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ずっとそばに
「心配って」*奏斗
しおりを挟む【side*奏斗】
四ノ宮からのメッセージを見て『一応連絡するけど、あわせなくていいからね』と入れたけど特に返ってこないので、スマホをテーブルに置いた。
何だかなぁ、あいつ。
……絶対、分かってやってる。そう思うと、なんかムカつく。
ただ「来いよ」だけだと、オレが断ると思ってて、「犬もどきと待ってる」とか言ったり。オレが「帰りは別で良いじゃん」てことを言うと「置いて帰らないで」とか、なんか急にちょっと可愛い感じ? ……いや可愛くないけど。 なんかその、オレが断りにくいとこを、絶対分かってるような。……なんだかなあ、もう。
オレがどういうのに弱いかとか、全部バレてるみたいで、なんかムカつくし。……あいつが分かってやってること、オレも分かってるのに、なんか言うままになってしまうのも、なんだかもう、意味が分からない。
一緒に帰ったら、一旦自分ちに帰るにしても、結局四ノ宮の部屋に入れられて、一緒にお茶飲んで一緒に寝る、みたいな。当たり前みたいに触れられてキスされて。……大した抵抗もできずに抱かれ……。わー、もう何思い出してるんだ、オレの馬鹿……!
友達の横で、とんでもないことを思い浮かべてしまって、狼狽えていたら。
「え、原島、彼女出来たの?」
そんな小太郎の言葉に、ぱ、と顔を上げる。
「そう。土曜に告白してさ。OKもらえたんだ」
「えー、だれだれ?」
「皆は知らないよ。バイト先の子だから」
「へえ。いいなあ」
小太郎は素直にそんな言葉を口にする。
「すごく可愛い子だから無理かと思ったんだけど」
「つか、即のろけか!」
即ツッコミを入れてる小太郎に苦笑いを浮かべながら、原島はちょっと頭を掻く仕草。
「でもほんと女の子らしい子でさ。ほんとはバイト帰りとかも暗いと心配で」
「おー、付き合ってすぐでもう、過保護か……」
「だって夜道とか、心配じゃん。今日もバイトから帰ったら連絡してねって言ってるんだけど……」
言いながら、スマホを見る原島。ついつい聞きたくなってしまって。
「……それってさ、夜道が心配なのってさ」
「ん?」
「具体的にはさ、どんな心配してるの?」
思うまま聞いてしまったら、皆がふっとオレに注目。
翠と小太郎がオレを見て、クスクス笑う。
「今更、何っていう質問なんだけど」
「彼女居たことのない奴のセリフみたいだけど?」
ほぼ同時に言われたそのセリフに、苦笑い。
皆、そんなわけがないと思ってるみたいで、それ以上はツッコんでこないけど。
……彼女は、居たことない。うん。多分一生できないと思う……。
心の中でつぶやきつつ。はは、と苦笑いを浮かべると。
「痴漢とかも心配だし、怖い奴とか居たら困るじゃん」
そのセリフに、うんうん頷いておく。
……まあそうだよね、心配ってそういうことだよね。しばらく、原島の話を聞いて、一通り話し終わった後、ちょっと聞いてみることにした。
「……あのさ、小太郎さ」
「ん?」
「オレによく、気を付けて帰れよって言うじゃん」
「ああ、それ? うん。だって心配なんだもんな」
「ていうか、それ言ったら私もユキに言っちゃうよね」
あは、と翠が笑う。
「そうだよ、それ、ほんとならオレが翠に言うセリフでしょ」
「だってー、なんか、私よりユキの方が心配で」
「何それ」
「だって……なんかユキって、可愛く見えちゃうんだもんなあ」
クスクス笑って翠が言うので、オレが思わず首を傾げてしまうと、横で小太郎も、分かる、と笑う。
「そーだよ、なんか、すごい変な奴に狙われたりしたら、困るし」
「あー……なんか、ユキは分かる気がする。あ、それでさっき、聞いたのか?」
小太郎と原島に苦笑しながら言われたところに、歌い終えた斎藤が戻ってきた。
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