上 下
351 / 551
ずっとそばに

「むむむ」*奏斗

しおりを挟む


 二人で一緒に片づけを終えると、四ノ宮が時計を見上げながら、ふ、と息をついた。

「やっぱりこういうのって食べるの時間かかるよね」
「ん。もうこんな時間か。合宿の、少し考えようと思ったのにな」

「それもそうだけど……奏斗、シャワー浴びたい?」
「え。あ、たこ焼きくさい?」

 苦笑しながら聞くと、「分かんない」と四ノ宮。

「同じ匂いしてると自分たちでは分かんないよね」
 と続けてクスクス笑ってる。

「どうしようかなあ。浴びた方がいいかな?」
「まあ別に、明日、同じ匂いしてくのもいいけど」
「あ、オレ、家で浴びる」

 スマホを手に持ちながらオレが即答で言うと、は?と四ノ宮がムッとする。

「何なのその即答ー。そんな嫌?」
「嫌だよ、同じ匂いとか。じゃあ、ごちそうさまでしたー」
「待って待って、そのまま家で寝ないよね?」

 二の腕を掴まれて、引き戻されると、四ノ宮の体に、とん、と寄りかかる感じになってしまった。

「――――……」

 なんか。すごく。どき、と震えた心臓。
 ……何。意味分かんね。

「……眠くなったら、そのまま寝るかも」
「ちゃんとこっち来てね?」
「たまには広々寝たいし」
「こっちでそうやって寝ていいよ」
「お前居て、狭い」

 何だか、憎まれ口をたたいてしまう。

「はー、もー……」

 ちょっと疲れたような笑い声がして。
 二の腕を掴んでた手が外れたと思ったら、そのまま前に回ってきて、後ろからぎゅーっと抱き締められた。

「……帰ってこないなら、帰してあげない」
「は? 何言ってン」

 ムッとしたオレが文句を言いながら振り返ろうとすると、手はすぐに離れた。四ノ宮の方を振り仰いで続けようとした言葉は、四ノ宮の唇に、奪われた。……ということに気づいた時には、もう、深く重なってて。

「……ん、ぅ」

 こ、のやろ。
 そう思って離れようとしたけれど、手を押さえられて、かと思うと、何やらうまくうなじを押さえた手のせいで、動けない。

「…………っ……」

 舌が絡んで来る。しばらくキスされて。声は抑えて、きつくつむっていた目を、キスが離れると同時に開く。まっすぐな四ノ宮の瞳と、ぶつかる。

「帰ってこないなら、うちで一緒にシャワーにしよ?」

 じっと見つめてくる瞳は、有無を言わせない感が強い。
 ……むかつく。

「キス、やだってば……」
 口に両手を押し当てて、ぐい、と押しのけると、四ノ宮はクッと笑い出す。

「何その避け方……」
「もう、ほんとやだ。帰る」

「待ってるからね? 来るまで」
「……知らないし」

 四ノ宮の近くからさっと引いて、今度は邪魔されずに玄関に向かう。
 なにやら笑いながら、後ろを歩いてくる四ノ宮は。

「ずっと待ってるからね」

 とか言って、ふ、と笑いながら、バイバイしてくる。
 
「待たなくていいし」
「……コーヒー飲みたいなぁ」

 ぴた、と止まって四ノ宮を振り返ると。四ノ宮は腕組みをしながら、んー、と思い出すようなそぶりをする。

「今日超重かったけど、頑張ってたこ焼きのプレートとか持って帰ってきたなぁ。頑張ってタコも切ったなぁ……」

 むむむ。

「奏斗のコーヒー飲みたいんだけどなぁ……」

 言いながら、斜めにオレを見下ろしてきて、微笑む。


「……っ……分かったよ、もう……」

 悔しいけど、そんな感じで言われたら、なんだか断りにくい。
 くそー。


「……今日、コーヒー飲んだら、ゼミの考えて、寝るから!」
「ん、OKー」

「ほんと、絶対寝るからな!」
「いいよってば。……何警戒してンの?」


 クスクスからかうように言われて、むむむむむと眉を寄せる。
 オレはもう何も言わず、四ノ宮の部屋を後にした。
 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

無理やりお仕置きされちゃうsubの話(短編集)

みたらし団子
BL
Dom/subユニバース ★が多くなるほどえろ重視の作品になっていきます。 ぼちぼち更新

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...