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揺れる

「気持ち悪いとか」*奏斗

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「一人?だよね?」

 隣に座られて、否応なく、視線を向けた。

 ……まあ顔は良いし……清潔感も、あり。
 ……ていうか、見たことある、かも。

「――――……」
 じっと顔を見ると、その人はにっこり笑った。

「あ、覚えててくれた?」
「――――……」
「ユキくん、だよね?」

 小さく頷く。

「雪ってぴったりだなと思ったから、覚えてた」

 ――――……名前は全然思い出せない。
 でも、悪いイメージが浮かばないから、良い感じで終わって、良い感じで別れたんだと、思う。

「良かったら、またどうかな」

 そう言うその人の手が、オレの背に触れる。
 顔には出さなかったけど――――……なんでだか、ぞわ、として。
 ……それは、感じたとかじゃなくて。……悪寒、みたいな。

 あれ。
 ――――……何。

「……あ、の、すみません……今日はもう帰ろうと思ってて」
「そうなの?」
 残念だなあ、とか言って、まだ話を続けている。
 背中の手が、気持ち悪い。どうしよう、と思っていたら。

「お客さん、今日その子、体調良くないみたいで」

 戻ってきたリクさんが、一瞬で状況が分かったみたいで。
 こちらに近づきながら、優しい口調で、そう言った。

「そうなの?」

 体調悪くはないけど、リクさんの助け舟に頷かない訳がない。オレが頷くと、やっと背中から手が離れた。

「じゃあまた次の機会に。……あ、良かったら、連絡して?」

 その彼は、オレに名刺を渡して、消えていった。
 ――――……本名なのか偽名なのかも分からないけど。
 名前と携帯番号が書いてある。

「……捨てとこうか?」

 リクさんが苦笑いで言ってから、「あ、まだこっち見てるから、とりあえずポケットに入れといて、後で処分して」と笑った。
「あ、はい」
「四ノ宮くんに見つからないようにね?」
「――――……別に……」

 あいつは、知ってるし。オレのこと。全部。してたことも。
 今更名刺が一枚増えたからって別に。

 そう思いながら、とりあえず、ポケットに名刺を入れて、何となく、背中を両手で擦った。

 さっき。……気持ち悪かった、なあ……。なんであんなに。

「ユキくん、今日はもう、帰る? 何か食べてく?」
「……今日はもう帰ります」

「そっか。……気を付けてね」
「はーい。リクさん、また」

 そう言って立ち上がると、リクさんはにっこり笑って、手を振ってる。
 誰にも話しかけられないように、誰とも目を合わせずに、オレは店を通り抜けて、出口への階段を上った。

 ドアの外に出ると――――……なんだか、ホッとした。
 なんか、こういう感覚は、今まであんまりなかったかも。

 相手を見つけて一緒に店を出て、ホテルを探す。
 ――――……むしろ、少し緊張しながら出ていたかも。
 ホッとしながら店を出たとか。初めてかもな……。

 ……帰ろう、かな。家。
 スマホの時間を見ると、まだ早い。

 ――――……四ノ宮。どうしてる、かなぁ……。
 今まで気にしたことなかったけど、鍵開ける音とか、それって隣に聞こえるのかなあ。どうなんだろう……。帰ったら呼び出しくらったりして……やだなあ。

 なんて思いながら、スマホをポケットにしまって、歩き出そうとした時だった。進行方向の目の前に、背のでっかい人が立ちふさがった。

 え、邪魔……。何……。
 見上げると。

「――――……」


 今、思ってた相手が、急に目の前に立つとか。
 びっくりしすぎて、何も言葉が出ない。





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