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ずっとそばに
「ニコニコ?」*大翔
しおりを挟む学校に来て、奏斗と別れて普通に授業中。二限目、今日は少し眠い。
『もうほんと……こうやって抱き締めるとか、おかしいからね?』
奏斗を抱きしめていた腕を解いた時、苦笑いの奏斗がそう言った。
そう? とか流して聞いたけど、今ふと、頭によみがえってきた。
おかしい、か。
……まあ確かに。気づいたら抱き締めてるとか。おかしいかな。
…………でも仕方ない。抱き締めたいと思ったんだから。体が、勝手に動いてしまった。
「セフレ」は正直ショックだった。そんな風に思わせてて、ここからどうやって接していけばいいのかなあとは考えていた。
……でも。
あんな風に、ちゃんと、謝ってくれた。
奏斗は、まっすぐだ。
色々あって、少しいびつなとこがあるけど、心の奥というか……本当の奏斗はまっすぐだと思う。押しに弱いとこあるけどそれも優しいからな気がするし、人が好きで……笑顔、可愛くて。曲がったこと、嫌いそう。挨拶もちゃんとするし、悪いことしたと思うと、ちゃんと謝る。……可愛いよな、ほんと。
「――――……」
頭ン中、奏斗のことばっか。
……ほんと、不思議な位だけど。知れば知るほど、そんな感じ。
適当に話を聞きながら、ノートをとる。それでも、ふと奏斗のことが浮かぶ。
「今日はここまで」
不意に聞こえた教授の声。もうそんな時間か、と筆記具を片付ける。
「昼どーする?」
皆がいつものセリフを口にする。いつも通り一人が食べたいものを言うと、大体皆、そこでいいよという話になって、適当に一緒に歩き出した。
「なあ、大翔さ」
「ん?」
高校から一緒の仲間の一人が、隣に並んでそう言った。視線を向けて、その言葉を待つと。
「なんか今日、すっげえ機嫌良くない?」
そう言われた。
「…………」
しばらく無言で見つめ返す。
ていうか今日、こいつとそこまで喋ってねぇよな。何を根拠に……。
「何でそう思う?」
「なんか、ニコニコしてるから」
「――――……そうか?」
そんなつもりは、全くないのだけれど。
ニコニコ?
「さっきの授業の時、斜めからお前の顔見える位置に座ってたんだけどさ。笑ってたよな?」
「……オレ、笑ってた?」
「え、気付いてねーの? やっばー。何考えてたんだよ?」
「何って……」
今日考えてたことと言ったら。
……ずっと、奏斗のこと、だけど。
朝。すごく困った顔で、でもまっすぐにオレを見て、ごめん、と言ってくれた顔と。その後、ほっとしたように緩んだ顔。
なんかあの顔が、ずっと頭の中にある。
「やっと好きな子、出来た、とか?」
「やっとって何だよ?」
引っかかった言葉にすぐ突っ込むと、はは、と笑われる。
「なんかさー、大翔はすげーモテて彼女も居たけどさ。あんま自分からは行かなかったじゃん。告られて付き合うけど、そんな好きじゃないのかなって思ってた」
「……好き、か……」
呟いて、固まっていると、また笑われて、背中をバシバシ叩かれた。
「応援するよー、めでたいじゃん、好きな子!」
「……そんな手放しで良かったとは……なんないんだけど」
「そーなの? 訳アリ?」
「……まあ。そうだな」
まだまだ心に和希が居るんだろうし。全然綺麗に吹っ切れてないし。誰とも付き合わない宣言してるし……好きな子出来て良かったとか、そんな簡単な話ではない。
「ますます応援する。んで? どこの誰?」
楽しそうに聞かれて、オレは、べ、と舌を見せた。
「絶対教えない」
「はー? 何なのお前。言えよー、応援するからさあー」
笑いながら言われたところで、電話がかかってきたのに気づいた。
スマホを見ると、葛城だった。学校に居る間にかかってくるのは珍しいな……。
「悪い、後から行く」
「おー」
皆から離れて、道の端に寄ると、通話ボタンを押した。
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