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きづいたら
「いつか」*奏斗
しおりを挟む三限が終わって、座ったまま、スマホを取り出した。
「ユキ、行かないの?」
そう聞かれて「オレ次休講だから」と答えると、また別の友達に「一緒に帰る?」と聞かれた。
「ちょっと連絡してから帰る。また明日ね」
一緒に居た皆に、バイバイ、と手を振って別れてから、真斗に「今日帰り何時?」と入れる。タイミングによってはすぐ返ってくるけどどうかなぁと思ってスマホを見ていると、ぱっと既読がついた。
「ユキ、バイバーイ」
「うん、またね」
友達に声をかけられて答える。だんだん人が減っていって、教室に一人になった。……静か。
あんまりこういう風に一人になることも、無いなーと思っていると。ちょど、電話がかかってきた。
「もしもし真斗?」
『ああ、カナ、どしたの?』
「真斗、おめでと、バスケ」
『ありがと。んでも優勝したかったんだけど』
「そうだろうけど、すごいよ。頑張ったね」
『うん。あ、四ノ宮さんにも伝えてくれた?』
一拍、置いてしまう。
「うん、まあ。伝えたよ。っていうか、なんでそこで四ノ宮?」
『え、だって。すごく喜んでくれそうだから』
真斗が、なんだか楽しそうにクスクス笑ってる。
「まあ喜んでたけど……」
『そっか。なんか嬉しいかも。……あ、そうだ、今日の帰りって何? 何か用事?』
「合宿でおみやげ買ってきたから、渡しに行こうかなと思ったんだけど」
『あー、ごめん、昨日は大会の後、あのまま解散だったから、今日はミーティング、長いと思う』
「あ、そっか。じゃあ、今度でいいや」
『週末、とかでもいい?』
「うん。一週間位だったと思う。また連絡するね」
『分かった。あ、家まで来る? どうする?』
「んー。ごめん、駅で待ち合わせて、渡しても良い?」
そうだった。ここにも、どうにかしないといけない相手がいるんだよね……。
父さんに、もうどれくらい、会ってないだろう。
『ん。分かった、いいよ』
「……ごめんな、真斗」
『謝んなくていいよ。とりあえず、また週末の予定が決まったら連絡する』
「うん、分かった、またね」
真斗との電話を切って、机の上に置いた。
和希もだけど。父さんも。オレにとっては、あの時、あのままの関係で、少しも変ってない。進んでない。どうにかしなきゃいけないのは分かってる。
ちゃんと、話さないと分かってもらえるはずがない。
オレは、あの時から、誰にも何も分かってもらおうなんて思えなかったし、もう二度と恋なんかしないんだから、父さんにオレのことを話そうなんてことすら、思えなかった。
このままじゃ良くないって分かってはいた。
母さんや真斗にも要らない心配をさせて、気を使わせて……父さんだって多分、オレを追い出して、心から清々してるって訳じゃないのかもしれない。そうは思っていても、和希との思い出すら振り返れないのに、父さんに向かい合えるはずもなくて、ずっと逃げてきた。
いつか和希のことを忘れられたら、あの時はどうかしてた、みたいな感じで話して……もともとゲイだってこととかはごまかして、全部消し去ってしまえたらいいなあとか、思ったりして。
そんなんじゃ何の解決にもならないのは分かっていたけど。
……向き合えるはずがない、と今までは、思っていた。
和希と話せて、ふっきれたら……父さんともまっすぐに、話せるかな。
そんな風に思いながら、オレは椅子から立ち上がった。
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