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ずっとそばに
「むむむ」*奏斗
しおりを挟む二人で一緒に片づけを終えると、四ノ宮が時計を見上げながら、ふ、と息をついた。
「やっぱりこういうのって食べるの時間かかるよね」
「ん。もうこんな時間か。合宿の、少し考えようと思ったのにな」
「それもそうだけど……奏斗、シャワー浴びたい?」
「え。あ、たこ焼きくさい?」
苦笑しながら聞くと、「分かんない」と四ノ宮。
「同じ匂いしてると自分たちでは分かんないよね」
と続けてクスクス笑ってる。
「どうしようかなあ。浴びた方がいいかな?」
「まあ別に、明日、同じ匂いしてくのもいいけど」
「あ、オレ、家で浴びる」
スマホを手に持ちながらオレが即答で言うと、は?と四ノ宮がムッとする。
「何なのその即答ー。そんな嫌?」
「嫌だよ、同じ匂いとか。じゃあ、ごちそうさまでしたー」
「待って待って、そのまま家で寝ないよね?」
二の腕を掴まれて、引き戻されると、四ノ宮の体に、とん、と寄りかかる感じになってしまった。
「――――……」
なんか。すごく。どき、と震えた心臓。
……何。意味分かんね。
「……眠くなったら、そのまま寝るかも」
「ちゃんとこっち来てね?」
「たまには広々寝たいし」
「こっちでそうやって寝ていいよ」
「お前居て、狭い」
何だか、憎まれ口をたたいてしまう。
「はー、もー……」
ちょっと疲れたような笑い声がして。
二の腕を掴んでた手が外れたと思ったら、そのまま前に回ってきて、後ろからぎゅーっと抱き締められた。
「……帰ってこないなら、帰してあげない」
「は? 何言ってン」
ムッとしたオレが文句を言いながら振り返ろうとすると、手はすぐに離れた。四ノ宮の方を振り仰いで続けようとした言葉は、四ノ宮の唇に、奪われた。……ということに気づいた時には、もう、深く重なってて。
「……ん、ぅ」
こ、のやろ。
そう思って離れようとしたけれど、手を押さえられて、かと思うと、何やらうまくうなじを押さえた手のせいで、動けない。
「…………っ……」
舌が絡んで来る。しばらくキスされて。声は抑えて、きつくつむっていた目を、キスが離れると同時に開く。まっすぐな四ノ宮の瞳と、ぶつかる。
「帰ってこないなら、うちで一緒にシャワーにしよ?」
じっと見つめてくる瞳は、有無を言わせない感が強い。
……むかつく。
「キス、やだってば……」
口に両手を押し当てて、ぐい、と押しのけると、四ノ宮はクッと笑い出す。
「何その避け方……」
「もう、ほんとやだ。帰る」
「待ってるからね? 来るまで」
「……知らないし」
四ノ宮の近くからさっと引いて、今度は邪魔されずに玄関に向かう。
なにやら笑いながら、後ろを歩いてくる四ノ宮は。
「ずっと待ってるからね」
とか言って、ふ、と笑いながら、バイバイしてくる。
「待たなくていいし」
「……コーヒー飲みたいなぁ」
ぴた、と止まって四ノ宮を振り返ると。四ノ宮は腕組みをしながら、んー、と思い出すようなそぶりをする。
「今日超重かったけど、頑張ってたこ焼きのプレートとか持って帰ってきたなぁ。頑張ってタコも切ったなぁ……」
むむむ。
「奏斗のコーヒー飲みたいんだけどなぁ……」
言いながら、斜めにオレを見下ろしてきて、微笑む。
「……っ……分かったよ、もう……」
悔しいけど、そんな感じで言われたら、なんだか断りにくい。
くそー。
「……今日、コーヒー飲んだら、ゼミの考えて、寝るから!」
「ん、OKー」
「ほんと、絶対寝るからな!」
「いいよってば。……何警戒してンの?」
クスクスからかうように言われて、むむむむむと眉を寄せる。
オレはもう何も言わず、四ノ宮の部屋を後にした。
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