397 / 553
きづいたら
「頭から離れない」*奏斗
しおりを挟む翌朝。
「まだ寝てる奴そろそろ起きろ~」
そんな声で起こされた。
うわー。超寝不足っぽい。……仕方ない、ほとんど眠れなかった。二時間くらいは寝れたかなぁ……?
「ユキ、眠そう」
体だけ起こした状態で、出入り口付近でぼーっとしてるからか、皆に声をかけられる。適当に頷いていると。
「大丈夫ですか?」
もう今となっては、ここの誰よりも聞き慣れた声がして、見上げると、寝不足の原因を作った当人が、ふ、と苦笑を浮かべる。
「眠そうですね」
……っ。
なんかめちゃくちゃ涼しい顔で、イケメンぽい覗き方してくるけど、どう考えてもこの寝不足は、四ノ宮のせいなんですけど……。
なんかムカつく。自分だけ涼しい顔……。
好きだから。
て言った時の四ノ宮が重なって、何だか呼吸が止まる。
四ノ宮には特に答えず、のそのそ動いて荷物からタオルを出して、立ち上がる。洗面台で顔を洗って、歯ブラシをくわえたら、四ノ宮も同じように歯ブラシをくわえて並んでくる。
「眠れなかったの?」
「……うん」
「まあ、今日早く寝れば何とかなるかな。明日学校ですもんね」
「……ん」
歯磨きしながら、そんな会話。
つか……お前のせいだけど。
何なの、全然普通でさ……。
「眠れなかったのって……何で?」
「…………」
……お前だよ、お前。
急に真面目な顔で、好きだからとか言われたら、意味わかんなくて……。
思わず眉が寄ると、四ノ宮が、くす、と笑う。
何笑ってんだよー、と思ったら。
「……あれ、どんな意味でも、だからね」
と、また意味の分からないことを。
……というか、オレが、どういう意味って、考えてるのを知られてるみたいな、そんな訳ないのに、本当に意味が分からないセリフを言って、オレを斜めに見つめてくる。
もう無理。
オレは四ノ宮から視線を逸らして手早く歯磨きを済ませた。四ノ宮から離れて布団に戻って着替えを済ませようと上を脱いだ時。同じく部屋に戻ってきた四ノ宮が、あ、と声を出して、オレの横で止まって、「塗り薬は?」と聞いてくる。咄嗟に枕元に置いてあった昨日の薬を見ると、四ノ宮はそれを拾い上げて、蓋を取る。
「後ろ向いてください」
言われて、もうここで拒否るのも変かなと、仕方なく後ろを向くと、うなじのところに薬を塗られる。なんか。……何でか、ちょっと、緊張する。
……何で緊張するんだ、オレ……。
とにかく早く塗り終わって。
固まってると、す、と手が離れて、ほっとする自分。……何。もう。
「はい、オッケーです。昨日よりは、赤くなくなってるかも」
「……ありがと」
薬を受け取って、離れてく四ノ宮を見ながら、そのまま、Tシャツを頭からかぶった。
「四ノ宮ってほんと面倒見いいよな」
隣にいた小太郎が、しみじみと言いながら笑っている。はは、と少し笑っておいた。
……確かに、ほんとに面倒見がよすぎて。
お母さんかよ、とツッコミ入れてたもんね。
前世は多分ホストで、今はブラック四ノ宮で宇宙人で、世話焼きお母さんで、一号で、馬鹿宮でキモ宮で……。ほんと。意味分かんない。
でもって。
……オレのことを、好きだって、言ったりする。
何が? どこが??
ため息とともに、首を傾げてしまいながら、とりあえず、服とか荷物を整理していると朝食に呼ばれて、皆で食堂に向かう。たまたま近くに座った隆先輩に、ほんとにごめん、と謝られたけど、どうやら本人は覚えていないらしくて、周りの先輩達が、死ぬほどツッコミを入れてくれていた。
「ファーストキスじゃなかった?」
心配してるんだか、ふざけてるんだか分からない隆先輩の声に、「違うんで大丈夫です」となるべくすっぱり答えると、周りがどっと笑う。
「ユキが初めてな訳ないじゃん」
「そーだよなぁ、あほか」
「バレンタインのチョコすごかったの知ってるだろ」
先輩たちが言うのは、一年の終わりのバレンタインの話。
確かにたくさんもらったけど……仲良しチョコみたいなのも多かったと思うし。
どうせ、オレのキスの相手が、男なんて思う人は、ここには居ない。四ノ宮以外は、オレが女の子とキスしたことないなんて、思わない。人は、大体自分の常識内でしか、物事を、考えないから。
オレの常識は、相手が男。女の子は、オレにとっては、ありえないんだけど。
……皆、自分の常識で、考える。
大抵の奴は、その中から出ないで暮らしてく。
四ノ宮の、常識は? って考えると。
話すようになった頃、男に興味ないって言ってたのを覚えてる。オレと何回寝たって執着なんかしないって。それは、オレが男だからであって……。
四ノ宮の常識は、オレのとは違うと思う。
四ノ宮の「好き」に、恋愛の「好き」は入らない。……よね?
好きを勘違いしてしまいそうな雰囲気で、伝えてくるから。
なんか。……頭から、離れない。
89
お気に入りに追加
1,639
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる