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ずっとそばに
「なごむ」*奏斗
しおりを挟むしばらく抱き締められて、そのまま、ぽんぽん、と背中をたたかれて、離された。
「コーヒー飲んで、寝る準備しよ。疲れたでしょ今日」
「……」
「奏斗、帰んなくていいからね。一緒に寝るから」
当然のように寝ようって言われてる気がして、何か言おうかと迷っていたら、即、そう言われた。
なんだかすごく甘えすぎてる気がするんだけど、四ノ宮はそれでいいって言うし。考えなくていいって、言うし……。本気でそれでいいとは思わないんだけど、でも、その言葉で少し、力が抜けたのは、確かだった。
オレは、コーヒーを飲み終えて、ふー、と息をついた。
「洗っちゃうから、歯磨きとか、先にすませといていいよ」
「いいの?」
「うん。少しだし」
「ありがと……」
言って、もう寝る時間かと時計を見た。
「あ、ニュース見ていい? 天気予報」
「どうぞ」
マグカップを流しに運ぶ四ノ宮を見てから、リモコンでテレビをつけて、ソファに腰かけた。後ろで、洗ってくれてる音がする。
ちょうど、天気予報が始まったところ。
ふ、と息をつきながら、画面を見ていた。少しして、四ノ宮が、部屋を出て行った。なんとなく、一人で、ぼー、と週間天気予報を眺める。
今週は……月曜は晴れ、火曜は晴れのち雨だって。スーツの寸法行く時は、雨かなぁ……あ、ゼミ合宿は……なんて思っていたら。目の前に何かが影を作った。
「また丸くなってるし。膝抱えないって言ってるよね?」
「――――……?」
むりむり膝に乗っかってきたその物体は。
「……袋開けたの? これ」
「? どういう意味?」
四ノ宮はオレの膝の上に、遊園地で買ったでっかいぬいぐるみを乗せて、オレを見下ろしてくる。
「誰かへのおみやげじゃないの?」
「奏斗にだよ。うちに置いとくから。一人で座る時、抱えなよ」
「……は?」
「好きでしょ、これ。手触りとか、顔とか」
「――――……好き……だけど……」
触れてる感触は、やわらかいおもちみたいで、しっとりしてて。
顔は、あのばってんみたいに笑ってる、さっきオレが 選んだ顔、だし。
「……なに、お前んちに、これ、置くの?」
「そのつもりだったけど? 奏斗んちに置くなら聞いてから買うし。持っていきたいなら良いけど……でもまあ、オレん家で抱っこしてなよ」
「……」
じっと、その、のどかな笑顔を見てたら、ふっと笑いがこみあげてきた。
「お前んちに、似合わないって……」
「いいじゃん。なんか愛嬌あって、可愛いし。和むでしょ、これ」
「……うん。……すごい、好き。可愛い。気持ちいいし」
ほっぺをぷにぷにつぶしながら、そう言っていた。
ぎゅ、と抱き締めると、ふふっと笑ってしまう。
「でも、四ノ宮んちには、似合わないけど」
「いいよ。一人で座ってる時、よかったら抱いてて」
「……うん」
「あー、でも……」
「……?」
「一人で座ってる時だけね。オレが居る時は、避けといて」
「……なんだよ、それ」
クスクス笑ってると、天気予報が終わってしまったのに気づいた。
「あ。見逃した。ゼミ合宿、どうなるか見ようと思ったのに」
「ネットで見なよ」
クスクス笑う四ノ宮の手が、ぬいぐるみの頭をぶにぶにとつぶした。
「これ、手触り、すごいよね」
「うん」
ぎゅー、とぬいぐるみを抱き締めると、しっとりとした感触に体や手が埋まる。
「……すっごい気持ちいい」
「良かった。……奏斗、歯磨いて寝る準備しよ」
「あ、うん」
言われて、ちょっと名残惜しく思いながら離して、ソファの端っこに座らせた。
……可愛い。
抱えてた四ノ宮を思い出すと、これ、オレの為に買って抱えてたのかと思って……なんか、余計に、その姿に和む。
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