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ずっとそばに
「名前」*奏斗
しおりを挟む「――――……っ」
……言えない。
撫でられるの、ぬいぐるみじゃなくて、オレかと思ったなんて。
絶対無理。
知らないうちに、唇を噛んで、真上に居る四ノ宮の顔をただ見上げて、数秒。オレを囲ってた手が頬に触れて、ぷに、とつまんできた。
「何、そんな頑ななの?」
ふ、と瞳が緩んで、クスクス笑う。
「どうしたの、急に。オレなんか変なこと言ったっけ?」
そんなことを言いながら、オレの上で考えるのやめてほしい。
少し考え始めた四ノ宮の下から起き上がろうと動くと、すぐにまた、組み伏せられた。
「そんな顔しといて、理由言わないとか、無しだよ」
「――――……別になんでもない。そんな顔、って何か分かんない」
言うもんかー。
心の中で叫んでいると。
四ノ宮は、ふー、と息をついて、オレの顎を捕らえた。
「……っ」
唇が触れてきて、オレの少し噛みしめてた唇に舌が触れる。
コーヒーの、香りが、する。
自分の淹れたコーヒーの香り、こんな風に感じる、とか。
「……口開けて」
笑いを含んだ声で言われて、何なの、とすごく思うのに。
四ノ宮の指が、オレのうなじから後頭部にかかって、す、と耳に触れてくると、ぞくっとした感覚が、簡単に沸き起こって、ぎゅ、と目をつむった。
なんか、オレ……敏感すぎ、なんじゃ……。ナニコレ。
焦って、「離して」と言おうとした口に、舌が入ってきた。
「……っん」
頭を押さえられてるから動けなくて、容赦ない、キスを、される。
「……んン……っ……ぅ、ん」
あっという間に、息が熱くなる。少し離れて、はぁ、と吐いた口をまた塞がれて、声が漏れる。押し返そうと胸についた手には、なぜか力が入らなくて。
そこの服を、ぎゅと握り締める。
「はは……かわい」
気づいた四ノ宮が、オレの手を取って、絡めて、ソファに押し付ける。
「……ふ……っ……」
深くキスされて。
なんかもう、酸欠……。
思った時。絡んでいた舌が離れて、最後、みたいに唇を押し付けられて、少し離れた。
「……言わないの?」
「……だから、別になんでもないし」
「ふうん……」
形の良い唇が、ニヤ、と笑って、じっと見つめられると。
なんかとても気まずく思いながらも何も言わずにいると。四ノ宮はオレの腕を掴んで、体を起こさせる。
「……まあ良いけどさ」
クスクス笑いながら、オレを起こして、コーヒーを渡してくる。
「せっかく淹れてもらったのに冷めちゃうから。飲も」
「…………」
こく、とコーヒーを一口。
――――……なんか。めちゃくちゃ短い間で、深くされたキスの感触が、消えないのだけれど。何も言わず、飲んでいると。
「オレがぬいぐるみ撫でてからだよね? 他に何か言ったっけ……」
「……」
どうやら、四ノ宮が何か言ったからだと思っているみたいなので、とりあえず首を振って、それ以上何も答えず、乗り切ることにした。コーヒーを置いてから、ぬいぐるみをもう一度抱える。
「あ」
不意に浮かんだ言葉に、思わず声が漏れた。
「ん?」
四宮がオレを見て、首をかしげる。
「決めた。名前」
「ん? 何にしたの?」
「二号」
「……ん?」
「二号にする」
二号って、と、四ノ宮は不思議そうな顔をした後。
「もしかして、オレの二号、とか?」
「……なんでもいいから、とにかく二号」
そう言うと、四ノ宮はクッと笑い出して、しばらく楽しそうな顔をしてたけど、まあいいんじゃない、と微笑む。
「じゃあ、二号、ね」
くす、と笑いながら、また、ぬいぐるみ、もとい、二号を撫でた。
もちろん二号の方が断然可愛いけど。
なんか似てるし。……四ノ宮も実は意外とちょくちょく抱いたり撫でたりして可愛がってるし。それでいいや。
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