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揺れる

「ホッとする」*奏斗

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 驚いて、何も言えずに、ただ見上げていると。
 ちょっとムッとした顔でオレを見ていた四ノ宮は、ふーと息をついた。

「相手は?」
「……相手?」

「見つかんなかったの?」
「――――……気分、乗らなくて……」
「ふうん……で、今から、どこ行くの?」
「――――……帰ろうかなって……」

 そう言った瞬間。ふ、と四ノ宮が微笑んだ。
 手首を掴まれて、歩き出す四ノ宮についてく。

「……え、どこ行く……」
「車で来たから。一緒に帰ろ」
「――――……」

 ともすれば手をつないでるみたいに見えるのも分かってたけど。
 なんだか、振りほどけず。四ノ宮について歩く。夕方の街は人も多くて、すれ違う人達は、誰もこちらに気づかないし、振り返らない。

「店に乗り込もうかと思ったけど……とりあえず中見たら、奏斗はリクさんのとこに居たし。あんたが、自分でやめなきゃ意味ないと思って、外で待ってた。もし誰かと出てきたら、彼氏の振りして修羅場演じてやろうかと思ってたけど――――……」
「……」

 一体、何を言ってるんだ……。
 修羅場演じるって……。

 少し俯いて、四ノ宮について歩いているオレを、ふ、と振り返ってから。
 四ノ宮は、また、笑った。

「誰とも出てこなかったから、許してあげるよ」
「――――……」

 そう言う四ノ宮の顔は、なんだかすごく、嬉しそうで。
 …………意味が分からない。

 そもそも、四ノ宮に、許すとか言われることじゃ、ない。
 と思うんだけど――――……。

「オレんち、帰ろ。肉を焼けば食べれるれようになってるからさ」
「――――……」

「あ、店で何か食べた?」
「……食べてない」

「そっか、良かった」

 ふ、と笑いながらオレを見て。
 パーキングに入ると、オレの手を離して、車の鍵をリモコンで開ける。

「……帰ろ?」
「――――……」

 じっと見つめられて、そう言われて。
 オレは。

 少し視線を外したけど。
 ――――……ん、と、頷いた。

 さっきあんなに、背中に触れられるのが嫌だったのに。
 ……手首をつかんでる手の熱に、ホッとしたとか。

 ……意味、分かんないなと思いながら、車の助手席に乗り込んだ。


 車を走らせ始めながら、四ノ宮がオレをチラッと見た。

「声、掛けられた?」
「……うん」
「何て?」
「……前にも会った人で、もう一度どう?って」
「それで?」

「――――……断った」

 そう言うと、四ノ宮は、しばらく無言。


「何で、奏斗があそこに行ったのか――――……オレ的に想像してんのはさ」
「……?」

「一人で色々考えてたら、嫌になってきて、誰でもいいから気持ち良くなって何も考えたくないって、あほみたいに投げやりになった、って感じかなと」
「――――……」

「……でも、実際行ったら、こないだのこともあるし、少し怖くて、結局リクさんとしゃべって、誘いも断って帰ったきたとか……そんな感じ?」

 ――――……うん。まあ。大体、あってる……のが嫌だけど。
 でも、乗り気じゃなかったのは――――……別にこないだの怖かったことが原因じゃ、ない。

 四ノ宮に電話して――――……気を付けてとか言われて。
 そこからどんどん乗り気じゃなくなった、んだけど。

 ……四ノ宮が、ていうのは……言わない方がいいよな。
 意味わかんないし。

「合ってる?」

 信号で止まると、四ノ宮がオレを見つめてくる。

「……大体は、あってる、かな……」

 そう答えると。
 四ノ宮は、むー、と口を閉ざしてから。

 左手をオレの頭に置いて、くしゃくしゃと撫でる。

「……ほんと馬鹿だけど――――……自分で出てきたから、セーフかな?」

 また嬉しそうで。

 ……どうして、こんなことで、そんなに嬉しそうに笑うんだろうと。
 四ノ宮の笑顔を、ただ、見ていた。





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