336 / 555
ずっとそばに
「体が勝手に」*大翔
しおりを挟む「……あのさ」
奏斗が手を止めて、そう呟いた。
静かなその声に、不思議に思って、奏斗を見ると。
少し俯いたまま、黙ってる。
「……なに?」
「あ。ううん。……食べよ? せっかくちょうど焼けたし」
「ん。そうだね」
何だか言えないみたいで、オレを見上げて笑んだ奏斗に、オレも頷いた。
無理やり聞いても仕方ないし、と思った。……気にはなるけど。
「サラダとか食べる?」
そう聞くと、奏斗は「オレはいいや」と笑う。じゃあオレもいいや、と言って二人でテーブルに座った。……なんとなく自然といつも通り、隣の席で。
「いただきます」
手を合わせて、食べ始める。
「奏斗、何時に起きた?」
「五時位。六時前までは横になってたんだけど、二度寝もできなくて」
「早いね」
「珍しく四ノ宮は起きないしさ」
ふ、と笑んでオレを見る。
「じゃあたまにはオレが作ろうかなーって思って」
「そっか」
「でもごめん、うちにパン無かったから、四ノ宮んちにあったパンだけど」
「いいよ。だって、買ってないでしょ。いつもオレんちで食べてもらってるし」
「――――……」
ふと、黙る奏斗に気づいて、ん?と顔を見つめると、ものすごい苦笑いを見せる。
「……食べてもらってるって言い方、おかしくない?」
「まぁ。……でも、その通りでしょ?」
「オレが食べさせてもらってる、ていうのが正しいんじゃないの」
「そうかなあ? 一緒に食べてもらってる」
「なにそれ、絶対変だって」
クスクス笑いながら、奏斗はオレを見て、面白そうな表情。
……楽しそうな顔すると、ほんと可愛いよな、と思いながら、そう?と聞き返すと、そうだよ、とまた笑う。
「コーヒーはうちで淹れてきたけど」
「うん。分かる」
「分かる?」
「うん。良い香りするし」
「そっか」
ふ、と笑んで、一口コーヒーを飲んでから、奏斗はオレを見つめた。
「オレもこの香り好きだから。気に入ってくれてんの嬉しい」
「――――……」
穏やかに笑む奏斗に――――……なんだか、すこし、胸の奥で。
何かを感じる。
「……奏斗、今夜はなんか用ある?」
「んー……まだ分かんない。授業終わった時一緒にいる友達とそのままご飯食べに行ったりするからさ」
「そっか」
「……オレの夕飯とか、ほんとに気にしなくていいからね?」
奏斗のそんな言葉にため息をつきそうになるけれど、なんとか、堪える。
「……ごちそうさま。美味しかった」
「あ、うん」
ふふ、と笑う奏斗に頷きながら、んー、と背伸びをする。
……何だかな。
そうなんだよな。別に恋人でもなければ、ただの隣人。しかも同学年の親友とかですらなくて、ただの、ゼミが一緒なだけの後輩。
……毎日一緒に過ごす大義名分みたいなのは、無い。
毎日毎日、奏斗のために夕飯作って待っててもいいと思う自分は居るけど、多分相当重いというか、気持ち悪がられても文句は言えない。
昨日、奏斗に、しばらくクラブは行かないと言われてしまったし。
……となると、心配だからとか、そういうのも通用しない訳で。
どーしたらいいんだか。
……我儘いって、むりむりオレの部屋に来てもらってるけど。それを毎日どうするか聞くことだって、奏斗には負担になる気がするし。
――――……「セフレ」て言われる位、だしな……。
あーマジで。……ため息だらけになりそうなところを、なんとか堪えている気がする。
「ごちそうさま。……片付けよっか」
「ですね。あ、オレ洗うからいいよ。用意してきて」
「いい。一緒に洗う方が早いよね?」
奏斗の言葉をそれ以上断る理由もないので、一緒に立ち上がって食器を流しに運ぶ。
「オレ洗うから、奏斗が流して?」
「うん」
並んで流れ作業。あっという間に片付いて、先に手を拭いていると、続いて終わった奏斗も、手を洗ってタオルに触れた。
「……歯みがこっかな」
言って足を一歩踏み出した時。「あのさ」と奏斗が言った。
「ん?」
足を止めて振り返り、そのまましばらく奏斗の言葉を待つが、何も出てこない。
「奏斗?」
「……あの」
「うん?」
またしばらく無言。一歩二歩、奏斗に近づいて、手を拭いたままタオルを握り締めてる奏斗を見下ろす。
「……どうしました?」
また何か、考えてるのかな。
なんとなく、聞くのが怖い気がしながら、そう言ったら。
奏斗は、ふっと顔を上げて、オレを見上げた。
「……ごめん」
「え?」
ごめん? 首を傾げたオレを、まっすぐで大きな瞳が、じっと見つめてくる。
「……セフレ……とか言って、ごめん」
「――――……」
俯いたまま言った奏斗に、とっさに何も出てこない。
「……奏斗?」
「……あの……そんなんじゃ、ないの、分かってる」
「――――……」
「……それ、ばっかりじゃ……ないって」
それを聞いた瞬間。頭より体が、勝手に動いて。
……気づいたら。奏斗を、抱き締めてしまっていた。
(2023/5/21)
100
🧡💛💚💙💜💚🩷🩵
お読みいただき、ありがとうございます♡
🩵🩷💚💜💙💚💛🧡
感想やリアクションが、色々な意味で、作品への後押しになります。
なにげないひとつの「ぽちっ」が、私のやる気も後押ししくれています(´∀`*)ウフフ
いつもありがとうございます🩷
投稿サイトが増えてきて全部でお知らせとかが大変なので、
Xでまとめてすることが多いです。
Xノベルとか、短いBL創作とか、これから色々していこう~と思っているので、
フォロー&応援お願いします🩷
🩵「悠里のX」こちら✨です🩵
お読みいただき、ありがとうございます♡
🩵🩷💚💜💙💚💛🧡
感想やリアクションが、色々な意味で、作品への後押しになります。
なにげないひとつの「ぽちっ」が、私のやる気も後押ししくれています(´∀`*)ウフフ
いつもありがとうございます🩷
投稿サイトが増えてきて全部でお知らせとかが大変なので、
Xでまとめてすることが多いです。
Xノベルとか、短いBL創作とか、これから色々していこう~と思っているので、
フォロー&応援お願いします🩷
🩵「悠里のX」こちら✨です🩵
お気に入りに追加
1,672
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺にとってはあなたが運命でした
ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会
βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂
彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。
その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。
それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる