371 / 557
きづいたら
「出発」*大翔
しおりを挟むふ、と目が覚める。
昨夜、二号の持ち込みは断固拒否して、半ば無理無理自分の腕の中に引き寄せた奏斗が、まだ腕の中で眠っていた。
……はは。すげー、かわい……。
寝相いいよな。あんまり夜、動かない気がする。
そっと動いて、時間を見ると、まだ余裕がある。
もーしばらくこのまま見てよう。思った瞬間、だった。
いきなり奏斗のでっかい瞳が開いて、ばっちり視線が合った。
「――――……」
でもどうやら、寝ぼけてるみたい。
じー、とオレを見てはいるけど……。
「おはよ……」
長い沈黙の後、奏斗がやっと言った。
「あぁ、おはよ。大丈夫?」
「……うん…………ん? ……大丈夫ってなにが……?」
「まだ早いからもう少し寝ててもいいよ」
「……いい。二度寝した方が辛そう」
「まあ車で寝ててもいいけど」
「……んー……寝ない」
しゃべりながら、ゴロゴロと転がっていって仰向けになると、両手で目を覆っている。
「奏斗」
「……んー?」
「今日は一緒に寝れないね」
目をこすってた手をぴた、と止めて、ゆっくりその手を外してオレを見る。
「普通、一緒に寝ないんだよ……」
「まあ普通はね。寂しかったら一緒に寝てもいいよ。……あれ、部屋ってまだ決まってないよね?」
「寝ないっつの……」
んーと、伸びをしながら奏斗が起き上がったので、オレもゆっくり体を起こした。
「あ、昨日帰り路で聞いたんだけど、大部屋で雑魚寝だって。女子は別部屋で雑魚寝って」
「椿先生は?」
「先生がいると楽しめないだろうからって、個室だって言ってた」
ふふ、と奏斗が笑う。
「オレらとだとうるさいからでしょ~って、皆が言ってて、椿先生は、そんなことないですよーて笑ってた」
「ふうん。雑魚寝か。……じゃあ奏斗、隣……」
「絶対、嫌」
「……ち」
即断られて、思わず小さく舌打ちをすると。
「ちって何だよ、寝る訳ないだろもう。……あ、キモ宮って呼んでたの思い出した……」
「忘れていいよ。さ。ごはんつくろっと」
「あ、手伝う」
言いながら奏斗もベッドを下りようとしてる。
別にいいんだけど……。思いながらも。
「じゃあ、一緒にやろ」
言って、奏斗と並んで歩く。
洗面所で、奏斗に先に顔を洗わせてる間、後ろで待っていると。
顔を上げたと同時に、オレを振り返った。
「なあ、なんで二号、寝室禁止なんだっけ……?」
「……何で今それ?」
笑ってしまうと、思いだしたから、と笑う。
「奏斗、取られるから」
「……きも」
「キモ宮、言わない」
遮って、笑うと、奏斗は肩を竦めて、「お湯沸かしとく」と歩いて行った。
なんか……ずっとこんな風に、一緒に居られたらいいんだけど。
でも、必ずどこかで、オレとの間に一本線を引こうとするんだよな……。
顔を洗いながら、考える。
……まあ、仕方ないか。
奏斗が和希と別れて、一人で居た長い間。
ずっと、もう一人で居ようって決めて生きてきたんだもんなー……。
今オレと居てくれるだけで、よしとしよ。
奏斗に付き合って後ろ向きでいる訳にはいかねーもんな。
よし。
――――……ちょっと力を込めて、顔を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
食事の後、奏斗が一旦部屋に戻った。
十分位でチャイムが鳴った。靴を履いて、ドアを開けると、荷物を持った奏斗。
「準備できた?」
「うん、できた」
「じゃ行こ」
一泊二日のゼミ合宿は、現地に九時に集合。九時半から合宿が始まって、午前~夕方までと、夕食後の飲み会は、話し合いとOGさんからの情報収集とか。
翌日も、朝から夕方までは色々予定が詰まってる。
一時間半あれば余裕でつきそうだけど、一応二時間前に出発。地下駐車場のオレの車に乗り込んで、シートベルトを締める。
「じゃあ、お願いします」
「ん。安全運転で行くから」
「うん」
「寝ててもいいからね」
「いいよ。起きてる」
ふ、と笑う奏斗にちょっと笑って見せてから、出発。
「あ、奏斗、好きな曲、何? 音楽かける?」
「好きな曲ー? ……そういえば、そういう話、あんましたことないね」
「そうかも」
「あ、じゃあオレのスマホで聞いてみる?」
「ん、いーよ。じゃあかけて」
「あとで四ノ宮の聞いてるのもかけてよ。人が好きな曲聞くの、結構好き」
「そう?」
「うん。四ノ宮ってどんなの聞くんだろ。全然分かんないなぁ……」
「洋楽」
「げげ」
「何その反応。洋楽に失礼でしょ」
クックッと笑ってしまうと。
「違くて。……なんか、かっこつけた感じというか……カッコいい感じというか。なんか嫌味感が……」
「何だそれ。……カッコいい? オレ」
「…………そんな話はしてないけど」
「嘘。洋楽も聞くけど、普通に流行ってる曲も聞くよ」
「そうなんだ」
ふーん、あとで聞くの楽しみーとか言って、自分のスマホを弄ってる。
「あ、そういえばさ。オレって、カッコいい? 奏斗にとって」
「……はい?」
「どう思いますか?」
ちょっと敬語で改まって聞いてみると。
「……世論的に、カッコいいんじゃないでしょうか。そんな気がしますが?」
「う、わー、何それ。今世論なんか聞いてねーし。あと変な敬語やめてよ」
言うと、奏斗は可笑しそうにクスクス笑ってる。
80
お気に入りに追加
1,686
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる