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ずっとそばに
「へんなこと」*大翔
しおりを挟むなんて答えようか。……ていうか、もうなんて答えても意味無さそうなんだよな……。
半分諦めモードでそう思っていたところに、採寸を終えた奏斗が近寄ってきた。
「次、四ノ宮だって」
「あー……ん、了解」
「……? 何? どうかした?」
奏斗も奏斗で、ほんの少しの雰囲気の違いにすぐ気づいて、不思議そうに聞いてくる。
「なんでもない。行ってくる」
姉貴、変なこと言うなよ、と口に出そうだったけど、言っても無駄だし、言う方が怪しまれると、なんとか飲み込んだ。
「雪谷さんは、シャツとネクタイも決めましょうか」
「それ、オレもあとで一緒に選ぶから、靴、決めといて」
葛城のセリフにオレがそう返すと、え、靴も選ぶの? と奏斗の顔が明らかに言ってる。
「靴も良さそうなの履いて決めといて?」
何か言いたげだったけど、葛城がすぐ動いたので、オレはその場を少し離れた。
採寸が進んで、カルテに書き込んでいくのをなんとなく見ながら、「サイズ、変わってる?」と聞くと、「そうですね」と微笑まれる。
何やら楽しそうに姉貴が笑ってるのが、どうにも気になる。
奏斗はいつも通り。人当たりの良い感じで、ニコニコしてるけど。……まあ、オレが外面繕うのとは違って、ほんとに楽しそうなんだと思うけど。
……潤もすぐ、懐いたな。人見知りというほどではないけど、オレが居ると、オレの腕にのっかってることが多かったのに。奏斗みたいなのが好きなのかな。
……つか、奏斗みたいなのは、誰でも好きかな。……顔、可愛いし、優しそうだし。誰にでもモテるだろうな。
そう思いながら、でも実際は、全然違う奏斗の色んな顔を思い出す。
……大体にして、自分のこと、好きじゃないもんな。奏斗って。
他人のことは好きっつーか……多分「人」は好きなのに。
自分のことが、好きじゃない。男にも女にもモテるとか言ってくせに、そいつらが、奏斗とずっと居るとは、思っていない。
好きじゃなくなる日が、来るって、思ってる。
……和希。……マジで責任重大だと言ってやりたいが。
奏斗がそんなに振り回されてるのを伝えるのも癪だし。はー、ムカつく。
……顔が険しくなりそうで、前髪を掻き上げて和希を頭から追い出す。奏斗の方を見ると、まあ奏斗の膝に潤がちゃっかり乗っかってて、すごく楽しそうにしてる。
少し距離があるから奏斗たちの会話には参加できないので、ひたすら考えながらメジャーをあてられていると、部屋にある内線電話が鳴った。
「出ていいよ」
そう言うと、失礼しますね、とスタイリストが少し離れた。
それに気づいた奏斗が近づいてきて、「あのさ」となんかちょっと困った顔をしている。
「何? どうかした?」
「靴、これは? って葛城さんが」
「ん? ああ」
奏斗の履いてる靴を見て、「いいんじゃない?」と言うと、そうじゃなくて、と奏斗。
「なんかこのままだと色々買われそうなんだけど……」
「うん?」
「……なんか、ほんとに良いの? って気になってきたんだけど」
「いいよ。奏斗が着たら宣伝になるって葛城も言ってたし」
こそこそ言ってくるので、オレもこそこそ答える。
「オレ、宣伝になるかな? そんなところ、ちゃんとおかしくないように居られるのかも心配なんだけど」
「大丈夫。立ってるだけで、目立つから。いい意味でね?」
「……だから……死ぬほど目立つ奴に言われても……」
奏斗が、もー、と頭を掻いてるけど。
「それよりさ」
「……ん?」
「姉貴に何かへんなこと言われてない?」
「……へんなこと??」
不思議そうにオレを見てるので、とりあえず、特別何も言われてないのかなと一安心してると、奏斗はますます不思議そうな顔でオレを見上げてきた。
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