら大翔くん、「別に」って言ったんです。そういうことしてくれたの、話すわけでもなくて。……言う人、多いじゃないですか、絆創膏はってあげたとこ、とか。優しいって思われたくて」

 なんとなく、声は出さず、頷くと。

「大翔くん、結局言わなくて。良いかっこしたいわけじゃないんだなーと思ったら……見せかけで優しいんじゃなくて、ほんとに優しいんだなーって思って」
「――――……ん」
「なんか私、その時、すっごく、好きって思っちゃって」
「そうなんだね……」

「そんなことで、って思いますか?」
「……思わないよ。人を好きになるきっかけって些細なことだよね」

「そうなんですよ~!……そう、それで、大翔くんと話すようになったら、あの人、本当に優しくて。日々好きになってく感じで……」


 そこまで言った笠井は、急に黙って少し唇を噛んだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

処理中です...