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ずっとそばに
「デート」*大翔
しおりを挟む車で奏斗を連れてきたのは、マンションから三十分位の所にある、遊園地。適度に広く、適度に色々あり、でもそこまで有名じゃない故に、そんなに混んではいない。そう言って女子たちが誘ってきたが、やんわり断って一度も来たことはなかった。
遊園地なんて。何が楽しいんだ? ずっとそう思ってた
待ち時間が長い割に乗ったらすぐ終わる乗り物ばかり。
はっきり言って、ジェットコースターとかもまったく怖くないし、速いもの高いものスリル系もお化け屋敷も、全部苦手なものなし。
となると、何が楽しいのか、全く意味を見出せず。
待ち時間を、ずっと立ったまま、女子と会話し続けなければいけないとか、想像しただけでも面倒くさい。はっきり言って、関係を深めたいっていうなら、食事行ってホテルの方がよっぽど有意義……と思ったこともある。誰にも言ったことはないが。
そんな感じなので、オレが遊園地に来るのは、いつぶりだか覚えていない位。いつだったか。中学の時かな。高校、どっか連れていかれたような……と、行った時の記憶すら定かではない。
そんなオレが――――……。
「うわー……なんか、もしかして、とは途中から思ってたんだけど……」
たどり着いた駐車場で、車から降りて、そびえたつ観覧車を見あげながら、奏斗が笑う。
「四ノ宮に、遊園地のイメージが全くないから、ここを通り過ぎて違うところに行くんだと信じてた」
クスクス笑いながら、オレに視線を映してくる。
「あんたと、入ってみたくて」
「――――……遊園地行ってみたい、じゃなくて、オレと入ってみたいって、どんな言い方?」
鋭い突っ込みが飛んでくるけど、多分オレの遊園地嫌いを知らないので、変な言い方だなという位で思っているんだろうが。
遊園地に行きたい、では決してなくて、奏斗と行ってみたいだけ。
多分オレとは違って、素直に色々楽しんでくれそう、と思って、その顔が見たいだけ。
「あ、一応聞くんですけど」
「うん?」
「遊園地、好き?」
ん? と奏斗がオレを見上げて、それから、ふ、と笑んだ。
「遊園地嫌いな人、居んの?」
奏斗のその言葉に、よしオッケー、とも思うが。
ここに居ますけど、とも思い、なんだか苦笑いが浮かぶ。
「どこに連れていかれるのかと思ったけど。……この遊園地久しぶり。高校ん時に来た以来」
「誰と?」
「友達と何人かで」
……そん中に、和希は居んのかな。
よぎったけど、奏斗が何を思ってる素振りもないので、余計なことは聞かない。
「早くいこ?」
着いたら俄然やる気の笑顔になってる奏斗に、ふ、と笑んでしまう。
そうそう。その笑顔が見たくて、一緒に来たかったんだよな。
……そんな風に思ってる自分が何だかもぞもぞと痒いような気がする。でも本当に自然とそう思ってしまうものは、しょうがない。
もう十二時近い時間なので、入場する人は少なくて、チケット売り場は空いていた。
「四ノ宮、何買う? そんなに乗らないなら回数券とか? 観覧車は別売りだって。乗る??」
奏斗が案内の表示を見て、あれこれ言っているので、聞いてみる、と自販機ではなく、店員の居るチケット売り場に行く。
「全部好き放題乗れるチケットあります?」
「はい、こちらですね」
「大人二枚で」
ついてきた奏斗が、オレの言葉が聞こえたみたいで、クスクス笑ってる。
店員からチケットを受け取って、奏斗を振り返ると、めちゃくちゃ楽しそうにまた笑う。
「何でそんなやる気満々なの」
クックッと笑いながら、奏斗がオレを見上げる。
――――……楽しそうで、連れてきてよかったなと、今既に思い始めている。
「あ、いくらだって?」
奏斗が笑いながらも、財布を取りだそうとするので、「今日は無しで」と止めると「無しって何?」と聞いてくる奏斗に、チケットを渡しながら、じっと見つめる。
「今日は、デートだからオレが全部出すから、財布出さないで」
「――――……でぇと……?」
言いながら、最後、ん? と首をかしげてるのが。
……何だかすげえ可愛いとか。
まったくもって、ほんとに意味が分からないことばかりだけれど。
「そう、デートだから。分かった?」
「デートって聞いてないけど……」
「だから、無理無理デートに付き合ってもらうから、そのかわり全部出すねって言ってるの。良い?」
数秒言葉に詰まってた奏斗は。ふ、と苦笑いを浮かべて、オレを見上げた。
「無理無理って……別にオレ、遊園地は好きだから、いいよ?」
「デートっぽいこと付き合ってもらうし」
「……変なことするなら、帰るけど」
「しないって。さすがにこんな健全なとこで……」
じー---、と見つめてくる奏斗から目を逸らし、さあ行こう、と背中を軽く押した。
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