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きづいたら
「違うはず」*奏斗
しおりを挟む部屋で皆と雑談したりテレビを見たりしながらしばらく過ごす。その内、もう寝てる人達も居るし、そろそろ寝ようって話になって電気を消した。
目を閉じて眠ろうとするのだけれど、色々頭によぎって眠れない。
「――――……」
四ノ宮の車で出発して、なんだか楽しいというか、すごく居心地が良かった。四ノ宮の運転はもう何回目かだけど、穏やかで安心して乗ってられる。途中寄ったパーキングで小太郎たちに会って、なんとなく一年と二年で別れて話しながら買い物を終えた。店の外に出た時、小太郎に、こっちに乗る? と言われたその瞬間、別にそれでもいいかなと思ったんだけど。
なんとなく、まだ四ノ宮の好きな音楽聞いてないし、とか思ったりして……。荷物移動もめんどくさいし、とか言って、気付いたら断っていた。
正直そんなの、全然苦じゃないのに。
どうしてオレ、断ったんだろうと思いながら、四ノ宮の車に乗り込んだら、そしたら、なんか急にキスされて。……オレが言った言葉は、見えたらどうすんのって。……怒るとこ、そこ? て、後になって自分で思った。
何で断ったんだろう。一年は一年で行った方が気を使わなくて楽しいかもなって、思ったのに。
ここについてから、四ノ宮は離れてくれてたと思う。少しは話したけど、なんか……助けに来ようとしてたみたいな時だけかな。お風呂とか、隆先輩にキスされた時とか。四ノ宮も、一年とか他の先輩達と楽しそうに話してたし。神社に行ったりしてたし。別に離れてても楽しそうだなーと思ってて……。
そう。楽しそう。……ただ、楽しそうだなと思っただけの筈。だよな?
意識なんてしてない。
ただ、四ノ宮が楽しそうに見えたから……そう言っただけ……?
ヤキモチ、とか。言われた。
違うよな。
……違う。
だってヤキモチとかいったら。それって――――。
オレは、布団からゆっくりと体を起こした。
もうほとんどの人、寝てるみたい。四ノ宮も、動かない。
そっと立ち上がってふすまを開けても、誰も動かない。静かに部屋を出て、廊下を奥に進んだ。
自販機が何台か並んでいて、その前に、ソファが置いてある。
そこに座って、はー、と息をついた。
静かな廊下に、自分のため息だけが響く。
……つか。ヤキモチ、じゃだめなんだよ。
四ノ宮がいつもいつも、奏斗と居るって、意味わかんないことばっかり言い続けるせいか、オレはあいつが側に居るのが当たり前みたいになってる気がする。
オレが自分で、ここでは離れてって言ったのに。それもちゃんと分かってるのに、側に居ないその間に、女の子と神社か、なんて思ってさ。別に良いけどって思ったけど、そもそもその、「別に良いけど」って言ってること自体がおかしい気がする。そんなの四ノ宮の好きで良いに決まってる。別に良いけどなんて言い方で、思っちゃダメなところなのに。
まして、四ノ宮に、楽しそうとか、仲いいとか言っちゃうなんて……。
仲良くない、ゼミ仲間だって、四ノ宮は即言った。……それが聞きたかったのか、オレ。とか。自分に対して、後から疑問ばかりが浮かんでくる。
キスされるのも触れられるのも、ほんとに嫌だったら、もっと振り払える。隆先輩にキスされた時は、思い切り離れたし。すごい、嫌だったし。
――――四ノ宮が、キス、してきた時は……こんなとこじゃだめだ、て思った気がする。場所の問題じゃないのに。
意味が分かんないって四ノ宮に言ったけど。本当に意味が分からないのは、オレな気がする。
太ももに肘をついて、両手を重ねて額に当てた。
……ダメだろ。絶対。ヤキモチとか。
四ノ宮とオレは、そういうんじゃない。大体、四ノ宮は、ゲイじゃない。今はオレに、構ってるけど……違う。絶対。
……もうなんか……良く分かんない。自分の気持ちが。
もっと落ち着いて、ゆっくり、考えなきゃだめだ、オレ。
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