上 下
277 / 554
ずっとそばに

「嫌な訳は…」*奏斗

しおりを挟む

 

 四ノ宮は、そのまま黙ってた。観覧車の一周が終わるまで。
 オレも、綺麗な景色を見たまま、何も言葉が出てこなくて。

 少し視線を向けても、四ノ宮は少し微笑んだみたいな顔で、外を見ていて、別にオレに答えを求めて待っている感じでもない。嫌な沈黙、という雰囲気では無かった。だから、無理に話さずに無言で過ごして、観覧車を降りた。

 観覧車の乗り場からの階段を下り始めてすぐ、閉園をしらせる音楽とアナウンスが鳴り始めた。
 階段を下りたところで、なんとなく向かい合う。


「これでもう乗り物終了だね……今日は、満足しましたか?」

 四ノ宮がクスッと笑ってオレを見つめるので、オレもまっすぐに四ノ宮を見つめ返して、頷いた。

「……なんか悔しいけど……すっごい楽しかった」

 そう言ったら、少しの間、オレをまじまじと見つめてから、ぷっと吹き出した。

「何で悔しいの?」
「……なんとなく」

「はは。おもしろいな、ほんと」
 楽しそうに笑うと、四ノ宮は、その手を、オレの背中に、ぽんと置いた。

「帰る前に、おみやげ屋さん、行こ」
「誰に買うの?」
「んー……葛城?」
「あ、そうなの。じゃあオレも買う。真斗にも買ってこうかな」
「ん、とりあえず出口の手前に一番おおきなおみやげ屋さんがあるみたいだから」
「あ、あるある。最後に買ってけーって感じの」
「ん。いこ」

 一緒に並んで歩き始める。

 ……さっきの、観覧車で言われたこと。
 なんか、答えないとダメだよな。
 …………でも別に、オレに何かしてほしいとかいう話じゃなくて……大事だから覚えといてって……あれに、オレは、なんて答えればいいんだろうか。

 大事。……大事、だからって。オレだけにするとか。
 そんなこと、言われたら。なんだかすごく特別みたいで。
 ……じゃあオレにとって、四ノ宮は? て、さっきから思ってる。

 部屋隣だし、ゼミ一緒だし、なんか関係性として、離れられない感じではあるけど。……でも、少し前まで、ゼミでも個人的に話さずに来たし、隣に住んでることを知らない位だったし。だから別に、そんな風な関係に戻ることだって可能な訳で……。

 オレが、四ノ宮のことを、ほんとに嫌だったら、四ノ宮は、離れるって言ってた……よな? 
 本気で嫌だって言わない限り側に居るって言ってたし。

 ……で。オレは……四ノ宮のことを、本気で嫌かって、話で……。

 そんなのは決まってる。
 嫌な訳ないし。

 …………こんなに意味不明なくらい、側で色々してくれて。
 本当は聞きたくないだろうなって話も、あんなに聞かせちゃったのに、変わらず……ていうか、いつも、助けて、くれて。
 嫌な訳ない。

 ……ていうか、オレが嫌っていう立場じゃない。
 むしろ、四ノ宮の方が、面倒くさいから嫌だって、言う側だよね。どう考えたって。オレが嫌っていう権利なんか、無くない?
 迷惑とか心配とか、イライラさせたりとか。嫌な気持ちにもさせてると思うし。だから。何で、そんな風にしてくれるのか、分からないというのかな……。

 そんなことを考えながら歩いていると、四ノ宮が不意に、ふ、と笑った。

「……そんな険しい顔して、何考えてんのって思うけど……」
「……」

 ……え。オレ今険しい顔してた?
 言われたことに驚いて、四ノ宮を見上げると、四ノ宮は苦笑しながら、オレの背をまた、ぽんぽんと叩いた。

「さっきのオレの言ったことだったらさ」
「……」

「別にオレ、すぐ何か答えてとか、思ってないから」
「――――……」

「オレは、思ったこと、隠さないで言ってくから。あと……大事なのは変わんないと思う。こんだけ、色々話聞いてても……ていうか、聞いたからかな。とにかく、誰かに任せるんじゃなくて、オレが、自分で、奏斗を大事にしたい」
「――――……」

「てことで。オレがあんたにするすべては、大事だからってことで……そう思ってて」
「…………」

 「大事」だから……。


「……ちょっと……」
「うん?」

「……よくわかんないから、考えさせて?」


 とてもすぐ、分かったと言える気がしなくてそう言うと、四ノ宮は、にっこり笑って、好きなだけどーぞ、と言って頷いた。




しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜

桐山アリヲ
BL
 大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...