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ずっとそばに
「思わぬ登場」*大翔
しおりを挟む店の駐車場に着いて、葛城が車を停めた。奏斗と店の前に立つと、奏斗は、うわーと少し口を開けて店を見て、それからオレを見上げてきた。
「……思ってた以上に、オレ、場違いじゃない?」
「そんな事ないよ」
「なんかせめてもっと良い服着てくれば良かった気が……」
「全然大丈夫。オレも普段着だし。普通に大学帰りって知ってるし」
そう言いながら「話したろ?」と振り返ると、後からやってきた葛城も笑いながら頷いた。
「大丈夫ですよ。入りましょう」
葛城の言葉に、オレは奏斗の背に手を置いて一緒に店に入った。
「いらっしゃいませ」
何度か来ているけれど、いつも通り品のいい音楽が流れた静かな店内。
奏斗は横で少し固まってる。
……慣れないよな、きっと。
「大翔さん、いらっしゃいませ」
もう何度めかのこの店のスタッフ。多分一番接客のできる人がいつもオレにつくんだと思う。社長の息子に変なところは見せられないんだろうとは思うけど。……別に、オレは関係ないんだけど。
「大翔さんのお友達ですね。ご来店ありがとうございます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
戸惑いながらも、奏斗がそう返してる。
「こちらにどうぞ」
そう言われて、「奏斗、奥で採寸とかするから。行こ」と声をかけると、ん、と頷いてついてきた。案内された部屋のソファに、二人並んで腰かける。
普通なら、スタイリストと話して、どんな時に着るスーツかとか、好みやライフスタイルなんかのヒアリングをして、細かい好みなど聞く時間を取るらしいけど、大体オレが来る時は、そこらへんは事前に葛城が話してくれている。今回もそうで、もう創立記念のパーティーで着るものとして伝わっていて、多少目立つものを、と言いながら、生地の色見本を見せてくる。
「オレと奏斗で色わけよ。奏斗、どれがいい? オレ、違うのにする」
「色って言われても、なにが良いの?」
「別に決まってないから、好きな色、とりあえず選んで?」
「スーツで好きな色かぁ……」
「ネイビーとかグレーとか……黒も似合いそうだけど」
奏斗はオレが指さした色をんー、と見つめていたけど。
「ネイビーが好きかな……でもパーティーに合うのか分かんないし」
「別に似合ってればなんでもいいよ。てか、絶対似合うし」
「見たこと無いのに何を根拠に……」
奏斗が苦笑いを浮かべて、オレを見つめてくる。
「色を合わせてみますか?」
スタイリストが奏斗にそう言うので、そうしよ、と一緒に立ち上がった。
大きな鏡の前に立って、色見本の上着を奏斗に近づける。
右半身にネイビー、左にグレーを重ねた時。
コンコンとノックの音がして、部屋のドアが開いた。何気なく振り返ると、店員に続いて入ってきたのは――――……。
「は? ……姉貴?」
びっくりして言ったオレに、姉貴がにっこり笑う。奏斗がスーツの上着をあてられたままの形で、えっ?とオレを見つめてくるのが分かる。
後ろからひょっこり顔を出したちびっこが、オレを見て、笑顔。
「あ、ヒロくんー! わーい!!」
驚いてるオレに、飛びついてきたのは。
「うわ。潤も居るのか」
小さい体を受け止めたオレを、これまた目をぱちくりさせながら奏斗が見ている。スタイリストが、あてていた色見本のスーツを奏斗から離した時、姉貴がネイビーの方を手に取った。
びっくりしてる奏斗に、ネイビーを当てて、鏡を一緒に振り返る。
「ごめんなさいね、邪魔してしまって」
「あ、いえ……」
「圧倒的にネイビーが似合う気がする。めちゃくちゃ可愛いわね、この子」
びっくりして固まってる奏斗を、かなり近くで笑顔で見つめる姉貴に。
「近いって」
潤を抱えたまま、奏斗の腕を引いて、オレの方に引き寄せた。
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