312 / 553
ずっとそばに
「安眠?」*奏斗
しおりを挟む……静か。
黙ってカフェオレを飲み終えた。四ノ宮も、特に何も話さない。
こと、とカップをテーブルに置く音が、やけに響く。
……カップ片付けようかなあ。四ノ宮、飲み終わったかなあ、なんて考えていたら、急に眠気を感じてあくびをかみ殺した。
そしたら四ノ宮の笑う気配。
「奏斗、もう眠い?」
「……」
四ノ宮の方は向かずに、うん、と頷く。
「寝よっか。片付けるから、歯磨きしてて」
言いながら立ち上がった四ノ宮が、オレの前からカップを持って流しの方に行く。なんか鼻歌みたいなの歌いながら、もう洗い始めてる。手伝うとか言ってもいいよと絶対言われそう……。もう、言われたまま、リビングから離れて洗面台で歯を磨いてると、四ノ宮もすぐやってきた。
「……ありがと」
歯ブラシをくわえたまま言うと、ん、と微笑んで、四ノ宮も歯を磨き始める。
「――――……」
……変。
並んで歯を磨くのも。絶対変。
……オレと四ノ宮は、一緒に暮らしてるんじゃないんだから。
オレんち、隣なんだよなぁ。……最近帰ってなくない? んん? いつから家で寝てないっけ。
パッと思い浮かばず、眉を顰めていると、四ノ宮がクッと笑い出した。
「何でそんな突然、険しい顔すんの?」
「……」
口をすすいで、タオルで拭いてから、四ノ宮を見上げた。
「オレ、自分ちで寝てないなーと、思って」
「……ああ。ちょっと待って」
歯を磨きながら、四ノ宮は苦笑い。とりあえず歯を磨き終えることにしたみたいで、オレは、なんとなくそのまま待つ。
磨き終えた四ノ宮が口をすすいで、タオルで拭いてから、オレを見下ろす。
「もう引っ越してきちゃってもいいけど?」
その言葉に、もっと眉が寄ったことにオレも自分で分かったけど、四ノ宮は、また面白そうに見つめてくる。
「わざわざ待たせて冗談言うなよ……」
もうなんかほとほと疲れて、ため息をつきながら洗面所を出ようとしたオレは。後ろから、ウエストに回ってきた腕に、ぐい、と引き止められた。
「え」
気づいた時はもう、後ろから、ぎゅー、と抱き締められるみたいな形になってて、身動きが取れない。
「ちょ……」
「あのさ」
「……っ」
動けないので、固まるしかない。
「冗談じゃないよ」
耳元で囁かれて、なんだかやけに真剣な感じのするトーンに。
……心臓が、どきん、と弾んだ。気が。したような。
何も言えずに硬直していると、ゆっくりと、腕を解かれた。
「オレ、トイレ寄ってくから。先、寝室行ってて。……奏斗トイレは?」
「……いい」
「じゃ待ってて」
言いながら、洗面所の電気を消して、そのままトイレに消えていった。
……待ってて、じゃねーし。もう。
一瞬、家に帰ろうと思うんだけど……なんかもうそのやりとりをするのもめんどくさい……。今日はもう、寝ちゃおう。ほんと、眠いし。……色々意味も分かんないし。
寝室に行くと、ベッドにぬいぐるみが座ってる。
座って、抱き締めて、その頭に、顎をのせてつぶす。
……かわい。
やわらか。
ふ、と笑んでしまう。
ぎゅーと、抱き付いていると。
「うわ……」
と言いながら、四ノ宮が現れた。
なんだかものすごく嫌そうだ。こんなに可愛いぬいぐるみを見て、何でその顔、と思ったら。
「それじゃなくてオレに抱き付きなよ」
とか言ってのける。
「は……? やだよ。四ノ宮、柔らかくないもん」
「は? ちょっとそいつ、マジで寝室禁止。……リビングに持ってくの忘れてた」
「つか、抱っこしに来いって言ったのお前じゃん」
「寝室は無し」
「つか、マジ意味分かんない。こんな可愛いものに、どーしてそんなこと言うんだよ? 四ノ宮が買ったんじゃん」
「――――……」
四ノ宮が、とっさに何も言わず、数秒黙った。
その後。すっごい嫌そうな顔をしながらベッドに入ってきたと思ったら、オレからぬいぐるみをすぽんと奪って枕元にそれを置いた。
それからオレをグイと引いて、そのまま寝転がって、手を伸ばしてリモコンで電気を小さくする。
「……っ気持ちいのに」
「奏斗がこれ抱いてると、オレが奏斗抱けないじゃん」
「……っ抱、かなくていいし」
カッと顔が熱くなる、と。四ノ宮は、ふ、と笑って、オレの頬をぶに、とつぶした。
「今日は寝ていいよ。さっきすごい眠そうだったし。昨日も疲れてたし、もう今日は遅いし。明日も採寸行かなきゃだしね」
「……っじゃあいいじゃん。ぬいぐるみ」
「だめ」
そのまま、すっぽり抱き込まれるみたいに。……もう全然放してくれそうな気がしないので、諦めた。
「も。寝る……」
「ん。おやすみ」
クスクス笑って、四ノ宮が言う。
絶対おかしい。何度も思うのに。
……何してんだろう。オレ。
でもなんだか。……すぐ、うとうと眠くなって。
……そのまま、眠ってしまった。
なんかオレ最近。すごく寝つき、良い気がするような、と。思いながら。
(2023/4/8)
90
お気に入りに追加
1,639
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる