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ずっとそばに

「嫌な訳は…」*奏斗

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 四ノ宮は、そのまま黙ってた。観覧車の一周が終わるまで。
 オレも、綺麗な景色を見たまま、何も言葉が出てこなくて。

 少し視線を向けても、四ノ宮は少し微笑んだみたいな顔で、外を見ていて、別にオレに答えを求めて待っている感じでもない。嫌な沈黙、という雰囲気では無かった。だから、無理に話さずに無言で過ごして、観覧車を降りた。

 観覧車の乗り場からの階段を下り始めてすぐ、閉園をしらせる音楽とアナウンスが鳴り始めた。
 階段を下りたところで、なんとなく向かい合う。


「これでもう乗り物終了だね……今日は、満足しましたか?」

 四ノ宮がクスッと笑ってオレを見つめるので、オレもまっすぐに四ノ宮を見つめ返して、頷いた。

「……なんか悔しいけど……すっごい楽しかった」

 そう言ったら、少しの間、オレをまじまじと見つめてから、ぷっと吹き出した。

「何で悔しいの?」
「……なんとなく」

「はは。おもしろいな、ほんと」
 楽しそうに笑うと、四ノ宮は、その手を、オレの背中に、ぽんと置いた。

「帰る前に、おみやげ屋さん、行こ」
「誰に買うの?」
「んー……葛城?」
「あ、そうなの。じゃあオレも買う。真斗にも買ってこうかな」
「ん、とりあえず出口の手前に一番おおきなおみやげ屋さんがあるみたいだから」
「あ、あるある。最後に買ってけーって感じの」
「ん。いこ」

 一緒に並んで歩き始める。

 ……さっきの、観覧車で言われたこと。
 なんか、答えないとダメだよな。
 …………でも別に、オレに何かしてほしいとかいう話じゃなくて……大事だから覚えといてって……あれに、オレは、なんて答えればいいんだろうか。

 大事。……大事、だからって。オレだけにするとか。
 そんなこと、言われたら。なんだかすごく特別みたいで。
 ……じゃあオレにとって、四ノ宮は? て、さっきから思ってる。

 部屋隣だし、ゼミ一緒だし、なんか関係性として、離れられない感じではあるけど。……でも、少し前まで、ゼミでも個人的に話さずに来たし、隣に住んでることを知らない位だったし。だから別に、そんな風な関係に戻ることだって可能な訳で……。

 オレが、四ノ宮のことを、ほんとに嫌だったら、四ノ宮は、離れるって言ってた……よな? 
 本気で嫌だって言わない限り側に居るって言ってたし。

 ……で。オレは……四ノ宮のことを、本気で嫌かって、話で……。

 そんなのは決まってる。
 嫌な訳ないし。

 …………こんなに意味不明なくらい、側で色々してくれて。
 本当は聞きたくないだろうなって話も、あんなに聞かせちゃったのに、変わらず……ていうか、いつも、助けて、くれて。
 嫌な訳ない。

 ……ていうか、オレが嫌っていう立場じゃない。
 むしろ、四ノ宮の方が、面倒くさいから嫌だって、言う側だよね。どう考えたって。オレが嫌っていう権利なんか、無くない?
 迷惑とか心配とか、イライラさせたりとか。嫌な気持ちにもさせてると思うし。だから。何で、そんな風にしてくれるのか、分からないというのかな……。

 そんなことを考えながら歩いていると、四ノ宮が不意に、ふ、と笑った。

「……そんな険しい顔して、何考えてんのって思うけど……」
「……」

 ……え。オレ今険しい顔してた?
 言われたことに驚いて、四ノ宮を見上げると、四ノ宮は苦笑しながら、オレの背をまた、ぽんぽんと叩いた。

「さっきのオレの言ったことだったらさ」
「……」

「別にオレ、すぐ何か答えてとか、思ってないから」
「――――……」

「オレは、思ったこと、隠さないで言ってくから。あと……大事なのは変わんないと思う。こんだけ、色々話聞いてても……ていうか、聞いたからかな。とにかく、誰かに任せるんじゃなくて、オレが、自分で、奏斗を大事にしたい」
「――――……」

「てことで。オレがあんたにするすべては、大事だからってことで……そう思ってて」
「…………」

 「大事」だから……。


「……ちょっと……」
「うん?」

「……よくわかんないから、考えさせて?」


 とてもすぐ、分かったと言える気がしなくてそう言うと、四ノ宮は、にっこり笑って、好きなだけどーぞ、と言って頷いた。




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