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ずっとそばに
「わかんない」*奏斗
しおりを挟むアイスを食べ終えて、コーヒーを飲んでると、ふと四ノ宮がオレを見つめた。
「そういえば、奏斗さ」
「うん?」
「オレンジの方が食べたかった?」
「ん? あ、うん。食べたら、なんとなくオレンジ気分だった」
「はは。そうだと思った」
クスクス笑って、四ノ宮が言う。「ん?」と聞き返すと、四ノ宮は可笑しそうに瞳を緩める。
「おいしーて、ほんと嬉しそうだったから。分かりやすいよね」
「……え、でもチョコミントも美味しかったけど」
「そうなんだろうけど。オレンジ食べた時の方が、幸せそうだった」
そう言われてみると、オレンジおいしー幸せーて思った自分がよみがえる。
「……だから、四ノ宮はミント、って言ったの?」
「ん。オレ、本当にどっちでも良かったから」
むむ。
……なんかこう、操られたみたいで、ちょっと嫌……なんて思っていると。
「奏斗が美味しいって顔してんのさ」
「……」
「なんか……」
「………… なに?」
楽しそうに言い始めたくせに、「なんか」の後、ずっと止まってる。何を言うつもりなのかと、ただ待っていると。
「……何だろね。なんていうか……」
「うん」
「……んー……。なんか、オレも幸せになるって言うか……」
「――――……」
「何て言ったらいいか分かんないけど、そんな感じ」
「……何言ってんの、ほんとに」
もう真剣にそう思って漏らした言葉に、四ノ宮は苦笑い。
「絶対そう言うだろうから言葉選ぼうと思ったんだけど。なんか他に浮かばなかった」
「――――……」
……ほんと。
四ノ宮の言うことは予想外なことが多くて。いつも返事に困る。
「四ノ宮のさ、そういうの……」
「ん?」
「……普通は彼女とかに言うもの、だと思うんだけど」
ほんと、変な奴。
……そう思いながら言うと、四ノ宮は、んー……と考えてから。
「別に、彼女とは限らないでしょ」
「……」
「……大事だから思うんだと思うし」
「――――……」
……よく恥ずかしくないなぁ。
としか浮かばない。もうなんか、ほんとになんて答えればいいのか、全然分からない。
オレは二号を持って、抱き締めてつぶした。
「あのさ、奏斗」
「もう何も言わなくていいよ」
「……何で?」
四ノ宮は面白そうにオレを見つめる。
「答えに困るから」
「――――……はいはい。分かりました。片付けてきちゃうね」
笑みを含んだ声でそう言って、立ち上がる四ノ宮につられて立とうとすると、「二号抱いてていいよ」と笑いながら離れていった。
こういう、ほいほい動くとこ。なんとなく弟っぽいなーと思ってたけど。今日瑠美さんに会って、なんか……色々な意味で強烈で、なんかますます納得。柔らかいのに、なんだか逆らい難い感じがしたもんなあ……。
そんなに時間もかからず、食器を片付けてきた四ノ宮は、二号を潰してるオレを見て笑いながら、また隣に腰かけた。手にスマホを持っている。
「写真撮っていい?」
「は? やだ」
「なんかすげー可愛いんだよね、撮っていいでしょ?」
「撮って何すんだよ」
「……眺める?」
「やだ、絶対。意味分かんない。絶対無理、絶対ヤダ。二号だけ撮れよ、可愛いから」
断固拒否してると、四ノ宮は、あは、と笑いだして、「面白いよね、奏斗」と言いながら、肩を震わせている。
「二号ってオレに似てるんでしよ? 可愛いの?」
「……そう言われると躊躇うんだけど……似てる部分と、可愛い部分は別かな。トータルで可愛いけど」
「何それ」
またクックッと笑いながら、四ノ宮はオレを見る。
「撮らせてよ」
「やだよ。あの写真だけでも結構恥ずかしいのに」
言いながら、オレの視線が向いた方を四ノ宮の視線も追う。
「アレ飾るのやめない?……ってお前んちだから勝手なんだけど……あれこそ、葛城さん、変に思うよ?」
こないだの遊園地の、ジェットコースターの写真。
四ノ宮は「すげー気に入ってるから」とクスクス笑う。
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