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ずっとそばに

「待ってた?」*大翔

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 次のゾーンは。……廃校、だな。
 むしろ昔の日本や井戸とかよりも、実感として割と身近に想像できるこういう方が、怖いんじゃないかなと思うが。

 奏斗、どこ行った……。
 とりあえず、居ない。……ように見える。
 もしかして、あれかな。もうすぐ出口で、もう、駆け出て行って中に居ないとか?

 驚かそうとしてくる声や音を聞きながら、これ、居たら耐えられないんじゃねえのかな。マジでどこだ? 下手にオレが出ちまって、まだ中にいたら、オレ、置いて出て行ったことになるんじゃねえの? それはかなりまずい気がする。

「奏斗?」
 隠れられそうなところ、すべて覗き込みながら、少しずつ進む。

 くたびれた風景の学校の廊下。踏めばギシギシと鳴るとか、無駄に凝ってる。オレが少し笑った位で驚いてたのに、大丈夫かと本気で心配になりながら。

「奏斗ー!」

 先を見ると、階段を降りるしかない感じ。
 降りれたかなあ、ここ。あの感じで、階段、降りれた気はしないんだけど。

 通りかかったのは、音楽室。不気味な肖像画と、いかにも勝手に鳴り出しそうなピアノが置いてある。
 ……ここには入んねえだろうし。
 向かいの教室。ここは、普通の教室に見えるけど――――……ああ。普通じゃなかった。一つの席に薄暗いライトが当てられてて、枯れた花が無造作に入れられた花瓶が置いてある。それでも、向こうにある理科室とかトイレよりはましだろうと思って、教室に足を踏み入れると、子供の泣き声。

「――――……奏斗?」

 返事はない。
 とりあえず、あそこだけ見てから……。

 思いながら、教卓の下を覗いた瞬間。

「あ。居た」

 心底ほっとしてそう言ったのだけれど、完全に耳を塞いでて、反応なし。だから呼んでたのに返事もなかったのか。

「奏斗」

 丸くなってる奏斗に、そっと、触れる。
 びくう!と震えた後。バッとオレを見て。

「~~~~ッ」

 しゃがんだオレに、抱き付いてくるものだから、バランス崩して尻をついた。尻もちついてるオレの上に奏斗がもうのっかってるみたいな感じ。

「……しのみや……」

 この人からぎゅーとしがみつかれるのは、悪い気はしないなー、と思いながら。ポンポン、と背をたたく。

「大丈夫?」

 聞くと、ぶるぶる首を横に振ってる。

「大丈夫じゃないの?」
「……!!」
「ん? なに?」

「……じ、人体模型に追いかけられた。もー無理……」

 想像しただけで、ぶ、と笑ってしまう。
 ぎゅう、としがみつかれて。可愛いけど。

「オレの手離すからでしょ」
「……だってさっきの、頭が…………」
「あれね、多分遠近法使われてて身長が分かりにくかったけど、普通に一人手術着の中に入ってて、上に乗せてた頭を落として抱えただけだったんだよ。頭が落ちたわけじゃないから。大丈夫」
「……そうなの……?」
「そうだよ」

 クスクス笑いながら、背中を、よしよしと撫でてあげていると、少し落ち着いてきたみたい。

「人体模型、どこまで追いかけてきたの」
「……理科室覗いたら動いて、こっちに向かってきた……」
「廊下も追いかけられた?」
「……分かんない、見てないから」

 ……多分そいつは、理科室のドアも出ていないんじゃないんだろうか。本気でそんなもんが追っかけてきたら、今の時代訴えられそうな気もするし。

「……奏斗」

 ぎゅ、と抱き締める。

「大丈夫、もうほんと、離さないから」
「…………っつか。オレが、離れただけだし」

 ……うんまあ。そう言ったら、その通りなんだけど。
 苦笑いしか浮かばないけれど。


「オレのこと、待ってた?」
「……」

 そう聞いたら。
 一瞬、躊躇ったみたいだったけど。

 こくこく、と小さく頷いてるのが、なんか本当に可愛くて。
 ふ、と顔がどうしても綻ぶ。




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