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ずっとそばに

「似てる?」*大翔

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 色々乗りながら園内を回っていると、大きなショップに通りかかった。

「おみやげだよね、見てみよう?」
「ん、いいよ」
 中に入ると、めちゃくちゃ広くて、これでもかとグッズが並んでいる。

「うわーすご。どんだけ商品、あるんだろうね」
 感心したように言いながら、端から歩いて見ていく。

「この変な犬みたいなのさぁ、ここのキャラクターだよね」
「ですね、園にもいっぱい居ますしね。……犬かな?」
「犬みたいだけど……犬ではないかも。つか、憎めない顔ー」

 ぬいぐるみをひとつ、ひょいと抱いて、ほっぺをぶにぶにつぶしだした。

「やっわらかー、このぬいぐるみ」
 あはは、と奏斗が笑い出して、一人でウケてる。

「そういうの好き?」
「え。好きっていうか……触ってみ?」

 そう言われて、ぬいぐるみに触れてみると、なんだかすごくしっとりした感触で、確かにものすごく柔らかい。

「あぁ、気持ちいいね」
「だろ? なんかこの顔も、憎めないし……」

 クスクス笑いながら、ぶにぶにつぶして、楽しそうにしてる。

「……あ」
 変な声を出して、奏斗が固まってから、そのまま何も言わず止まってる。

「ん? どしたの?」
「んー……怒んない?」
「え? 何で?」

 いきなり「怒んない?」ってどういうこと?

「オレ怒んないと思うけど?」
 そう答えると、奏斗はクスクス笑いながら、オレを見上げる。

「なんか似てる」
 ぷぷ、と吹き出しながら、そう言う。

「……は? オレに?」
「うん。なんだろ……ふてぶてしい目とか。何か言いたげな口元とか?」

 ……確かに、可愛いっていう見た目のキャラクターじゃないし。なんだかちょっとおもしろい顔した犬……もどきだけど。

「……似てます?」
 そうかなあと、じっと見つめてみるけれど。

「似てないと思うけど……」

 ……奏斗にとって、オレがこういうイメージってこと? ふてぶてしいって……。
 と、思うと。かなり可笑しい。

「……怒ってない?」
「怒んないよ、そんなんで」
 ふ、と笑ってしまう。

「奏斗はこれがオレに似てるって思うんだなと思うと、ちょっと笑えるけど」
「……何か似てるって、咄嗟に思った」

 そんな風に言いながら、そのぬいぐるみの頬や頭をグリグリつぶしてる。

「ちょっと待って、似てるって言いながらそんなにつぶされると、オレがつぶされてるみたいで、どうかなって思うんだけど」

 呆れて笑いながらそう言うと、奏斗はあは、と笑い出した。

「それ、楽しいかも」
「――――……」
「四ノ宮だと思って、つぶすの」

 可笑しくてしょうがない、みたいな感じで笑っているのを見ていると。

 ……なんかほんとに可愛く思えて。
 このままずっと、笑ってたらいいなと、思ってしまう。

「あ。怒った?」
「だから、そんなので怒らないって」
「そう?」

 クスクス笑いながら、ぬいぐるみを棚に戻して、奏斗はまた歩き出す。

「あとで、真斗にお菓子買っていくから、帰り寄っていい?」
「いいよ。もうなんでもどこでも付き合うってば。あれだよね、出口の手前にも大きいショップあったよ」
「じゃあそこで最後に買えばいっか。四ノ宮は誰かにおみやげ買う?」

 ……おみやげ。遊園地の。

「オレが遊園地に行ったって言って、誰かにおみやげ持ってくのとか……」
「ん?」
「……あると思う?」
「…………あってもいい、んじゃないかなあ……」

 少しの沈黙の後、クスクス笑いながら、そんな風に言ってる。

「無いと思ってるよね?」
「そんなことないよー、あってもいいと思うよー。さ。ジェットコースター乗りにいこー」

 棒読みみたいに言いながら、店の出口に向かって歩き始める。
 絶対無いと思ってるな。……まあ、無いけど。


「ん? ていうか、またジェットコースター乗るの?」
「うんー」

「何回目だっけ?」
「んー……分かんない」

「乗る限界の回数とかないのかな?」
「何それ」

「これ以上乗ったら、気持ち悪くなりますとか」

 言うと奏斗、プッと吹き出した。

「無いよ、そんなの。早く行こ?」
「はいはい」

 渋々頷きながらも、その笑顔は――――……やっぱり、良いなと。
 思う。








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