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ずっとそばに

「安眠?」*奏斗

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 ……静か。
 黙ってカフェオレを飲み終えた。四ノ宮も、特に何も話さない。

 こと、とカップをテーブルに置く音が、やけに響く。

 ……カップ片付けようかなあ。四ノ宮、飲み終わったかなあ、なんて考えていたら、急に眠気を感じてあくびをかみ殺した。
 そしたら四ノ宮の笑う気配。

「奏斗、もう眠い?」
「……」
 四ノ宮の方は向かずに、うん、と頷く。

「寝よっか。片付けるから、歯磨きしてて」

 言いながら立ち上がった四ノ宮が、オレの前からカップを持って流しの方に行く。なんか鼻歌みたいなの歌いながら、もう洗い始めてる。手伝うとか言ってもいいよと絶対言われそう……。もう、言われたまま、リビングから離れて洗面台で歯を磨いてると、四ノ宮もすぐやってきた。

「……ありがと」
 歯ブラシをくわえたまま言うと、ん、と微笑んで、四ノ宮も歯を磨き始める。

「――――……」

 ……変。
 並んで歯を磨くのも。絶対変。

 ……オレと四ノ宮は、一緒に暮らしてるんじゃないんだから。
 オレんち、隣なんだよなぁ。……最近帰ってなくない? んん? いつから家で寝てないっけ。
 パッと思い浮かばず、眉を顰めていると、四ノ宮がクッと笑い出した。

「何でそんな突然、険しい顔すんの?」
「……」

 口をすすいで、タオルで拭いてから、四ノ宮を見上げた。

「オレ、自分ちで寝てないなーと、思って」
「……ああ。ちょっと待って」

 歯を磨きながら、四ノ宮は苦笑い。とりあえず歯を磨き終えることにしたみたいで、オレは、なんとなくそのまま待つ。
 磨き終えた四ノ宮が口をすすいで、タオルで拭いてから、オレを見下ろす。

「もう引っ越してきちゃってもいいけど?」

 その言葉に、もっと眉が寄ったことにオレも自分で分かったけど、四ノ宮は、また面白そうに見つめてくる。

「わざわざ待たせて冗談言うなよ……」

 もうなんかほとほと疲れて、ため息をつきながら洗面所を出ようとしたオレは。後ろから、ウエストに回ってきた腕に、ぐい、と引き止められた。

「え」

 気づいた時はもう、後ろから、ぎゅー、と抱き締められるみたいな形になってて、身動きが取れない。

「ちょ……」
「あのさ」

「……っ」

 動けないので、固まるしかない。

「冗談じゃないよ」

 耳元で囁かれて、なんだかやけに真剣な感じのするトーンに。
 ……心臓が、どきん、と弾んだ。気が。したような。

 何も言えずに硬直していると、ゆっくりと、腕を解かれた。

「オレ、トイレ寄ってくから。先、寝室行ってて。……奏斗トイレは?」
「……いい」
「じゃ待ってて」

 言いながら、洗面所の電気を消して、そのままトイレに消えていった。

 ……待ってて、じゃねーし。もう。
 一瞬、家に帰ろうと思うんだけど……なんかもうそのやりとりをするのもめんどくさい……。今日はもう、寝ちゃおう。ほんと、眠いし。……色々意味も分かんないし。

 寝室に行くと、ベッドにぬいぐるみが座ってる。
 座って、抱き締めて、その頭に、顎をのせてつぶす。

 ……かわい。
 やわらか。

 ふ、と笑んでしまう。
 ぎゅーと、抱き付いていると。

「うわ……」
 と言いながら、四ノ宮が現れた。
 なんだかものすごく嫌そうだ。こんなに可愛いぬいぐるみを見て、何でその顔、と思ったら。

「それじゃなくてオレに抱き付きなよ」

 とか言ってのける。

「は……? やだよ。四ノ宮、柔らかくないもん」
「は? ちょっとそいつ、マジで寝室禁止。……リビングに持ってくの忘れてた」
「つか、抱っこしに来いって言ったのお前じゃん」
「寝室は無し」
「つか、マジ意味分かんない。こんな可愛いものに、どーしてそんなこと言うんだよ? 四ノ宮が買ったんじゃん」
「――――……」

 四ノ宮が、とっさに何も言わず、数秒黙った。
 その後。すっごい嫌そうな顔をしながらベッドに入ってきたと思ったら、オレからぬいぐるみをすぽんと奪って枕元にそれを置いた。

 それからオレをグイと引いて、そのまま寝転がって、手を伸ばしてリモコンで電気を小さくする。

「……っ気持ちいのに」
「奏斗がこれ抱いてると、オレが奏斗抱けないじゃん」
「……っ抱、かなくていいし」

 カッと顔が熱くなる、と。四ノ宮は、ふ、と笑って、オレの頬をぶに、とつぶした。

「今日は寝ていいよ。さっきすごい眠そうだったし。昨日も疲れてたし、もう今日は遅いし。明日も採寸行かなきゃだしね」
「……っじゃあいいじゃん。ぬいぐるみ」
「だめ」

 そのまま、すっぽり抱き込まれるみたいに。……もう全然放してくれそうな気がしないので、諦めた。


「も。寝る……」
「ん。おやすみ」

 クスクス笑って、四ノ宮が言う。


 絶対おかしい。何度も思うのに。
 ……何してんだろう。オレ。


 でもなんだか。……すぐ、うとうと眠くなって。
 ……そのまま、眠ってしまった。

 なんかオレ最近。すごく寝つき、良い気がするような、と。思いながら。





(2023/4/8)
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