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ずっとそばに

「納得いかない」*奏斗

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「あ、そうだ。髪、先に乾かしちゃおうよ」

 そう言った四ノ宮に手を引かれて、ソファの方に連れてこられて座らされる。ドライヤーを持ってきた四ノ宮は、すぐにオレの髪を優しい手つきで乾かし始める。オレが少し振り返って目が合うと、楽しそうに微笑む。

 なんだかなあ……オレ甘えすぎだよね……と、思ってしまう。

 オレの髪を乾かし終えると、四ノ宮は、いいよと言いながら、ドライヤーを片付けに行った。
 オレは立ち上がって、一人コーヒーを飲みながら、なんだかすごく、うーん……とモヤる。

 すぐ戻ってきて、隣に座った四ノ宮を、モヤったまま見上げると、どしたの? と笑われた。

「んー……あのさぁ」
 オレは、持ってたコーヒーを一口飲んで、マグカップを置いた。

「オレ、ちょっと話がある」
「……どうぞ?」

 何だか楽し気に、クスッと笑って、四ノ宮はオレを見つめ返す。

「四ノ宮は、オレが大事だって、言ってたけど」
「うん」
「……オレだって、別に……四ノ宮のことは大事だよ」
「……へえ?」

 面白そうに瞳を細めて見つめられると、なんだか一瞬言葉に詰まるけど、負けず。

「隣に住んでて、なんかずっと一緒に居る時間多いし。オレの悩みも聞いてくれて……なんか色々迷惑かけてるのに、大事って言ってくれるのは、ほんと、感謝、してる」
「うん。……それで?」

「…………でもなんか……オレ、ちょっと……自分のことどうかなって思ってて」
「……どういう意味?」

 少し考えてすぐ、四ノ宮は首をかしげてそう聞いてきた。

「ドライヤーかけて貰ったり……ごはん作ってもらったり……遊園地とか連れて行ってもらって、結局オレ出してないし、んー……なんか……しかも鍵、あげる、とか……」

 ……これは言えないけど、なんか。
 オレ、お前の彼女なの?と、言ってしまいたくなる。……言えないけど。

「うん?」

 なんか四ノ宮は、ニヤニヤして、面白そうな顔してて。
 オレはこんなに、これで良いのかと思ってるのに、何をニヤニヤしてるんだろうか。と、かなり面白くないのだけれど。

「……あと。キスしたり、セックス、したり……」
「うん」

「…………それだけ聞いてたら、オレ、なんか……おかしくない?」
「おかしい?」
「だってなんか……隣同士とか、先輩後輩とか、そういう仲だとしないことばっかり、な気がして、なんかオレ、ここらへんに慣れてきてる自分に、なんか納得が……」
「納得が、いかないの?」
「……うん。いかない。……何してんだろ、オレって思う」
「ふーん……」

 クスクス笑いながら、四ノ宮はコーヒーを一口。
 そのまま、四ノ宮はオレを見つめて、しばらく黙ってたけど。
 ふ、と笑んだ。

「コーヒー、美味しいから」
「え?」

「奏斗が淹れてくれるコーヒー、美味しい」
「……うん、それは……ありがと」

「だから、それも飲みたいし。奏斗が元気じゃないと、コーヒーも美味しくないでしょ」
「…………」

「奏斗には元気で居てもらって、オレにコーヒー淹れてくれたらいいなあって思うし、一緒に飲みたいし。元気で居てもらうために、ご飯も食べさせたいし」
「――――……」

「……キスやセックスは、オレがしたいから。あと、奏斗が誰かとそれをしたくならないように。オレとしたいって思ってくれたら良いと思ってるけど。それから……鍵か。鍵は、持っててくれたら色々便利だと思ったから」

「――――……」

「だから、今の形が良いし、このままずっと続けばいいって思うから。オレはそう思ってるから、奏斗が嫌じゃなければ、この状態に納得してもらえたらいいんだけど。……これじゃ、答えにならない?」


 …………何か今、短い間に、なんかものすごく、色々言われた。

 コーヒーが美味しいっていうのは、分かった。
 ……それが飲みたいから、オレに元気で居てほしい?? だからご飯も一緒に? キスとかは、四ノ宮がしたいから? オレが他の人としないように……ずっと今のまま……。


「……ごめん何か……頭いっぱい」
「うん。まあいいけど。ゆっくり考えてくれて」

 四ノ宮の手が、不意にオレの方に伸びて来て、頬に触れる。

「オレの大事は、隣に住んでるとか、そう言うのが理由じゃないけどね」

 ふ、と可笑しそうに笑うと、ゆっくり、近づいてくる。
 何を、されるのか、分かってるのに。

 オレは、動けなくて。 
 そのまま、もはや何を言ってるのかよく分からない、四ノ宮のキスを受けてしまった。



 
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