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きづいたら

「前に」*奏斗

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 ……一人で生きるって。
 和希と別れてからずっと思ってた。

 あんなに好きで。和希も好きって言ってくれてたのに、ダメなら。もう誰と付き合ったって一緒だって。もう分かり切った未来で、傷つきたくないって、思った。

 もう誰とも付き合わない。一人で生きていけるように、頑張るって決意して、生きてきた。

 なのに。四ノ宮と、こんな風に絡んじゃって……。
 四ノ宮は、オレとずっと居るとか言うけど……ずっとなんてある訳ない。

 四ノ宮のお父さんはお見合いさせたがってたし。四ノ宮自身だって、跡取りってことも分かってるだろうし。
 ずっと居るなんてのは、今言ってるだけって、オレはちゃんと分かってる。ずっとなんて言葉を、信じてはない。ちゃんと、分かってるのに。

 最初あんなに胡散臭くて、怖かった四ノ宮がどんどん変わって……ずっと、一緒に居るようになって、四ノ宮の存在が、今、近くにありすぎる。

 何でなのか、ものすごく、居心地がよすぎて。
 ……なんかオレ。今、ほんとに、変なんだと思う。


 執着されたくないから、一度きり。
 オレの方だって、執着したくないから一度きり。

 最初に四ノ宮に抱かれた時も、何度もして執着するようになったら嫌だからって。あの時、四ノ宮には言いはしなかったけど、最初からそう、思ってた。


 和希に執着して依存してたのを、四ノ宮にうつすなんて、馬鹿げてる。

 ペットボトルを開けて、水を流し込む。
 先生は、スマホを見ながら、少し黙っていてくれている。スマホは、見る振りをしてくれているだけかも、とよぎるけど。


 ああ、なんかオレ……やっぱり、終わらせないといけないのかも。
 
 ――――……和希と、会えるかな。オレ。

 和希に会っても大丈夫になって、昔の仲間とも会えるようになって。
 そしたら、オレ、あそこで止めてしまってた自分の気持ち。前に、動かせる、かな。……ちゃんと、一人で、平気になれるかな。

 四ノ宮には、へんなとこばっかり見せて、心配ばっかりかけて。
 ……泣いてるとこ、どんだけ見せちゃったんだろう。

 だからきっと、あんなに心配して、側に居るって言ってくれて。
 ……情けないよな、オレ……。

 なのに、一人で生きたい、とか。
 オレが今日言ったの――――……嫌な思い。したかな……。

 ああ、なんかオレ、今。
 全部分かんないまま。全部、四ノ宮に押し切られてて。なんかこのままじゃダメな気がする。

 ちゃんと、本当に、話さないと。
 ……ていうか、話す前に、ちゃんと、考えないと。

 そう思うと、明日の帰り道が、すごく憂鬱に思えてしまった。
 
「あの……先生?」
「ん?」
「……車で来たって言ってましたよね?」
「うん、そうだけど?」
「誰か乗って帰りますか……?」
「今のとこ、予定はないけど」
「――――……あの……」

 図々しいかな、事情も言わないで。
 ……四ノ宮の車に乗ってきたこと知ってるから、また、何でって思われるかもしれないし……。

 ああ、どうしよう、やっぱりやめようかなと思って、言おうとした言葉を飲み込んだ時。

「僕の車に乗ってく?」
「――――……」

 驚いて、え、と口を開けたら、先生は苦笑した。

「あ、違った? 乗りたいなら別に良いけど、と思ったんだけど」
「……あ、違わない、です。いい、ですか?」
「いいよ。……ただ、四ノ宮くんの車で来たんでしょ?」
「……はい」
「そっちが平気なら僕はいいけど」
「……聞いてみます」

 なんとなく。
 居心地のいい空間で、二人きりで、居たくなくて。
 ……考える方が、先な気がして。

 少し、四ノ宮と、離れたいけど……。
 でもそれも、話してからじゃないとだめだよな……。

「ん、分かった。聞いてみて。明日帰りまでに分かればいいよ」
「はい」

「……じゃあ、戻ろうかな。ユキくんは?」
「もう少ししたら戻ります」
「ん。じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい。……ありがとうございました」

 最後にそう言ったら、んー、と笑顔で、先生は部屋に戻っていった。


 一人になって、ふ、と息をつく。


 ……怒るかな。四ノ宮。
 言いにくいな。


 どこからかドアが開く音。スリッパの音が近づいてくる。
 ……帰ろうかな、そろそろ。そう思ったら。

「奏斗」

 ――――……もう声で分かってたけど。四ノ宮だった。



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