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揺れる

「ムカつく」*奏斗

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 色々考える間に、顔の熱は引いたけど、なんだかもう、起きる気がしなくて、ぐったり倒れていたら。結構経ってから、四ノ宮が戻ってきたみたいで、静かにドアが開いた。ドアに背を向けて、布団にもぐってるのをいいことに、動かずに居ると。

「奏斗……?」

 四ノ宮が手をついたと思われるところが、ぎし、と軋んだ。
 すぐに頭に、手が触れてくる。

「奏斗、起きれる?」
「――――…………」

 ゆっくり振り返ると。
 ――――……四ノ宮は、なんだか、すごーく、さっぱりした顔をしていて。
 にっこり笑う。

「おはよ。一回、朝食べない?」
「……」

「食べても眠かったら、寝てもいいから」
「――――……起きる」

 言いながら、体を起こすと、オレはまだ裸で。
 ……下半身は布団に入ってるからいいけど。

「……そう? 寝ててもいいのに。ていうか、オレも一緒に寝るし」

 ふ、と瞳を細めて笑うその感じが。
 ……最初の頃、四ノ宮を胡散臭いと思っていた頃とは、別人みたいで、なんだかすごく、不思議。だってあれ、そんなに遠い昔じゃないし。

 オレの見る目が、変わったのか、四ノ宮が変わったのか。
 よく分かんないけど。

 とにかく、笑い方が、自然すぎて。……何で、その笑顔をオレに向けるんだて思う位、優しい感じで。

 ……やっぱり、とことん、意味が分からない。


「……宇宙人……」
「――――……は?」

「……て感じ。お前……」
「……はー?? 寝起きに、それを一番に言う?」
「――――……」

 寝てないし。起きてたし。

「……っとにもー。何なの、あんた」

 呆れたように笑って、四ノ宮が、ベッド下に落ちていたオレの服を、オレの布団の上に乗せた。

「ごはん出来てるから先食べよ? シャワー浴びたいなら後で浴びて?」
「……うん」

 ……なんか昨日、オレ、ぐちゃぐちゃになってた気がするけど……。
 拭いてくれたのかな。あんまりその形跡は無いような気がする。 


「服、着て? 行こうよ」
「……ん」
 頷くと、四ノ宮はオレを見下ろして、笑いながら、部屋のカーテンを開けた。

「置いてったら動かなそうだから着るの待ってるよ」

 クスクス笑いながら、四ノ宮はベッドに腰かけた。
 別に、すぐ行くのに。そう思いながら。でも待たれてるとなると仕方なく、服を着始める。

 下着を身に着けてからベッドの端に移動して、ズボンをはいて、完了。
 着終えた瞬間、手首を取られた。

「行こ」

 言いながら振り返り、笑って見せてから、四ノ宮は歩き始める。 
 そのまま、引かれながら寝室を出て、洗面所に入れられた。

「パン焼いとく。顔洗ってきてね」
「……ん」

 最後、背中をポンポンと優しく叩いて、四ノ宮は、姿を消した。

「――――……」


 顔を洗って、タオルで拭く。
 なんかほんとに――――……四ノ宮の顔を見るのも、恥ずかしい気がする。


 オレがあんなに乱れることを、四ノ宮は、普通だと、思ってるんだよな。
 ……きっと、いつも誰かに抱かれる時ずっとああなってたんだって、思ってる、筈。

 ――――……そんなことは、ないんだけど。

 ……正直、演技入ってた時もあるし。
 毎回、すごく気持ちいいってよりは、わりと気持ちいいか、演技が必要かみたいな感じだった気がする。
 ……ていうか。
 四ノ宮とシてから、オレって抱かれてる時どうだったかを、ちゃんと認識したのかもしれない。

 正直、和希としてた時のことは……いまいち参考にならない。大好きだったから、それだけでもう嬉しくて、気持ちよかったし。ああいうこと、覚えたてで夢中だったし。

 和希と別れて、大学生でクラブに行くようになってからは。
 ……演技もできるし、それがバレたこともないって思ってて。……快感を、わざわざ追おうとしてたし。触られれば気持ちいいし。快感はあった、と思うけど。

 ……四ノ宮にされてる時は、演技しようとか、わざわざ追おうとか、一切してない。……ていうか、出来ない。
 頭ん中、真っ白で。
 次々気持ちよくて。どうしたらいいか、よく分からない位。

 ……うまいのかなあ。すごく。

 ほんと。……ムカつくなー。
 ……なんでもできるって感じ。

 四ノ宮にされてる時のオレが。他の奴にされてる時のオレと、イコールだと、思われるのが、何か、嫌だ。
 いつもあんなに乱れてたのかと、思われると、もう恥ずかしいし。

 ……でもだからって、四ノ宮にされてる時だけ特別なんていうのも、なんか…………いや、それは、もっと嫌な気がする。

 ……これ、どうしたらいいんだろ。
 ――――……なんだかなぁもう……。



「奏斗、まだ?」

 リビングの方から、四ノ宮が呼ぶ声。
 ちょっと息をついて。――――……リビングに向かった。




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