245 / 551
揺れる
「胃袋」*奏斗
しおりを挟むリビングに行くと、四ノ宮がドアまで来てて、オレの背に触れた。
「どんだけ綺麗に顔洗ってんの」
クスクス笑って、そんなことを言う。
「早く座って。食べよ」
オレが椅子に座るまでは背に触れてた手が、そっと離れて、四ノ宮も隣に座る。
この、背に触れられる感じ。
――――……昨日。クラブで声をかけてきた奴に、触られた時。
ぞわ、て。したんだよね。それは、ゾクゾクしたとかじゃなくて。ゾワゾワ。……嫌だったんだ、気持ち悪くて。
……別に嫌いなタイプじゃなかった。
顔、わりと良かったし。清潔感あって、嫌な感じはしなかったし。
強引な感じもなかった。
多分、前だったら、触れ方も、優しいし、ありかなって思ったはずだった。
「いただきます」
「うん。どうぞ」
目の前にあるのは、フレンチトーストで。めちゃくちゃ美味しそう。
「……何でも作れるんだね」
「ん? ああ、これは初めて作ったけど」
「そうなの? すごい、おいしそうだけど」
「料理って、基本が出来れば、あとはレシピ見れば何でもできると思うけど」
「……器用だよね、色々」
「そう?」
……ほんと、なんでもできるよな。
思いながら、ぱく、と口に入れると。
「うま……」
甘すぎず。ふんわり、幸せな味。
「よかった、おいしい?」
「うん」
頷いて。なんだか、優しい笑い方に、どう対応していいのか困っていると。
目の前の唇が、ニヤ、と笑った。
「疲れたかなーと思って。昨夜と、朝もさ。ちょっとだけ、お詫びね」
「――――……」
疲れたって。
……恥ずかしいな、もう。何なの、お前。
そういうとこだよ、そういう、なんかヤな感じの所がなければもっと……。
ジロと睨んで、クスクス笑いながら自分も食べ始めた四ノ宮から視線を逸らす。
――――……もっと。
……もっと、何だろ?
はて。
思いながらも、モグモグ食べ続けていると。
四ノ宮がクスッと笑って、オレを見つめる。
「オレの作るごはん、うまい?」
「……うん」
それはそれは、とても。
「――――……そっか。よく、女が、胃袋掴むとかいうじゃん?」
「うん」
「オレんちの食事はプロの人が作ってたし、葛城もうまいしさ。だから、そこらへんの女に胃袋掴まれることはないなと、オレ思ってたんだけどね」
「はあ」
それはそれは。
何とも言い難い、現象だけど。
なんて思いながら、それもどうなんだろう、大変だななあ、と思って、ふ、と笑ってしまうと。
「でも、オレ、奏斗の胃袋はつかめるかもね」
クスクス笑って言ったセリフが、それ。
「――――……」
胃袋だけなら、若干、掴まれかけているような……。
そう思ったけど、なんかムカつくから、それは、言わない。
無言のまま、食べ続けてると、四ノ宮はまた何を思っているんだか、楽しそうだし。何かムカつくし。
……でも、美味しいし。
むー……。
「つか……オレの胃袋掴みたいの?」
そう聞くと。
ぱっとオレを見て、不思議そうな顔をした。
「当たり前じゃん。だから言ってるし」
「――――……」
当然、みたいな顔をされて。
伸びてきた手が、とんとん、とオレの胃の辺りに触れる。
「オレのごはんだけ食べたいってなればいいって思ってる」
「――――……」
触れられたお腹のところ。なんか、くすぐったくて。
触んないで、と自分の手で撫でてると。
「何で? 今更」
クスクス笑いながら、またオレの頬に触れてくる。
「もー。あちこち、触んなってば」
オレが、そう言ったら。四ノ宮は、ふ、と笑んで。
「やだよ? 触るし」
言って、ぷに、と頬をつまむ。
「――――……ッ……」
何でか、全然分かんないけど。
なんか。ちょっと恥ずかしいし。
なんで、こんな宇宙人に照れなきゃいけないんだと思いながら、ぷい、と顔を背けて、食事に集中。
オレを覗き込むようなことは無くて。
笑い交じりの吐息とともに。
なんか、頭を軽く撫でられる。
だから、触んなって、言ってるのに……。
でも顔は見せたくないから、スルーして食べ続けることにする。
63
お気に入りに追加
1,602
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる