283 / 551
ずっとそばに
「納得いかない」*奏斗
しおりを挟む「あ、そうだ。髪、先に乾かしちゃおうよ」
そう言った四ノ宮に手を引かれて、ソファの方に連れてこられて座らされる。ドライヤーを持ってきた四ノ宮は、すぐにオレの髪を優しい手つきで乾かし始める。オレが少し振り返って目が合うと、楽しそうに微笑む。
なんだかなあ……オレ甘えすぎだよね……と、思ってしまう。
オレの髪を乾かし終えると、四ノ宮は、いいよと言いながら、ドライヤーを片付けに行った。
オレは立ち上がって、一人コーヒーを飲みながら、なんだかすごく、うーん……とモヤる。
すぐ戻ってきて、隣に座った四ノ宮を、モヤったまま見上げると、どしたの? と笑われた。
「んー……あのさぁ」
オレは、持ってたコーヒーを一口飲んで、マグカップを置いた。
「オレ、ちょっと話がある」
「……どうぞ?」
何だか楽し気に、クスッと笑って、四ノ宮はオレを見つめ返す。
「四ノ宮は、オレが大事だって、言ってたけど」
「うん」
「……オレだって、別に……四ノ宮のことは大事だよ」
「……へえ?」
面白そうに瞳を細めて見つめられると、なんだか一瞬言葉に詰まるけど、負けず。
「隣に住んでて、なんかずっと一緒に居る時間多いし。オレの悩みも聞いてくれて……なんか色々迷惑かけてるのに、大事って言ってくれるのは、ほんと、感謝、してる」
「うん。……それで?」
「…………でもなんか……オレ、ちょっと……自分のことどうかなって思ってて」
「……どういう意味?」
少し考えてすぐ、四ノ宮は首をかしげてそう聞いてきた。
「ドライヤーかけて貰ったり……ごはん作ってもらったり……遊園地とか連れて行ってもらって、結局オレ出してないし、んー……なんか……しかも鍵、あげる、とか……」
……これは言えないけど、なんか。
オレ、お前の彼女なの?と、言ってしまいたくなる。……言えないけど。
「うん?」
なんか四ノ宮は、ニヤニヤして、面白そうな顔してて。
オレはこんなに、これで良いのかと思ってるのに、何をニヤニヤしてるんだろうか。と、かなり面白くないのだけれど。
「……あと。キスしたり、セックス、したり……」
「うん」
「…………それだけ聞いてたら、オレ、なんか……おかしくない?」
「おかしい?」
「だってなんか……隣同士とか、先輩後輩とか、そういう仲だとしないことばっかり、な気がして、なんかオレ、ここらへんに慣れてきてる自分に、なんか納得が……」
「納得が、いかないの?」
「……うん。いかない。……何してんだろ、オレって思う」
「ふーん……」
クスクス笑いながら、四ノ宮はコーヒーを一口。
そのまま、四ノ宮はオレを見つめて、しばらく黙ってたけど。
ふ、と笑んだ。
「コーヒー、美味しいから」
「え?」
「奏斗が淹れてくれるコーヒー、美味しい」
「……うん、それは……ありがと」
「だから、それも飲みたいし。奏斗が元気じゃないと、コーヒーも美味しくないでしょ」
「…………」
「奏斗には元気で居てもらって、オレにコーヒー淹れてくれたらいいなあって思うし、一緒に飲みたいし。元気で居てもらうために、ご飯も食べさせたいし」
「――――……」
「……キスやセックスは、オレがしたいから。あと、奏斗が誰かとそれをしたくならないように。オレとしたいって思ってくれたら良いと思ってるけど。それから……鍵か。鍵は、持っててくれたら色々便利だと思ったから」
「――――……」
「だから、今の形が良いし、このままずっと続けばいいって思うから。オレはそう思ってるから、奏斗が嫌じゃなければ、この状態に納得してもらえたらいいんだけど。……これじゃ、答えにならない?」
…………何か今、短い間に、なんかものすごく、色々言われた。
コーヒーが美味しいっていうのは、分かった。
……それが飲みたいから、オレに元気で居てほしい?? だからご飯も一緒に? キスとかは、四ノ宮がしたいから? オレが他の人としないように……ずっと今のまま……。
「……ごめん何か……頭いっぱい」
「うん。まあいいけど。ゆっくり考えてくれて」
四ノ宮の手が、不意にオレの方に伸びて来て、頬に触れる。
「オレの大事は、隣に住んでるとか、そう言うのが理由じゃないけどね」
ふ、と可笑しそうに笑うと、ゆっくり、近づいてくる。
何を、されるのか、分かってるのに。
オレは、動けなくて。
そのまま、もはや何を言ってるのかよく分からない、四ノ宮のキスを受けてしまった。
86
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる