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ずっとそばに

「消えていく言葉」*奏斗

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 あ。前に見たことのある映画の続編だ。
 ……ふーん。続編やるんだ。面白かったけど、別に、あれで終わりでも良かったような気がする。
 ラスト、感動したよなぁ。……続編はどうかなぁ。あとで調べてみようかな。
 ぼー、とそう考えた時、その機械の並びにある、さっきの雑誌が目に入った。遠いから顔は見えないけど、人が映ってるのは分かる。

 四ノ宮と、ちょっと似てたなと思い出す。イケメン親子なんだなぁ。お姉さんも綺麗だったし。潤くんも超可愛かったし。あの感じだと、四ノ宮のお母さんもきっと美人なんだろうな。

 うーん。とにかく、なんかゴージャスな感じ。世界が違う感がすごくあるな……。
 なんとなくため息をつきながら、もう一度、映画の広告に目を向けたところに、四ノ宮がレジを終えて歩いてきた。

「何? 映画?」
「あ、うん。ありがと」
「うん。……ああ、続編かー。面白いかな、これ。もう前ので完結で良かった気がするんだけど。ってか、これ、見たことある?」
「……うん、まあ」

 今思ってたことと全く同じことをさらっと言われて、なんとなく言葉が出ない。同じこと思ってた、と言おうかどうしようか少し迷う。全く同じとか、とってつけたみたいだしなぁ、とか思っていると。

「アイス溶けるからとりあえず帰ろっか」

 迷ってる内に、四ノ宮がそう言って、またオレの背に触れてきたので、なんとなく、一緒に歩き始めた。

「――――……」

 ……何で、いつも、背中に触れてくるんだろ。

 こないだクラブで、他の男に触れられて嫌だった時から、何でだか、四ノ宮に触られても、すごく気になるようになってしまった。ただ、四ノ宮のは、嫌な訳じゃないんだけど……何で、むこうは嫌で、四ノ宮は嫌じゃないんだろうとか。……前は嫌じゃなかったはずなのに、どうしてすごく嫌だったんだろうとか。よく分からない疑問が浮かんでしまうから、四ノ宮に触れられると、気になってしまう。

 四ノ宮は触れてくると言っても、強く押される訳じゃない。なんか、こっち行こ、みたいな、そんな感じの……エスコート、的な感じかな? ……こういうの、癖なのかな? 誰にでも、してるんだろうか。

「あのさ」
「ん?」
「……あの……」
「うん?」

 首をかしげてる四ノ宮に、一瞬で色々考える。

 誰にでも、背中触るの? ドアとか開けてどうぞ、みたいな。行こう、て時も、そっと触れるし。何で? と聞きそうになっているのだけれど。

 ……でも、これ、聞いて何になるんだ? ……誰にでもやるって言われても微妙だし、逆に、オレにしかやらないって言われても、結局返答に困るし……。一瞬で色々考えた末、オレは質問を変えた。

「……お父さんの雑誌、買わないの?」

 そう言ったら、四ノ宮は、は?と眉を顰めた。

「買わないよ。雑誌用にもっともらしいこと言ってるだけだろうし」
「そうなの?」
「そうだよ」

 苦笑いの四ノ宮に、ふーん、と頷いて。
 本当に聞きたかった方は、言うのをやめた。

 マンションまでの道を歩きながら、週末の合宿の話をしながらも、なんか、ほんとに一緒に居る機会が多すぎて、なんだかなあと思う。
 家が隣でずっと一緒に居て。ゼミの合宿も一緒で、次の週は四ノ宮家のハーティーに出る予定だし……あ。そうだ。真斗の試合の日程決まったんだった。これも普通なら、大学の奴に言うことじゃないんだけど。

「あのさ、四ノ宮、真斗の次の試合なんだけど……」
「ああ、いつになったって?」
「今週の日曜の午前中だって。だから見に行けないけど」
「そっか。残念。応援行きたかったのに」
「――――……行きたかった?」
「行きたかったけど? 何で?」

 だって、オレの弟で、お前にはあんまり関係ないし。
 出てきそうになったその言葉は、心底不思議そうな顔してる四ノ宮の笑顔に、口から出ずに、消えた。

 なんだか……さっきから、言わずに、消えていく言葉たち。
 ……なんでだろう。言えばいいのに。


「……ありがと。伝えとく。そう言ってたって」
「伝えといて。念送っとくからって」
「何それ……」
「絶対伝えといて」
「……分かった」

 クスクス笑いながら、マンションのエントランスを進んでエレベーターに乗り、部屋の階で降りた。部屋に向かって歩きながら、四ノ宮がオレを見つめる。

「コーヒー淹れたら、うち来てね?」
「ん。……アイス冷やしといて」
「分かった。シャワーは? 浴びてくる?」
「うん。浴びてく」
「待ってるね」

 そう言われて、頷いてから、ふっと浮かんだのは。
 
「ぬいぐるみも、待ってるかなー」
「――――……」

 昨日、抱き締めてたらどけられてしまった、可愛いぬいぐるみを思い出してそう言うと、四ノ宮が苦笑した。


「ずっと、ぬいぐるみって言ってるのも変だから、名前つけよっか……」

 そう言うと、「好きにつけて」と言いながら、ますます可笑しそうに笑う。


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