上 下
418 / 551
きづいたら

「いつか」*奏斗

しおりを挟む



 三限が終わって、座ったまま、スマホを取り出した。

「ユキ、行かないの?」

 そう聞かれて「オレ次休講だから」と答えると、また別の友達に「一緒に帰る?」と聞かれた。

「ちょっと連絡してから帰る。また明日ね」

 一緒に居た皆に、バイバイ、と手を振って別れてから、真斗に「今日帰り何時?」と入れる。タイミングによってはすぐ返ってくるけどどうかなぁと思ってスマホを見ていると、ぱっと既読がついた。

「ユキ、バイバーイ」
「うん、またね」

 友達に声をかけられて答える。だんだん人が減っていって、教室に一人になった。……静か。
 あんまりこういう風に一人になることも、無いなーと思っていると。ちょど、電話がかかってきた。

「もしもし真斗?」
『ああ、カナ、どしたの?』
「真斗、おめでと、バスケ」
『ありがと。んでも優勝したかったんだけど』
「そうだろうけど、すごいよ。頑張ったね」
『うん。あ、四ノ宮さんにも伝えてくれた?』

 一拍、置いてしまう。

「うん、まあ。伝えたよ。っていうか、なんでそこで四ノ宮?」
『え、だって。すごく喜んでくれそうだから』

 真斗が、なんだか楽しそうにクスクス笑ってる。

「まあ喜んでたけど……」
『そっか。なんか嬉しいかも。……あ、そうだ、今日の帰りって何? 何か用事?』
「合宿でおみやげ買ってきたから、渡しに行こうかなと思ったんだけど」
『あー、ごめん、昨日は大会の後、あのまま解散だったから、今日はミーティング、長いと思う』
「あ、そっか。じゃあ、今度でいいや」

『週末、とかでもいい?』
「うん。一週間位だったと思う。また連絡するね」
『分かった。あ、家まで来る? どうする?』
「んー。ごめん、駅で待ち合わせて、渡しても良い?」

 そうだった。ここにも、どうにかしないといけない相手がいるんだよね……。
 父さんに、もうどれくらい、会ってないだろう。

『ん。分かった、いいよ』
「……ごめんな、真斗」
『謝んなくていいよ。とりあえず、また週末の予定が決まったら連絡する』
「うん、分かった、またね」

 真斗との電話を切って、机の上に置いた。
 和希もだけど。父さんも。オレにとっては、あの時、あのままの関係で、少しも変ってない。進んでない。どうにかしなきゃいけないのは分かってる。

 ちゃんと、話さないと分かってもらえるはずがない。

 オレは、あの時から、誰にも何も分かってもらおうなんて思えなかったし、もう二度と恋なんかしないんだから、父さんにオレのことを話そうなんてことすら、思えなかった。

 このままじゃ良くないって分かってはいた。
 母さんや真斗にも要らない心配をさせて、気を使わせて……父さんだって多分、オレを追い出して、心から清々してるって訳じゃないのかもしれない。そうは思っていても、和希との思い出すら振り返れないのに、父さんに向かい合えるはずもなくて、ずっと逃げてきた。

 いつか和希のことを忘れられたら、あの時はどうかしてた、みたいな感じで話して……もともとゲイだってこととかはごまかして、全部消し去ってしまえたらいいなあとか、思ったりして。
 そんなんじゃ何の解決にもならないのは分かっていたけど。
 ……向き合えるはずがない、と今までは、思っていた。

 和希と話せて、ふっきれたら……父さんともまっすぐに、話せるかな。

 そんな風に思いながら、オレは椅子から立ち上がった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...