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揺れる
「ふと気付くと」*奏斗
しおりを挟むとりあえず……コーヒー淹れよう。
四ノ宮が葛城さんとしばらく電話してるので、オレはなんとなく暇で、コーヒーを淹れることにした。
四ノ宮の家のキッチン。豆やカップやその他諸々、どこにあるかが分かる。
もう何回も、淹れてるから。
……これも変だよな。
「奏斗」
「ん?」
「火曜、暇?」
「五限の後なら……」
ん、と頷いて、そのまま四ノ宮がまた電話の続き。
何だかなあ。
……オレ、四ノ宮の家のパーティに、出るのか。
スーツまで、作りに行って。
わざわざ。
……でもまあ。葛城さんには会えるか。
――――……葛城さんて。
四ノ宮とオレのこと、どこまで知ってるんだろ。ある程度はきっと、知ってるんだよね。でもって……どう思ってるんだろう。
……会ってお礼を言えるのはいいけど。うう。やっぱり、ちょっと嫌かなあ。
……でももう、あれ、絶対、行くことになってるし。
四ノ宮の後ろ姿を見ながら、コーヒーにお湯を落としながら小さくため息。
「――――……」
その時。
なんだか、ふっと、突然、気づいた。
――――……オレ、朝から、四ノ宮とのことばっか、考えてるなあって。
それに気づくと、あれ?と、更に不思議に思うのは。
……昨日から、和希のことを、あんまり、考えていないということ。
オレ、昨日、ついに和希に会ってしまったのに。
ずっと、思い出さないようにして。その為に昔の友達まで避けて。
あんなところで、会ってしまうとか。
――――……本当に。どうしようって、会った時は思ったのに。
……四ノ宮が、和希のとこに、行ってくれて。
――――……もう大丈夫って言って。側に居るからって言って。
ぽたぽた落ちていくコーヒーを見つめながら。
――――……なんだか、うまく考えられない。
オレ、本当に和希には、もう会いたくないって思ってたんだ。
自分がどうか、なっちゃうかもって。
もしどこかで会って、平気で、久しぶりとか言われたら。
元気だったとか、聞かれたら。
恋人が、和希にできてるって、話を、されたりしたら。
……色んな、再会時のやり取りを、勝手に想像して。
オレ、そん時、普通に対処できそうな気が、しなくて。
だから、絶対、会いたくなかった。
少し前に、真斗から、和希にオレの連絡先を聞かれたって聞いた時だって、手が震えて止まらなくて。泣いて、訳わかんなくなってたのに。
「――――……」
……なんかオレ。
昨日は、思っていよりも。動揺してなかったかも。会った時は、どうしようかと思ったけど……。
――――……四ノ宮が、大丈夫って、言い続けてくれてた、から……かな。
一人で考えてたら、耐えきれなくてクラブに行ってしまったけど、行った割には、全然その気にもなれなくて。触れられた手が気持ち悪くて。四ノ宮のことが気になって、とてもそんなことをできる気はしなかった。
クラブを出た時に、ホッとして。
――――……迎えに来てくれた四ノ宮と帰ってきて。
一緒に、ご飯、食べて。
――――……一晩中。あんなことになって。
「奏斗?」
不意に驚いたみたいな声で呼ばれて、え?と四ノ宮を見ると。四ノ宮はまだ電話中だったのに、びっくりした顔でオレの手元を指した。
「溢れるよ?」
「え。……あ」
マグカップに注いでたコーヒーが、もうあと僅かで零れる寸前。
「わ……なにこれ」
四ノ宮は苦笑いを浮かべながら、電話に戻っていった。
熱くて飲めない。これじゃ、ミルク入れられないし、四ノ宮に飲ませよ……。
なんて思いながら、苦笑い。
「――――……」
一晩というか、朝まで、あんな風に。
…………あのせいで、オレ。
……和希のこと、ほとんど考えなくて。
――――……今日が始まっても、ずっと、四ノ宮とのことだけって。
でもおかげで――――……泣きも、震えもしてないし。
ドツボみたいな感情にも、はまらないで、済んでる。……ような気が、してきた。
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