413 / 551
きづいたら
「不思議」*奏斗
しおりを挟む「それで? アップルパイを好きな人って?」
「――――……」
……なんの話だっけ。と一瞬、ぼーと考える。
「あ、うん。……そう、真斗が好きだから買おうと思ったら、もう一人好きな人を思い出して」
「誰?」
「……リクさん、なんだけど」
ちょっと真顔で、四ノ宮がオレを見る。
「クラブの?」
「うん」
「ん? もしかして、今日クラブ行ったの?」
「――――……」
なんか四ノ宮には隠せる気がしないのでもう正直に言おうとは思ったのだけど、真顔になられるとなんか、困る……。
「しばらく、来ないと思うって言ってきただけ。今までのお礼も言って」
「――――……」
「そこで、リクさんにサンドイッチ作ってもらって、軽く夕飯は食べた」
「んー……」
全部言うと、四ノ宮はちょっと眉を寄せたまま。
……はー、と息をついた。
「変な奴居るかもだから、一人で行かないでほしかったんだけど……」
「ん」
「……しばらく行かないって挨拶してきたの?」
「うん」
「……それだと、怒れないじゃん」
むー、という顔で、じろ、と見られるけど。
「まあ無事に帰ってきてるから、もう今回はいいけど。次行くなら、オレも行くからね」
「……リクさんに、今度は四ノ宮と遊びにきなって言われた」
「リクさんの方が分かってるじゃん」
クスクス笑って、四ノ宮がオレを見る。
「そーだよ、オレと行こうね」
四ノ宮はそんな風に言うけど。でもほんとは別に、どこに一人で行こうが、オレの勝手なんだけど、と思うのだけど。まあそこに関しては、散々迷惑かけたので、何も言えないオレは、二号を抱っこし直して、ぎゅむ、と潰した。
「奏斗、さ」
「……?」
「オレが好きだって言ったの、困ってる?」
「――――……」
その質問には、ふ、と四ノ宮を見つめなおしてしまう。
困ってる……?
「オレね、ほんとは……奏斗の色んな気持ちが、片付くまでは、言わないでおこうって思ってたんだ。混乱して、考えなきゃいけないこと、うやむやになっても困るし、ほんとは全部片がついてからって」
「……」
そう、なんだ。そう思うながら、小さく、頷く。
「でも、どうしてオレが奏斗と居たいか、ちゃんと言ってから居ないと……よく奏斗、意味わかんないって、言うからさ。……そんな意味の分かんない状態じゃダメだろうなと思って。そう思ったら、もう、言っちゃってて」
「――――……」
「オレが奏斗の側に居たいのは、そういう意味だから。そういう意味で、ずっと居たいと思ってる。でも、奏斗が、まだ色々思うことがあるのは分かってるし、あいつとのことも、これからどうするのかは奏斗が決めることだけど……オレはいつでも居るから。……すぐに好きになってとなんて言わない。答えも、考えなくていいよ」
「……」
「色々奏斗が落ち着いて、いつか自然と答えが出たら、聞かせて」
「――――……」
「そん時までにオレは、奏斗に好きになってもらえるように、頑張るから」
なんだかもう。不思議な生き物が目の前にいる感覚。
……四ノ宮って、こういうのが、素なのか。
ていうか、全然ひねくれてなくない?
……自分が嫌でも本心かくして、王子演じられてきたのって、周りよりも、相当精神状態が大人だからなんじゃないだろうか。
四ノ宮は、それを、全部隠して生きてきたとか言っちゃってるけど。
少なくとも、四ノ宮の周りにいた人は、四ノ宮を良い奴だと思って、ほんとに王子みたいって思って。普通の人は、人に良く思われたいって思ったって、そんなになかなかうまくは出来ないと思うし。
……多分。
まっすぐで。……優しいんだろうな。
見た目で期待されて、イメージと違うって言われるのに傷つくから、そうされないようにしたのも、ほんとは繊細だから、なんだろうし。本人、そんなの絶対認めそうにないけど。
まっすぐにオレを見つめる、瞳。
なんか。
――――……オレは、四ノ宮といると。
どうしてこんなに、安心、するんだろう。
見つめられてると。
……嫌なこととか思い出しても……なんか、どうにかなるような気がして。
すごく、不思議。
100
お気に入りに追加
1,593
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉
あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた!
弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる