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揺れる

「胃袋」*奏斗

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 リビングに行くと、四ノ宮がドアまで来てて、オレの背に触れた。

「どんだけ綺麗に顔洗ってんの」

 クスクス笑って、そんなことを言う。

「早く座って。食べよ」
 オレが椅子に座るまでは背に触れてた手が、そっと離れて、四ノ宮も隣に座る。

 この、背に触れられる感じ。

 ――――……昨日。クラブで声をかけてきた奴に、触られた時。
 ぞわ、て。したんだよね。それは、ゾクゾクしたとかじゃなくて。ゾワゾワ。……嫌だったんだ、気持ち悪くて。

 ……別に嫌いなタイプじゃなかった。
 顔、わりと良かったし。清潔感あって、嫌な感じはしなかったし。
 強引な感じもなかった。
 多分、前だったら、触れ方も、優しいし、ありかなって思ったはずだった。

「いただきます」
「うん。どうぞ」

 目の前にあるのは、フレンチトーストで。めちゃくちゃ美味しそう。

「……何でも作れるんだね」
「ん? ああ、これは初めて作ったけど」
「そうなの? すごい、おいしそうだけど」
「料理って、基本が出来れば、あとはレシピ見れば何でもできると思うけど」
「……器用だよね、色々」
「そう?」

 ……ほんと、なんでもできるよな。

 思いながら、ぱく、と口に入れると。

「うま……」

 甘すぎず。ふんわり、幸せな味。

「よかった、おいしい?」
「うん」

 頷いて。なんだか、優しい笑い方に、どう対応していいのか困っていると。
 目の前の唇が、ニヤ、と笑った。

「疲れたかなーと思って。昨夜と、朝もさ。ちょっとだけ、お詫びね」
「――――……」

 疲れたって。

 ……恥ずかしいな、もう。何なの、お前。
 そういうとこだよ、そういう、なんかヤな感じの所がなければもっと……。

 ジロと睨んで、クスクス笑いながら自分も食べ始めた四ノ宮から視線を逸らす。

 ――――……もっと。
 ……もっと、何だろ?

 はて。
 思いながらも、モグモグ食べ続けていると。
 四ノ宮がクスッと笑って、オレを見つめる。

「オレの作るごはん、うまい?」
「……うん」

 それはそれは、とても。

「――――……そっか。よく、女が、胃袋掴むとかいうじゃん?」
「うん」

「オレんちの食事はプロの人が作ってたし、葛城もうまいしさ。だから、そこらへんの女に胃袋掴まれることはないなと、オレ思ってたんだけどね」
「はあ」

 それはそれは。
 何とも言い難い、現象だけど。

 なんて思いながら、それもどうなんだろう、大変だななあ、と思って、ふ、と笑ってしまうと。

「でも、オレ、奏斗の胃袋はつかめるかもね」

 クスクス笑って言ったセリフが、それ。

「――――……」

 胃袋だけなら、若干、掴まれかけているような……。
 そう思ったけど、なんかムカつくから、それは、言わない。

 無言のまま、食べ続けてると、四ノ宮はまた何を思っているんだか、楽しそうだし。何かムカつくし。

 ……でも、美味しいし。
 むー……。

「つか……オレの胃袋掴みたいの?」

 そう聞くと。
 ぱっとオレを見て、不思議そうな顔をした。

「当たり前じゃん。だから言ってるし」
「――――……」

 当然、みたいな顔をされて。
 伸びてきた手が、とんとん、とオレの胃の辺りに触れる。

「オレのごはんだけ食べたいってなればいいって思ってる」
「――――……」

 触れられたお腹のところ。なんか、くすぐったくて。
 触んないで、と自分の手で撫でてると。

「何で? 今更」
 クスクス笑いながら、またオレの頬に触れてくる。

「もー。あちこち、触んなってば」

 オレが、そう言ったら。四ノ宮は、ふ、と笑んで。
 
「やだよ? 触るし」
 言って、ぷに、と頬をつまむ。

「――――……ッ……」


 何でか、全然分かんないけど。
 なんか。ちょっと恥ずかしいし。


 なんで、こんな宇宙人に照れなきゃいけないんだと思いながら、ぷい、と顔を背けて、食事に集中。
 オレを覗き込むようなことは無くて。
 笑い交じりの吐息とともに。

 なんか、頭を軽く撫でられる。



 だから、触んなって、言ってるのに……。
 でも顔は見せたくないから、スルーして食べ続けることにする。




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