上 下
383 / 553
きづいたら

「拍車が」*大翔

しおりを挟む


 そのまま扇風機で火照りを冷やし終わって、ドライヤーをかけていた奏斗が電源を切ると、その隣の椅子に相川先輩が座った。

「あ、そういやユキ、虫刺されは?」
「ん、さっきからすごく痒い」
「どれ?」

 相川先輩が立ち上がって、奏斗のうなじを見てる。

 オレは、備え付けの水を飲んでいたのだけれど。
 ……なんか。ほんと相川先輩には、素直っていうか。可愛い感じで話すよなぁ、とちょっと不満。
 相川先輩に、変な気がないのだけはなんだかすごく分かるし、どちらかというと、相川先輩って、いつでも奏斗を守ろうな感じの人なので、オレもそんなに敵意は沸かない。が。しかし。

「どれどれ? 見せてみ?」

 チャラい奴はお断りなんですが。
 と、オレがこっちで眉を寄せているのに気づかず、奏斗は冴島さんにも、ここら辺です、とか言って見せてる。

「ああ、ほんとだな」
「ぽつんてなってますよね」

 苦笑いの冴島さんと相川先輩に、奏斗は、「受付で薬貰えるよね?」と呟いてる。

「ああ。聞いてみたら」
「うん」

 立ち上がった奏斗から一瞬目を離した瞬間。

「ひゃ……!!」

 変な声が上がって、とっさにそっちを見ると。
 奏斗が、口を押えて、びっくりした顔をして冴島さんを見ていた。

「……すっげー反応」
 冴島さんが苦笑してた。

「悪い、すっげーウエスト細く見えてさ。何センチくらいだろって思わず」
「ユキ、くすぐったいの弱いんで、触んないであげてください」

 相川先輩がそんな風に言って、奏斗に、「大丈夫?」と苦笑い。

「びっくりしただけ。冴島さん、オレ、くすぐられるの弱いんで、ほんとやめてください」
「悪かったって。そんなヤバい声出すと思わなかった」

「……」

 ジト目の奏斗に、「だからごめんって」と、苦笑いの冴島さん。


「なあ、にしても、ウエスト何センチ? ほっそくねえ?」
「ほっといてください、もう」

 奏斗は、むー、と膨らんでいるが。
 もっと怒っていいぞと、心の中で思ってしまう。

 あんな声ださせて。かなりかなり、ムカつく。
 オレの中では、要注意人物から、さらに上の、超要注意人物、なんなら排除対象に格上げされた。

 ……つか……。
 もしかして、さっき、オレがちょっかい出してたから、敏感、だったり……ありえる。てことは、オレが悪いのか。
 なんか、頭痛い。

「そろそろ戻ろうぜ。宴会だもんな」
「そうですね」

 冴島さんの言葉に相原先輩が応えて、皆片付けて大浴場を出た。


「温泉良かったな~」

 隣で佑がしみじみ言ってる。

「そーだな」

 頷くけど、頭ン中は別のこと。
 ……なんか、中途半端にキスして触れたりしたら、余計に奏斗から離れてるのが嫌だって思いに拍車がかかったような気がする。


「あ、オレ、薬貰ってく。すぐ行くから先に行ってて」
「んー」

 前を歩いていた奏斗が、受付のところでそう言って、離れていく。

「ぁ、オレもちょっと行ってくる」
「んー」

 なんとなく頷く佑に手を振って離れて、奏斗の後ろを歩く。


「先輩」
「――――……」

 振り返った奏斗が、ため息。

「……失礼。顔見て、ため息つかないでよ」
「……何?」

「薬。塗ってあげるから」
「塗れるし」
「見えないでしょ」

 困った顔をしながらも、奏斗は、受付に置いてあるチャイムを鳴らす。奥から人が出てきて、無事に薬を借りれた。返すのは明日でいいですよ、と言われて受け取った奏斗に、オレは手を差し出した。

「ん、貸して」

 少し間はあったけど、諦めたみたいで、奏斗はオレに薬を渋々渡した。
 少しだけ指に薬を出して、奏斗のうなじの赤いところに塗ってあげる。


「……ありがと」
「ん」

「あんま近づくなって、言ってんじゃん」
「……分かってるから、あんまり寄ってないでしょ。帰ろ?」

 仕方なさそうに奏斗が頷いた時。

「あ。大翔くん」
「あ、ユキも居る」

 里穂と佐倉先輩が、大浴場の方から、歩いてきた。

「二人も今お風呂出たとこ?」

 佐倉先輩が奏斗に聞く。
 なんとなく佐倉先輩が奏斗の隣に並んだのもあって、オレの隣には里穂が並んだ。

「虫刺されの薬貰ったとこ。翠たちは今出てきたの?」
「うん。そろそろ宴会も始まっちゃうよね」
「ん。そだね。まあでも、今度は飲み会だから。少しくらい遅れても大丈夫そうだけど」
「先輩達結構飲むからね~。いつもは帰らないといけないけど今日は好きなだけ飲みそう……」

 佐倉先輩は、苦笑い。

「あたしたちも早く飲めるようになりたいね」
「翠、強そう」
「ユキ、なんか弱そうね?」

 前で並んで、楽しそうに笑ってるのを何となく聞きながら、部屋まで歩く。
 
 






しおりを挟む
感想 327

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...