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ずっとそばに
「ありがと」*奏斗
しおりを挟む綺麗に包まれていくそれは、あの日のお礼。
ラブホの近くまで迎えに来てもらって、送ってもらった日の。
……なんて言って渡せばいいんだろ。めちゃくちゃ綺麗に包まれてしまっているお酒を見ながら、ずずーんと、落ち込みそうになるオレ。
あー。ほんとに、葛城さんて、どこまで知ってるんだろう。
……オレ達が、そういうこと、しちゃったの……知ってるのかな。
四ノ宮って、どこまで葛城さんに話すんだろ? 聞いてみようかな……。
もしかして、あの時のことは、知ってるか、想像でもしかしたらと思われていたとしても。
あの後もなんだか色々あって、良く分からないまま四ノ宮に抱かれてるのが続いてるとか……知ってるのかな……。
知らないか。さすがに四ノ宮、言わないよね……。
こんな年齢から見合い相手の話がくるような感じの家で、絶対、四ノ宮を立派に育てようとしてるだろう葛城さんに、オレみたいな奴が張り付いてるとか……言わないよね……。
…………いや、ちょっと待って。
張り付いてるのって、オレ??
そこには、なんだかものすごい葛藤があるんだけど……。
……でも……結果的に形から見れば、大した抵抗もせずに抱かれて、いっぱい色々なことに付き合わせて、世話してもらってしまってるような気が……。
……やっぱり、良い訳ないよな……。
てか、やっぱり、ほんとに何してんだろ、オレ達。
……葛城さんにも言えないし……ていうか、他の誰にも、こんなこと、言えない。言えないような関係。どうしてオレ達、持ってるんだろ……。
「お待たせしました」
包み終わった酒を紙袋に入れて笑顔で差し出してくれる店員さんに、お礼を言って、四ノ宮の元に向かった。
「ごめん、お待たせ」
「おかえり。な、奏斗、誕生日いつ?」
「九月一日。……何で?」
とっさに答えてから、理由を聞いたら、四ノ宮はオレを見て、微笑んだ。
「奏斗が二十歳になったら、一番最初にお酒贈らせて?」
「――――……」
「それまでに、美味しいお酒、調べとくからさ」
何だかすごく楽しそうに笑う四ノ宮。
夏休み明け、かぁ……。
そんな時までオレ達って、ずっと居るかなと頭をよぎったけれど。
何だかそれは言えなくて。特に、頷きもしなかったオレに、返事は求めてないみたいな四ノ宮は「帰ろっか」と、笑う。二人で歩き出しながら、オレは、四ノ宮を見上げた。
「ごめん。結局付き合わせて」
「……ごめんじゃなくてさあ……」
「……?」
「ありがとって言ってくんない?」
そう言って微笑む四ノ宮に、一瞬、不意を突かれた感じで固まった。
確かにそうかも、と思って。「ありがと」と言ったら、自然と笑顔になったんだと思う。そしたら。
四ノ宮は、なんだかやたら嬉しそうに笑って、「ん」と頷いた。
「オレが付き合いたくて一緒に居るんだから、ほんとは礼もいらないんだけどさ。ごめんとか言うんだったら、そっちの方が、嬉しい」
「……ん」
……昔は。ありがとうの方が多かった気がする。
ごめんなんて、そんなに、言わなかったかも。
……なんか。何してくれても、迷惑かけてごめん、とか。そういえば、考え方がそっちになってる気がする。オレなんかのために、ごめん、みたいな。
……なんだかなぁ。そう言われたら、オレって。ちょっと卑屈かも……?……かもじゃないか。うーん……。
「またなんか考えてる顔してるけど……」
「……」
四ノ宮を見上げると、四ノ宮は苦笑いでオレを見つめながら。
「ありがとって言ったら奏斗、笑ったでしょ。今」
「……」
無言のまま、少し頷いたら。
「奏斗もオレも嬉しい方が良いじゃん?」
「……うん。……そうだけど」
「だけど?」
「……なんか四ノ宮にそういうの言われると、なんかムカつく」
「はー??」
ちょっと眉を寄せて、オレを呆れたように見るけど。
声色は、楽しそうで。
つい笑ってしまうと、くしゃくしゃ、と頭を撫でられた。
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