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ずっとそばに
「片思い」*大翔
しおりを挟む小物まで色々決めてやっと終了。店を出た所で店員と別れると、隣で奏斗が、ふーと息をついた。
「疲れた?」
「……雰囲気に、疲れた。高級感、すごいし」
言いながら、ちら、と見上げられる。
「四ノ宮は、慣れてそう。ほんとにお坊ちゃんなんだな」
何やらしみじみ言われて、苦笑い。
「別にオレが何かしたってわけじゃないけどね……」
「まあ……もう、生まれた身分って感じだよね。継ぐの? 会社とか」
「……さあ? まだ分かんない」
「ほかにやりたいこととかあるの?」
「んー……大学行ってる間にはっきり決めようと思ってるけど」
「そうなんだ……あ」
奏斗がふわ、と微笑んだ方向を見ると、店から姉貴と潤が出てきて、潤がまっすぐこっちに走ってくるところだった。
「潤くん」
クスクス笑って、奏斗がしゃがむ。
しゃがんだ奏斗の前で、ニコニコの潤。
「潤くんのスーツ、楽しみにしてるね。可愛いだろうね」
奏斗がそう言うと、潤はプルプルと首を振った。
「ん?」
「かっこいいなの!」
「え?……あ、うん。そっか。カッコイイ、だよね?」
一瞬首を傾げた奏斗は、クスクス笑って、潤を撫でた。
「そうだよな、男の子だもんな」
頷いてご機嫌の潤の頭に手を置いて、ヨシヨシと撫でる奏斗。
「何だよ、潤、奏斗にカッコいいって思ってほしいの?」
オレがそう聞くと、「うんっ」と満面の笑み。そんな嬉しそうに笑うかと、ちょっと引いてるオレには構わず、奏斗は、「あはは、かわいー、潤くん」とか笑ってる。で、「かっこいい」と、また潤に訂正されてる。
「あ、ユキくん、アレ見てー」
まだ舌足らずな感のある言葉で言うと、奏斗の手を引いて、店のショーウインドーに引っ張っていった。
その二人の笑顔のやり取りは可愛い気もするけど、大好きすぎじゃねーか?と思いつつ。でもやっぱり、可愛いコンビな気がして、ふ、と笑ってしまっていると、姉貴が隣にやってきた。
「……潤が一緒にご飯食べたいんだって」
「え?」
「私たちは夕飯済ませてきたし、もう帰るけどね。ユキくんともご飯食べたいーって、さっき言ってた」
「ああ。ほんと、奏斗のこと気に入ったんだな……」
苦笑いのオレを、ふ、と見上げてくる。
「……妬けちゃう?」
何だか意味ありげに微笑んでる姉貴を見下ろして、「は?」と眉を寄せると。「まあいいんだけどね」とクスクス笑われる。
「あんなちっちゃい甥っ子に、妬かねえし」
ちょっとモヤついた気がするのは隠して、そう言うと。
「甥っ子じゃなくて、小さくなければ、妬くってことね」
楽しそうにクスクス笑われて、前髪を掻き上げて、ため息。
「……別に、付き合ってるとかじゃ、ねーよ」
「うん。分かるわ」
「…………」
あーいやだ、ほんと。
ため息がまた零れる。
「大翔の片思いでしょ?」
「――――……」
「……好きな人、出来て良かったね」
「…………」
まっすぐオレを見つめてそう言う姉貴に、オレは数秒返せない。
好きな人、か。
「……そう見える?」
オレがそう聞くと、姉貴は一瞬オレを探るように見つめてから、クスッと笑った。
「そうとしか見えないけど……」
「……つかさあ。いーの、弟の好きな奴が、男で」
そう言うと、姉貴はますます面白そうに笑った。
「人めんどくせーとか。病んだこと言ってるより、ずっと良いけど」
「……そういえば最近、あんまり言ってないかも」
「へえ。……良い影響だね」
そう言われて、奏斗が潤を抱っこしたのを見ながら。
「……まあ、あの人が、一番めんどくさいんだけどね」
そう言うと、姉貴はオレを見て、また笑った。
「大翔が、めんどくさくてもいいって思えたなら、すごいことだけどね」
「……何でそんな色々いう訳。あんま言ったことないじゃん今まで」
そう言うと、姉貴は、心外なんだけど、と笑う。
「別に構わなかったわけじゃないし。だって、めんどくさいって言ってる子に、何て言ったって無駄でしょ。ほんとに好きな子が出来たらいいなあとずっと思ってたのよ」
「――――……」
……口で、勝てる気がしない。
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