上 下
320 / 554
ずっとそばに

「へんなこと」*大翔

しおりを挟む


 なんて答えようか。……ていうか、もうなんて答えても意味無さそうなんだよな……。
 半分諦めモードでそう思っていたところに、採寸を終えた奏斗が近寄ってきた。

「次、四ノ宮だって」
「あー……ん、了解」
「……? 何? どうかした?」

 奏斗も奏斗で、ほんの少しの雰囲気の違いにすぐ気づいて、不思議そうに聞いてくる。
 
「なんでもない。行ってくる」

 姉貴、変なこと言うなよ、と口に出そうだったけど、言っても無駄だし、言う方が怪しまれると、なんとか飲み込んだ。

「雪谷さんは、シャツとネクタイも決めましょうか」
「それ、オレもあとで一緒に選ぶから、靴、決めといて」

 葛城のセリフにオレがそう返すと、え、靴も選ぶの? と奏斗の顔が明らかに言ってる。

「靴も良さそうなの履いて決めといて?」

 何か言いたげだったけど、葛城がすぐ動いたので、オレはその場を少し離れた。

 採寸が進んで、カルテに書き込んでいくのをなんとなく見ながら、「サイズ、変わってる?」と聞くと、「そうですね」と微笑まれる。

 何やら楽しそうに姉貴が笑ってるのが、どうにも気になる。
 奏斗はいつも通り。人当たりの良い感じで、ニコニコしてるけど。……まあ、オレが外面繕うのとは違って、ほんとに楽しそうなんだと思うけど。
 ……潤もすぐ、懐いたな。人見知りというほどではないけど、オレが居ると、オレの腕にのっかってることが多かったのに。奏斗みたいなのが好きなのかな。

 ……つか、奏斗みたいなのは、誰でも好きかな。……顔、可愛いし、優しそうだし。誰にでもモテるだろうな。

 そう思いながら、でも実際は、全然違う奏斗の色んな顔を思い出す。
 
 ……大体にして、自分のこと、好きじゃないもんな。奏斗って。
 他人のことは好きっつーか……多分「人」は好きなのに。
 自分のことが、好きじゃない。男にも女にもモテるとか言ってくせに、そいつらが、奏斗とずっと居るとは、思っていない。
 好きじゃなくなる日が、来るって、思ってる。

 ……和希。……マジで責任重大だと言ってやりたいが。
 奏斗がそんなに振り回されてるのを伝えるのも癪だし。はー、ムカつく。

 ……顔が険しくなりそうで、前髪を掻き上げて和希を頭から追い出す。奏斗の方を見ると、まあ奏斗の膝に潤がちゃっかり乗っかってて、すごく楽しそうにしてる。

 少し距離があるから奏斗たちの会話には参加できないので、ひたすら考えながらメジャーをあてられていると、部屋にある内線電話が鳴った。

「出ていいよ」

 そう言うと、失礼しますね、とスタイリストが少し離れた。
 それに気づいた奏斗が近づいてきて、「あのさ」となんかちょっと困った顔をしている。

「何? どうかした?」
「靴、これは? って葛城さんが」
「ん? ああ」

 奏斗の履いてる靴を見て、「いいんじゃない?」と言うと、そうじゃなくて、と奏斗。

「なんかこのままだと色々買われそうなんだけど……」
「うん?」
「……なんか、ほんとに良いの? って気になってきたんだけど」
「いいよ。奏斗が着たら宣伝になるって葛城も言ってたし」

 こそこそ言ってくるので、オレもこそこそ答える。

「オレ、宣伝になるかな? そんなところ、ちゃんとおかしくないように居られるのかも心配なんだけど」
「大丈夫。立ってるだけで、目立つから。いい意味でね?」

「……だから……死ぬほど目立つ奴に言われても……」

 奏斗が、もー、と頭を掻いてるけど。

「それよりさ」
「……ん?」
「姉貴に何かへんなこと言われてない?」
「……へんなこと??」

 不思議そうにオレを見てるので、とりあえず、特別何も言われてないのかなと一安心してると、奏斗はますます不思議そうな顔でオレを見上げてきた。






しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...