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ずっとそばに

「ジンクス」*大翔

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 奏斗は、しばらくは少し怒ったみたいにそっぽを向いていたけれど、高度が上がるにつれて、笑顔になってくる。

「マンション、あっちだよね?」
「ですね」
「どれかは分かんないねー。あれが駅かなあ……?」

 窓からのぞき込んでいた奏斗はそう言ってオレに視線を向けてくる。

「なんとなくそんな感じ、かな?」
「ちょっと遠いね」
 そう言うと、座り直して、また色んな窓からあちこち楽しそうに眺めてる。

「奏斗、高いとこ、好き?」
「うん、好き」
「そっか」
「夜も、絶対乗ろうね?」
「いいよ。ていうか、もう、好きなだけ乗りなってば。全部付き合うから」
「ん。ありがと」

 そう言って笑って、しばらく静かに外を眺めていると、観覧車の一番上に差し掛かった。そこでふと、思い出す。

「ここでキスすると永遠だってジンクス、知ってる?」
「……知ってる。ていうか、観覧車ってみんな、その類のやつ、無い?」
「あるのかな? オレはここ調べてた時に見かけただけ。他は知らないかも」
「そうなんだ……ていうか。迷信だよね」

 奏斗が、ちょっと苦笑い。

「どこかで一緒に写真撮ったら別れないとか、ここでキスしたら、とか。鐘を鳴らしたらとか、色々あるじゃん」
「……ていうか、意外。迷信とか、言っちゃうんだね。そういうの、信じそうなのに」
「んー。……ていうか、そんなので、日々の色んなのが乗り越えられる訳ないじゃんって思うだけ」

 笑顔で言ってるけど。
 ……一応は、笑ってるけど、なんか諦めてるみたいな。


「今、キスしてみる?」

 オレが言うと、は?という顔をして、オレを見る。

「し・な・い!」
 一つずつ区切って、バッサリ断られる。

「つか、永遠になったら、どーすんの?」

 信じてないって言ってるくせに、そんな風に聞いてくる。

「いいよ、永遠になったらなったで」

 そう言ったら、すごく嫌そうな顔で見られた。

「……四ノ宮はほんとに、もうちょっと考えて話した方がいいよ」
「考えて話してるけどね、オレ」
「絶対嘘。何も考えてないでしょ」
「嘘じゃないよ」

 そんな押し問答を少しの間続けていると、奏斗が、ふ、と笑った。

「……ていうか、もう真上じゃないから、意味ないよ」

 奏斗は言いながら、クスクス笑う。
 言う通り、観覧車はもう完全に下り始めていて。
 オレがちょっとムッとしてると、奏斗はますます可笑しそうに笑う。

「……つか、キスするなら、真上じゃなくても意味あるけどね」

 そう言うと、奏斗はオレに視線を向けて、それから、ぷは、と笑い出した。

「何でそんな笑ってンの?」

「なんかさぁ。四ノ宮の方が意外なんだもん」
「何が?」

「永遠にしたいから観覧車の真上でキスしようなんて、彼女が言ったら、めんどくせーとか、絶対言いそうだから」
「……確かに言いそうですけど」
「だよね?」

 うんうん頷きながら、まだクスクス笑ってる。

「……でも、奏斗には言わないよ」
「……ん??」

「そんなに好きでもない女に言われたらめんどくせえって言うかもだけど、あんたには言わない」
「――――……」

 絶対、言わねーし。
 まっすぐ見つめてると。

 奏斗は眉を顰めて。

「お前ほんと、よくわかんない」

 と言って、またしばらく窓から外を眺めてる。

 伝わってないんだか。
 伝わってるけど困ってるんだか。

 良くわかんないけど。
 ……まあいいや。


 また夜、ここ乗るし。
 その時、また迫ってみようかな。


 ……諦めてるみたいな苦笑いが気になるから、話、聞けそうなら聞くし。



「もう終わっちゃうね」

 少し残念そうな奏斗。


「もう一回乗りますか?

 そう聞くと。


「ううん。……絶叫系いこ!」


 元気に笑顔で言われて、今度は、こちらが苦笑い。


 ほんとどんだけ好きなの。




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