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きづいたら

「胸の真ん中」*奏斗

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 大体いつもいつも、奏斗が奏斗が、て言いすぎだし、一緒に居ようとしすぎ。
 ……何であんなにずっと一緒に居たいって言うんだろ?

 なんかちょっとは、距離感おかしいとは思っていたのだけど。
 こうして、ここに皆が居て、物理的に距離をとってみてると。
 いつもがどれだけ近いかが、分かるというか。

 四人掛けで隣に座るとか普通ないし。ソファで四ノ宮に寄りかかって座ったりって、普通は絶対しないし。一緒に寝るもないし。……ましてや、抱かれたりなんか絶対無いし。

 なんかあの、媚薬で事故ってしまったあの日。
 あの日から。考えてみたら、絶対おかしい距離感で、四ノ宮と来てしまったような……。
 いや、もちろんおかしいとは思ってたんだけど……。

 ――――……あれで、好き、とか言われると……。
 どんな意味だよ、て混乱してしまう。


「なんかお前って、寝不足だと色っぽいな」

 斜め向かい側の冴島さんに突然でっかい声で言われて、は? と固まる。

「朝から変なこと言わないでください」
 怒って見せてるのに、「はは。ごめんごめん」と軽い……。周りも何か笑ってるのでもうそのままにすることにした。

 気付いたらここのテーブル、隆先輩と冴島さんが居て、四ノ宮が気にしてる二人に囲まれていた。まあオレの隣は小太郎だし、二人は向かい側斜め、だけど。……早く食べて出よ。

 ……って。
 四ノ宮が気にするのも変な話だし。それをオレが気にするのもなんだかなって感じ。確かにこの人たち、ちょっかいはかけてくるような気はするけど。何の意味もないし、冴島さんなんて覚えてもないし、そんな心配するようなこともないのに。

 ……そこまで考えて、ふ、と視線を感じた方向を見ると。
 四ノ宮と目が合う。
 なんか、じー、と見られてる。

 ……何であんたは、そこに居んの。

 と言ってるような気がする。いや、聞こえないけど。
 ……なんかそう言ってるような気が。
 
 オレは眉を顰めて、四ノ宮から視線を外して、とにかくパクパク食べ進める。

「ごちそうさまでした」
「あれ、ユキ早い」
 小太郎に言われる。

「コーヒーゆっくり飲みたいから。先行ってるね」

 もう今日はブラック飲もう。
 立ち上がって、食器を食堂の返却口へ置いて、食堂を出た。
 受付に、虫刺されの薬を返してから、紙コップの自販機があるところに向かう。ソファがいくつも並んでて、大きなテレビに、今朝のニュースが流れている。

「――――……」

 やっぱり苦いなー。
 慣れないブラックをちびちび飲んでいると、食事を終えた皆がぱらぱらと、近くのソファに座っていく。
 なんとなく皆ぼんやりテレビを見たり、まったりしてると、全員食べおわって一緒に出てきた皆が通りかかった。

 先生が、オレ達のソファのところで立ち止まって、「じゃあ十五分後に昨日の教室で」と告げて、皆も了解。座ってた皆も立ち上がって歩いていくのをぼんやりと見送る。

 だるいけど……十五分後か。
 ……部屋戻って、歯を磨いて準備して、だなー。

 そう思った時。
 歩いてく四ノ宮と目が合う。ふ、と笑まれる。
 
 ――――……。

 あの笑い方は。
 ほんと意味分からない。
 と、思ったら、四ノ宮、皆と別れて、こっちに歩いてきて、オレの前に立った。もう皆、居なくなっちゃってて、急に二人きりの空間。

 ……どき、と胸が音を立てた。
 え。何で。咄嗟に、胸の真ん中を握り締めて、押さえてしまう。


「朝からものすごく、複雑そうな顔をしてるから来た」
 クス、と笑って、四ノ宮がオレの隣に腰掛ける。

「……好きだから、て言ったことでしょ?」
「――――……」
「言葉のまんまだから。奏斗のことが好き。後輩としてとか隣人としてとか、ゼミ仲間とか、そういうのでも好きだけど……オレは、奏斗が、一番大事だから。恋人、要らないっていってるのも分かってるけど」
「……」

「オレのことを一番、好きになってくれたらいいなと、思ってる。今じゃなくて、ずっと先でいいから」
「――――……」

「ほんとは、色々片がついてから言おうと思ってたんだけど……女の子とか、見合いとか、余計なのが多いから。先に言った方がいいかなと思って……混乱してたら、ごめんね」

 少し苦笑いで言って。でも、すぐに、またまっすぐにオレを見つめる。


「でも、ずっと、好きだし、ずっとそばにいたい」

 四ノ宮がそう言ったところで、ふ、と微笑む。


「これ、いくらでも話すからさ。……とりあえず合宿の間は、忘れていいよ。ごめんね、寝不足にさせちゃって」
「……っそれで寝不足な訳じゃないし」

 そのせいだけどなんか悔しい。
 オレの言葉に、四ノ宮は、ふ、とまた微笑む。

「ふーん、まあ、いいけど。行こ、時間ないし」
「言われなくても行くし」
 オレはパッと立ち上がって、スタスタ速足で歩きだす。
 四ノ宮は面白そうに笑いながら、半分駆け足で寄ってきて、隣に並んだ。


「……もう言っちゃったから。隠さないから」


 ね、と笑われて。
 何とも言えなくて、む、と口を閉じる。








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