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ずっとそばに
「当たり前に」*大翔
しおりを挟む昼食を終えてから、奏斗と観覧車に並んだ。
絶叫系とかよりは混んでて、しばらく家族連れやカップルに混ざって列に並ぶ。
「小さい頃ね、真斗は観覧車が怖くてさ」
「うん。そうなの? 意外」
「オレが小学生で、真斗が幼稚園とかの頃ね」
「ああ、そんな小さい頃」
「真斗が、ひーんて顔してるのをオレが、抱っこして、周りが見えないようにしてあげてる写真があるんだよね」
「はは。 可愛いね」
「でも観覧車に乗ってるのに、下向いてて、オレが抱き締めてて、ほんとおかしな写真なんだけど……」
クスクス奏斗が笑う。
「小さい頃はオレが守ってたんだけどなあ……」
「けど、何?」
「最近は心配されてる気がしてて」
苦笑いの奏斗を、まっすぐ見下ろす。
奏斗の言葉は、たまに、自分のことをしょうがないなと言う内容のものが入ってくるけど。真斗に対しての言葉にも、それが入る気がする。
「――――……あのさ」
「ん?」
「真斗が心配してんのは、奏斗のことが大好きだからだし」
「……」
「そうやって、ずっと守ってきた兄貴が好きだから、心配してるんだよね」
「……」
「心配させてんのが嫌なら、心配させないようになればいいと思うけど。心配させてるから悪いってことはない、と思うけど」
「――――……」
「いいじゃん。弟にそんなに心配してもらえる位、好かれてる兄貴なんだって、喜んでなよ」
奏斗が、何とも言えない顔で、オレを見てるけど。
……まあ、思うのはそんなとこだけど。
「オレ、姉貴居るけど、まあ気ぃ強いし、顎で使われてた気がするから、心配はしない。まあオレが心配しなくても強いから全然平気だろうし」
少し真面目に言いすぎて恥ずかしくなってきたので、そんなことを追加で言ったら。奏斗は、ふ、と微笑んだ。
「だから弟感、すごいんだね」
「え」
ちょっと……いや、かなり嫌だけど。
「弟感って何。そんなもの、ある?」
「……ん、ある」
「マジで?」
……何それ、弟感って。
すげえやなんだけど。
「――――……何だろ。さっさと動くっていうか。持ってきてーとか、そういうの言われなれてるっていうか? 弟って、そんなイメージあるんだよね。一人っ子とか、兄貴は、動かないんだよね、そういうの。分かる?」
「……分からなくはないけど。弟感とか、ちょっと嫌」
「んなこと言ったって、感覚だからしょうがないじゃん?」
ふふ、と奏斗は笑ってるけど。
……マジで、嫌。
もう、何か取ってくるとか、動くのやめよう。
つか、よく考えたら、オレは奏斗の世話やきすぎ? 取ってくる、持ってくる、あれこれしすぎかも?
なにこれ、姉貴のせい? と、突然姉貴への怒りが浮かんだり、よく分からない感情が忙しい。
……どっしり座ってりゃいい訳? 分かんねえな。
そんなことを思いながら、しばし無言でいるオレを奏斗が見上げてくる。じっとオレの顔を見た後。
「……弟感はあるけど。……それって優しいってことだから。別に……嫌な訳じゃ……」
「――――……」
……オレ今変な顔してた?
なんか、気を使わせてんのかなとも思ったけど。
なんか少し照れてるっぽい言い方に、一秒で、落ちてた気が上向く。
ああもう。ほんとに可愛いな……。
「どうぞー」
何か奏斗に言う前に、係員に呼ばれ、観覧車に乗り込む。
「すっごい、これ。ハートがいっぱい。ていうか、これ、男同士で乗る想定されてないのかな」
めちゃくちゃ可愛い観覧車の内装に、奏斗が面白そうに笑ってる。
「まあ並んでるの見ても、カップルと家族連れが多かったですもんね」
「だからってここまで可愛いと、恥ずかしいよね」
クスクス笑いながら、色んな所の可愛い装飾を見て、あれこれ言いながら、楽しそうに笑っている。
「――――……」
ふと、外を見ると。下からはもう見えず、前後からは、ちょうど死角。
思った瞬間に、奏斗の腕を引いた。
「え」
「――――……」
びっくりして見開かれた瞳を見つめながら、唇を重ねる。
すぐ外すつもりだったのに、外せなくて、少し深くキスすると。
「見え……るっつの……!」
怒った顔した奏斗に、離される。
――――……顔、赤。
「ごめんね。……つい」
「……ついじゃねーし」
もう。油断も隙もないっていうか、もう……。
とか、全部は聞こえないような声で、ぶつぶつずっと言ってる。
ふ、と笑ってしまうと、笑うな、と怒られたけど。
……気づいてるかなあ、この人。
何でキスすんの、じゃなくて。
誰かに見られるっていう文句しか、言ってないこと。
敢えて、言わねえけど。
……意識してない文句が、それだけって。
オレは、嬉しいし。
――――……もっともっと、オレにキスされるの、当たり前になればいい。
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