301 / 557
ずっとそばに
「忘れてた」*奏斗
しおりを挟む「何で、誰も曲入れてないの?」
そう聞かれて、小太郎が「原島が彼女出来たとか言うからその話してて」と答えると、斎藤は笑顔になって原島の顔を見つめた。
「そうなんだ、良かったなー?」
「おーサンキュ。あ。来た」
「ん?」
「無事家に着いたって連絡」
スマホを見てホッとしたように笑うと、原島はテーブルの上にスマホを置いた。
「なんかあれなんだよね、今までも一人で帰ったり色々してたのは分かってるんだけどさ。彼女になったら、守らなきゃとか思っちゃうみたいで、一気に心配になっちゃってさ」
「へーーそういうものなんだ」
のんきに答えてる小太郎の隣で、んー、とオレは考える。
四ノ宮の「一緒に帰ろう」は「心配」からきてる気がするんだけど。そもそもオレは女じゃないし。四ノ宮の彼女でもないんだし。
やっぱり、今日も、わざわざ合わせて一緒に帰んなくても良いよな。あいつ、オレに対して、過保護すぎるんだよ……。オレ、大丈夫だし。
……とりあえず歌っとこうかな。
「次、曲入れていい?」
「いーよー」
翠がタブレットを渡してくれるので歌いたい曲を入れてから、立ち上がってマイクを手に取った。
ここに、また四ノ宮が居るんだよな。
焼き肉屋の隣だから、あっちも、皆で行こうってなるのも、分からなくはないんだけど。
……もうとにかくなんか、四ノ宮はオレと居すぎ。だと思うんだよ。
これ歌い終わったら、やっぱり別々に帰ろうって言おう。また明日会えばいいじゃんって……。
そう決めるのだけれど、前奏の間、なんだかなぁ、と息をつく。
だってさ、これで明日は、スーツを作りに行くことになっちゃってるしさ。
週末のゼミ合宿だって、あいつと現地まで車で一緒。オレ、小太郎や翠たちと行けばいいのに。あいつも一年同士で行けばいいのに……。
……オレも、なんだかんだ言って、全然ちゃんと断れてないからいけないような気がしてくる。
再来週はパーティに出なきゃいけないし。……てかそれも別に出なきゃいけないってわけじゃ無いんだけど、葛城さんにお礼を言いたいのもあって軽くOKしたら、スーツまで作ってもらっちゃうことになっちゃったし……出ないわけにはいかないような……。採寸のところに葛城さんが来るならそこでお礼を言って終わりにしても良かったんじゃ……。
ん? ……お礼……?
「……あっ!!!」
やば――――……。
今日葛城さんへのお礼、買いに行こうって言ってたの、完全に忘れてた。明日は学校帰りに待ち合わせて、そのまま行くって言ってたのに。
マイク越しにめちゃくちゃおっきく発音してしまったら、皆、びっくりした顔でオレを見る。今、何時?と時計を見ると。まだ二十二時の閉店までは時間がある。
「ごめん、オレ、急用。買わなきゃいけないものがあったの思い出した。先帰る。ここのお金……」
「明日でいいよ。大丈夫?」
「大丈夫、まだ間に合うから。じゃあ明日、いくらか教えて」
「分かったー気を付けて」
「また明日ー」
「うん、ごめんね!」
オレは、荷物をひっかけて、それから、出口に向かいながら、四ノ宮の電話を呼び出した。コール音が鳴ってすぐ、四ノ宮が出た。
『もしもし?』
「ごめん、四ノ宮、お酒買うの忘れてた」
『ん? ……ああ、葛城の?』
「今から買いに行こうと思うんだけど……」
『……まだ間に合うか。了解、一緒行く。今どこ?』
「カラオケの受付のとこ」
『待ってて、出るから』
電話が切れて、ほんの少し。
急いでる足音が聞こえて、四ノ宮が姿を見せた。オレを見つけると、ふ、と微笑む。……無駄に、イケメンなオーラを振りまいてて、受付に居る店員の女子達が、ものすごい見てる気がするけど。
「奏斗」
「……ごめん。付き合って」
……さっきまで別々に帰ろうって言おうと思ってたのにあほみたいオレ、と思いながら言うと。
四ノ宮は、オレを見て、ふ、と微笑む。
「全然いいよ、行こ」
間髪入れずに頷いて、四ノ宮がオレの腕を引く。そのまま背をとっても軽く押されながら自動ドアを抜けて、駅の方に一緒に歩き出した。
100
お気に入りに追加
1,686
あなたにおすすめの小説
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる