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ずっとそばに

「可愛いじゃなくて」*大翔

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「――――……」

 咄嗟に動いて、抱き締めてしまったオレに、奏斗は最初固まってた。少し時間を置いてから、オレの両腕に手を置いて少しだけ距離を置いた。

「……顔見てちゃんと話すから」
「……ん」

 抱き締めていた腕を少しだけ解いた至近距離で、奏斗はオレをまっすぐに見つめる。

「……何度も抱かれたりすること今まで無くてさ。なんか分かんなくて……言ったんだけど……」
「ん」
「……それだけしてる訳じゃないって……全然違うって四ノ宮が言ったの……昨日から、ずっと考えてて」
「うん」

 そこまで言って、奏斗は少し唇を噛んで、一度視線を外して、俯いた。
 泣きそうに、眉を寄せてから、もう一度オレを見上げた。

「……オレも、違うなって思った。だから……ほんとに、ごめん」

 そう言って、奏斗はオレをまっすぐにじっと見つめる。視線を逸らさずに、なんだかやたら潤んで見える瞳で。

「いーよ。ていうか……オレもともと怒ってないし」

 オレがそう言うと、明らかにほっとした感じで、寄せた眉が緩んだ。

「……怒ってないのは、分かってる。でも……なんか……嫌な思いさせてごめん」
「ん。……いいよ」

 じっと見つめあったまま、どう我慢しても綻ぶ口元のままそう言って、オレは頷いた。するとようやく奏斗の口元も、ふわ、と微笑んだ。

「……あのさ、奏斗」
「うん?」

「……抱き締めて、いい?」
 その質問には即答しない。でも、少し困った顔で。

「……どうして?」
 そう聞いて、オレを見上げてくる。

「……奏斗、可愛くて」
「…………可愛くないよ、オレ」

「可愛いけど……あ、じゃあ、可愛いじゃなくて……」
「……?」

 じゃあ……何だ? ……オレ今、なんて言おうとした?
 止まったオレに、不思議そうに奏斗が首を傾げる。

「……とにかく今、抱き締めたいから」

 言うが早いか、腕を引き寄せて、抱き締めた。
 奏斗は、なすがままに抱き締められたまま動かないけど。

 少しして、オレの脇辺りの服を握り締めた。

「奏斗」
「……ん?」
「なんかすげー嬉しい」
「……何で?」
「何でって……嬉しいから」

「……何が?」
「何がって?」

「……だって、オレがひどいこと言って、謝っただけじゃん……」

 何だかすごく複雑そうな声で言ってるのが聞こえてくる。

「……奏斗がちらっとそう思うのも、分かんなくはないから……そう思われないように、これからどうしようかなとは思ってたけど」
「――――……」

「……謝ってくれたのが、なんかすげー嬉しんだよ」

 なんだか不思議そうにオレを見上げてる奏斗に、ふ、と笑ってしまう。
 ――――……なんか、たまんなく可愛く見える。

 そっと頬に触れると、パチパチ、と瞬きをする奏斗。

「――――……」

 そっと、キス、してしまった。触れるだけ。すぐに唇を離して見つめると、奏斗はむーっと口を閉ざして、なんだか膨らんでるけど。それを見て、クスクス笑ってしまったせいで、ますますムッとさせてしまったけれど。……なんか、照れ隠しの怒りみたいな気がして。
 なんだか可愛くてたまらない。


 可愛いじゃなくて――――……。
 さっき、言おうとした言葉は。

 奏斗見てると。可愛くてしょうがないのに、いろいろ可哀想にも思うし、そういうのから守りたいとも思う。

 ……なんか。
 
 可愛いだけじゃなくて、もっと……愛しい、とか。それってこんな気持ちなのかなと思いながら、ぎゅーと抱き締めていたら、「もう良くない? 学校……」と声が聞こえた。


 ゆっくり腕を解くと、奏斗は苦笑いを浮かべた。





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