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ずっとそばに
「親子…」*奏斗
しおりを挟む謎すぎる空間を頑張って、過ごしていると。
ふと、四ノ宮のお父さんが「美味しかったね」と息をついた。
「まだ仕事残ってるし。帰ろうか、葛城」
「そうですね」
「大翔とも話せたし」
「……もうたこ焼き、良い? まだ焼いてるけど」
「あとは二人で食べて」
四ノ宮のお父さんは四ノ宮にそう言うと、腕まくりを解いて、袖のボタンをはめる。
「大翔、さっきの話、ほんと頼むね」
「しつこいなぁ、マジで。向こうに言ってよ、脈無いって」
「会わなきゃ分かんないだろ。会ったら可愛いってなるかもしれないし」
「今ほんと、そんな気まるでないから、ならないって」
「大翔が誰かと付き合ってるっていうなら諦めるけど、違うんだろ?」
そう言ったお父さんのセリフに、四ノ宮はふ、と眉を寄せて。
「……違うけど、でも、ほんとその気無いから」
そう言った。四ノ宮のお父さんは、はー、とため息をついて「一応伝えるけど」と言ってる。
「まあ今日は、瑠美が言ってた雪谷くんにも会えてよかった。雪谷くん、パーティー、よろしくね」
「あ、こちらこそ。お邪魔します」
それが正しい言い方なのかもよく分からないけど、とりあえずそう言う。
「潤も来るから、遊んであげてね」
「あ、はい」
可愛かった潤くんを思い出すと、ふ、と笑ってしまう。
葛城さんも立ち上がって、食器を片付けようとするので、「オレやるから大丈夫ですよ」と言うと「流しに運びますよ」と笑む。
「いいよ、ほんと。後でやるから」
四ノ宮も言いながら立ち上がるので、オレも立ち上がった。
スーツの上着を四ノ宮が持ってきて、二人に渡す。たこ焼きが焦げないようにとりあえず焼けてるのを全部お皿に取ってる間に、二人が上着を着て帰り支度を終えた。
やっと、この空間、脱出……。
なんかもう、全然嫌な感じの人達じゃないし、何が嫌なのかはっきりとは良く分からないけど。
でもでも、なんか、すごく疲れてる感覚が……。
玄関に歩く四ノ宮のお父さんと葛城さんについて、四ノ宮、その後をオレがついていく。
「雪谷くん、また来週ね」
「はい」
「大翔はちゃんと考えとけよな?」
「もう考えたし、答えたじゃん」
オレと四ノ宮にそれぞれ話しかけて、にっこり笑う。
「まあ、とにかく来週な」
そう言う四ノ宮のお父さんの横で、葛城さんが「お邪魔しました。美味しかったですよ」と、四ノ宮に向けて微笑むので、オレも、四ノ宮の隣で笑顔で頷いておく。
送りはいいよ、と言いながら、二人が出て行って、ドアが閉まった。
四ノ宮が、黙ったまま、鍵をしめて、くるっと振り返る。
無言で数秒、見つめ合う。同時に、ふー、と息をついた。
「……なんか」
「うん」
四ノ宮が、ぽそ、と呟く。続きを待っていると。
「なんか……ごめん……」
「……何が?」
「……いや、なんかよく分かんねえけど」
「――――……」
「すげえ疲れた、でしょ?」
困った顔の四ノ宮を見上げて。それはそれは、疲れました。そう思うんだけど、何て言うべきなのか良く分からず……数秒考えた後。
「ねね、四ノ宮のお父さんてさ……」
「ん」
「……オレと四ノ宮のこと、どう思ってるんだろう……」
「どうって?」
「オレ、鍵開けて入っちゃったしさ。写真とかぬいぐるみ……遊園地行ったり、たこ焼きふたりでしてたり……」
「うーん。仲いいとは思ったかもしれないけど……」
「……」
「親父ってさ、何考えてるか、よく分かんないこと、多々あるんだよね……」
「――――……」
……親子だな。うん。
この疲れ切った時だけど、なんかそれはちょっと面白いなと思ってしまったオレ。
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