346 / 553
ずっとそばに
「置物」*奏斗
しおりを挟む「なあ、さっきの続きだけど。大翔はさ」
「何?」
お父さんの言葉に、四ノ宮は嫌そうに返事。
「何で、少し会うのも嫌なんだ? 軽く考えてくれたらいいんだけど」
……あ、お見合いの話かな。
口出さないようにしてよう。とひたすらくるくる。
「だから、興味ないし。ていうか、奏斗の前でその話すんなよ」
「あ、オレは、全然いいのでどうぞ」
四ノ宮の声にオレが即返すと、また四ノ宮、ムッとしてオレを見るけど、オレは完全に気付かない振り。
……オレを巻き込まないで、二人で話してください。
「少しだけごめんね」
「いえいえ、どうぞ」
なぜか謝られて、ぷるぷる首を振る。じっとりした感じの四ノ宮の視線は無視。たこ焼きだけを凝視する。
「その相手がさ、父さんの仲の良い友達の娘さんでな。お前のことをパーティで見かけて、会ってみたいんだって。しかも、なかなか言い出せなくてとか聞くと、可愛いだろ? 仕事上の取引先でもあるし、父さん達も同席するから、食事するくらい良くないか?」
「……つか、親父達が同席したら、ますます見合いじゃんか」
「別に二人きりでいいなら、それでもいいけど」
「……マジで、無し」
「写真見たけど、すごく可愛い子だぞー? 良い子そうだし」
「間に合ってる」
四ノ宮はとりつくしまもない感じで返事をしてる。
お父さんは、はー、とため息をつきながら、葛城さんに視線を向ける。
「親戚たちからの見合い話は全部断ってやってるだろ。な、葛城?」
「そうですね」
「会って気に入らなきゃそれでいいって、向こうの父親は言ってるからさ」
「会っても無駄だって」
「……ふうん?」
オレはもはや、ただたこ焼きをくるくる回すだけの置物みたいになっていたつもりだったのだけれど。
「雪谷くん、大翔と仲良いなら、大学生活とかも詳しい?」
「え? あ。仲? ……良くはないです」
突然聞かれて、とっさに言ってしまった一言に、四ノ宮は「はー?」と超不満気。お父さんはクスクス笑って、「大翔の一方通行か」とか言ってる。
ん? 一方通行? ど……どういう意味? ん?
頭の中はたくさんのはてなが飛んでるけど、普通に対応するなら言うだろう言葉を、一生懸命探す。
「ゼミが一緒なんですけど、学年違うから大学は一緒に居ないので」
「そういえば、先輩だって聞いたような……って、大翔、何で呼び捨てしてるんだよ?」
「それ、姉貴にも言われたけど……いいんだよ、仲良いから」
「仲良くはないって言われてるけどな」
お父さんの言葉に、四ノ宮が分かりやすくムッとしてから、オレを見る。
スルー、スルー。
四ノ宮のバカ。いちいち反応すんなってば。変に何か……何かって、それすらよく分かんないけど、とにかく何か悟られたら困るのは絶対お前じゃんか。もう。ほんとバカ。
あーもう……。
とか思っていたら、はっと気づく。
さっきの写真とか二号とかの話で、オレ、遊園地行った時のノリでとか言ったけど……。
ていうか、大学生の、ゼミが一緒なだけの先輩後輩で、男二人で遊園地行くかな? しかも、それで写真撮って、ぬいぐるみ買って帰ってきて、しかも全然似合わない四ノ宮の家に置くとか……あるかな?
待って。ある……?
よーく考えてみるけれど。
百歩譲って、遊園地位なら。隣だし、久しぶりに行ってみる? とかで行ってもいいかもだけど。写真買ってきて飾ってて、ぬいぐるみ、しかもあんなにくそでかいの買ってきて、四ノ宮の部屋に置くって……無いぞー。もー、ノリだとかそんなんじゃないよー絶対無いよー。
ああ、もう……。さっきのフォローしてるつもりだった発言すら、思い起こすと、バカみたいで。
もうただただ、くるっくるっと、たこ焼き回し続けていると。
「奏斗、回すの楽しすぎる?」
四ノ宮がクスクス笑いながらオレにそんなことを言うけど。
……バカ、もう、オレはそれどころじゃないんだよ。
「もう焼けたんじゃない? 皿にのせよっか。親父、皿貸して」
「ん」
四ノ宮親子が、目の前でお皿をやり取りしてるのを見ながら、そういえば、「親父」って呼ぶんだなぁ、と。「お父様」「父上」とかじゃないんだ。まあそれは無いか。「父さん」とかが似合いそうだけど。
……もうそんなどうでもいいことのほうに思考が飛んだりする。
「あ、葛城さん、取りますね」
そう言うと、葛城さんがオレに皿を渡してくれる。
いい形で丸くなってるたこ焼きを選んで、葛城さんに渡した。
86
お気に入りに追加
1,639
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる